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(3)我ら熟年探偵団 |
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鳴り続けるベルの音に、国広泰平はようやく起き上がった。
頭の芯が痛い。昨夜は、中学同窓会の二次会でさんざん飲んで、家に帰りついたのも覚えていない。 目覚ましをオフにしてベッドから抜け出した。よろけながらトイレに行って小便をし、ついでに顔を洗うと、少しは気分がましになった。 山家先生の姿はない。朝の散歩にでも行っているのであろう。 氷入りの水を飲んでいると、先生が散歩から戻ってきた。 山家昌輔――高校時代の恩師である。問題児だった泰平は、なにかと騒動を引き起こしたが、そのたびに山家先生が面倒を見てくれた。 母子家庭で育った泰平にとって、先生は父親のような存在だった。 社会人になった泰平は、定職が身につかず、雑多な職を次々と変えた。それでも人並みに妻帯できたが、1年と経たずに別れた。 山家先生との縁は続いていた。それがどこでどう間違ったのか、二人はデキてしまった。結果、どちらも一人住まいだったので、同棲を始めた。泰平が55歳のときだから、もう10年以上続いている。 散歩から戻った先生は、浴室に向かった。ジャージ姿の身体から、かすかに汗の匂いが漂ってくる。 泰平はたちまち発情した。 「センセー、ちょっとこっちに来てよ」 「ダメ、これからシャワーを浴びるんだから」 「その前にやろうよ。俺、センセーの汗の匂いが好きなんだ」 強引に先生の身体を抱きしめたところで、携帯が鳴りだした。所長の有栖二郎からだった。 「もしもし――」 ――タイへー、出かける用意をしてろ。すぐ車で寄るからな。 「ダメ、これから先生とハッピータイムを過ごすんだ」 ――朝っぱらからなに盛ってる。昨夜は飲みすぎだろ、お前が立たない方に賭ける。だから早く服を着ろ! 「裸になったばかりだ。なんと言われようと、やるからな」 ――だったら5分で済ませろ。もう近くまで来ている。 「無茶言うな。俺はそんなに早撃ちじゃない」 ピンポーン!玄関のチャイムが鳴った。 かまわず心地良いピストン運動を続けていると、ピンポン、ピンポン、ピンポン、チャイムの連打が始まった。 これじゃあ気が散って、やってられない。 断腸の思いで先生から離れて、足音も荒く玄関ドアを開けに行った。 外には有栖二郎が立っていた。 「今日は浅草に行くと言っていただろうが。忘れたのか!」 大園とかいう依頼人の調査開始だと分かっていたが、高飛車に言われて、泰平はカチンときた。それで思わず言った。 「朝っぱらから大声出すなよ――この短小」 パンツ一枚姿の下腹部を見下ろして、二郎はせせら笑った。 「短小だと?俺のチ○ポをしゃぶってみろよ。顎を外すぜ。――だいたい、短小なのはお前のほうだろうが。バツイチのくせに」 「ふん、結婚したこともない人間に言われたくないね」 泰平は言い返したが、どだい役者が違った。 二郎はのうのうと返した。 「俺の性的成熟期はまだ先だ。今は発展途上男子。あと10年はかかるな」 二郎の運転する車で浅草に向かいながら、二人は調査方法を確認した。 「まずは、大園が連れ込まれたホテルがウタマロかどうか、それを確かめる」 「てことは、俺たち二人が客としてウタマロに行くってか――嫌だよ、ジローさん。だったら俺、センセーを連れて行くよ」 「そうかい、残念だな。調査ついでに、タイへーのお肉がたっぷりと付いた尻に突っ込みたかったけど」 「ジローさん!」 「ハハ、冗談だ。まあ、どうやってホテルに入るかは、様子を見て考える。ウタマロの親父は、一人でフロントにいるはずだ。親父の目さえ逸らすことが出来れば、何とかなるだろう」 車を有料駐車場に入れると、二人は歩いてホテル・ウタマロのある街区をぶらついた。ポルノショップや風俗営業の店が立ち並ぶ、いかにも妖しい通りだった。朝なので人通りはなく、店もほとんどが閉まっている。 ホテル・ウタマロの前で小太りの男が、掃き掃除をやっている。丸顔、額が大きく禿げあがって、小ずるそうな顔は、ちょいと泰平に似ている。 「あれがオーナーだ」 二郎は言って、なにやら考えている。 ホテルのある路地に直行した通りに派出所がある。その手前には小さな公園があり、10歳くらいの男の子が二人、所在無げにたむろしている。 二郎は公園のほうに歩いて行って、子供たちに話しかけた。 「おい、ぼうずたち、学校はずる休みか」 大人に声をかけられて、子供たちは挑戦的に顔をしかめたが、一人がぶっきらぼうに返事をした。 「違うよ。今日は休校日だ」 「ふーん、そうか」 二郎はうなずいて、のんびりと話しかけた。「ところで、ボクたち、小遣い稼ぎをしたくないか?」 「何をやればいいんだい?」利発そうなほうが聞き返した。 「あの路地に入ったところに、掃き掃除をしている禿げのオヤジがいるだろ。 ほら、ここからも見える。派出所に行ってポリ公たちに、あの親父がボクたちのズボンをおろして、厭らしいことをしたって言いつけろ」 「いくらくれるの?」 「奮発して――千円だ」 子供がすかさず返した。「ひとり2千円じゃなきゃ、やらない」 「なにおっ、大人だって時給千円の世の中だぞ」 二郎はそこでグッとこらえた。「ほら、4千円だ」 子供は素早く金を受け取ると、ふたりで分け合ったあと、派出所に向かって歩きだした。 「クソッ、可愛げのないガキだ。世の中、どうなっちまってるんだ」 立ち去る子供たちを見ながら、二郎がいまいましげにつぶやいた。 その横では泰平が、子供たちにあんなことを頼んでおいて、よく言うよ、と言わんばかりに二郎の顔を見ていた。 しかし子供たちは、期待以上の働きをした。警官と一緒に派出所から出てきた子供たちは、半ベソをかきながら、通りの向こうを指さして涙声で訴えていた。 その演技は、まさにアカデミー賞ものだ。 憤慨した警官たちが、さっそくホテル・ウタマロに向かって駆けだした。そして数分後には、ホテルの親父は何が何だか分からず、ただ警官たちの殺気立った剣幕に押されて、派出所のほうに引っ張られていった。 それを横目に、二郎たちは涼しい顔でホテル・ウタマロに向かった。 ホテルに入ると、まず受付窓の部屋に入った。宿の台帳は棚の下にあった。 宿泊客がおざなりに住所氏名を記帳していた。ところどころ同じ文字で書かれた欄があって、おそらくホテルの親父が客の代わりに記帳したのだろう。見かけによらず、几帳面な文字だった。 大園に日付とおよその時刻を聞いていたので、目的のカ所はすぐ見つかった。 ホテルの親父の文字で、「ワタル、錦糸町」と書かれていた。状況から推測すれば、親父はワタルとかいう男を知っているようだ。 このあと証拠の念押しとばかり、マスターキーを持って各部屋に行った。全部屋10室ほどだった。どの部屋も同じようなもので、ダブルベッドのある部屋にバストイレ付き、大園の言っていた男色浮世絵が壁に飾られていた。浮世絵は2種類あった。番頭と丁稚、それに殿様と小姓が絡んでいるシーン。二郎はそれらをスマホで撮影した。 階下におりたところで、警察から釈放されて戻ってきたホテルの親父とばったり出会った。親父は仰天して叫んだ。 「な、なんだ、お前たちは!」 「誰もいないんで、中で待たせてもらったよ。あんたに聞きたいことがあるんだ。ワタルとか言うチビのデカマロ君、知ってるよな」 「そんなもん知らん。帰ってくれ」 「おや、モウロクしたのか。ちょいと物忘れを治してやるか」 二郎は親父の左手を両手で掴んだ。掌の痛点を押されて、親父が悲鳴をあげた。よほど痛いのか、肉付きの良い顔にあぶら汗が滲み出ている。 「どうだ、思い出したか」 親父は強情だった。苦痛の涙ながらに「こんなことをして――訴えてやる」 「へーえ、警察に駆け込むわけだ。お巡りさん、男の人に乱暴されました。俺が好きなのは子供だけなのに――ってな」 親父は気づいた。「お前たちの仕業だなっ!」 「反省が足らん。もうちょっと泣いてもらうか」 指に力を加えた途端、親父の口から先ほどより切迫した悲鳴があがった。 ぎゃあっ!痛い――痛いからやめて――。 さすがの親父もとうとう屈服した。そして聞かれるままに、知っていることを話しだした。 河合亘(ワタル)48歳。錦糸町の安アパートに住んでいる。独身のフリーターで、たまにホテル・ウタマロのアルバイト仕事もやっている。 一通り聞き終わると、二郎は親父に命令した。 「じゃあ、ワタルの携帯番号を知ってるな。なにか口実をつけて、こっちに呼び出してくれ。分かってると思うが、俺たちのことは何も言うなよ」 ウタマロの親父から臨時の仕事があると聞いて、河合亘は大急ぎでやってきた。このところ金欠病で困っていたところだ。 ところがホテルに着くと、怖い男たち二人が待ち受けていた。男前と禿げ、彼らに両サイドからガッチリと押さえられて、2階の部屋に連れて行かれた。 そしてあろうことか、二人がかりで彼の服を脱がしだしたのだ。この間、男たちは終始無言である。 「な、何をするんです。いやっ!やめてっ」 初めて亘は騒ぎだしたが、多勢に無勢、あっという間に素っ裸にされた。 「たしかに、でかいな」 亘の下腹部を見て、男前が「さあてと」と言いながら、亘の身体を軽々と抱え上げた。ついでベッドの上に落とした。 「可愛らしい体をしてるじゃないか。どうれ、お尻のほうはどうかな」 片脚が引き上げられ、胸のほうに押さえつけられた。 「おっ、ウケもやってるんだ。尻穴がだいぶ弛んでるぜ」 自分の恥ずかしいところを見られて、亘は抗議した。 「あなたたちは何なんです。こんなことをして――」 男前は黙ってポケットから写真と紙切れを出すと、目の前に掲げた。この前、亘が大園に送りつけたものだ。 ――ああ、そういうことか。亘は観念した。 彼の表情を見て、男前が満足したようにうなずいた。 「どうやら分かったようだな。時間がない。さあ、ワタルくん、全てを話してもらおうか」 「事情は複雑なんです。全部話すとなると、長くなります」 「なあに、あら筋だけでいいんだ」 ![]() 亘はすべて話した。お仲間の江口桂介に頼まれて、大園のオカマを掘ったこと。江口は大園の運転手をやっていて、主人とはホモ仲であること。その二人が江口のちょっとしたミスで仲たがいした。江口は一方的になじられたことが腹に据えかねて、仕返しを亘に頼んだ。100万円要求したのは亘の考えで、江口は知らない――。 「なんだよ、それじゃあ痴話喧嘩から始まった事件じゃないか」 「大園がこいつのデカマラを受け入れたのが納得だ。あの野郎、男は初めてなんて言いやがって、運転手の棍棒でガバガバだろ」 二人の男はぶつくさ言い出したが、そのうち男前が、仲間の股間の状態に気付いて嘆声をあげた。禿げのズボンの前が突っ張っている。 「ワオ!ホルモンの栓が全開だな」 「だって、今朝はセンセーとしっぽりやってたのに、途中下車だ。こいつの尻を見てたら、興奮してきた」 「だったらついでだ。お仕置き代わりにやっちまえ」 ――えっ!お仕置きだって。全部話したのに何て言い草だ。こいつら、どういう神経しているんだ。 亘は慌てたが、禿げが情け容赦なく覆いかぶさってきた。 すっかり終わって、河合亘を解放したあと、二人は今後について話し合った。 「大園にはどう説明する?」 泰平が訊いた。すっきりした表情だ。 二郎はしばらく考えていたが、おもむろに口を開いた。 「大園と運転手を事務所に呼んで、二人に話す。犯人は河合亘という男だと。 ただし、単なるいたずらだと分かったので、少々お仕置きをして放してやった。もう恐喝はないだろう――と」 「じゃあ、運転手と結託していたことは話さないんだな」 「ああ、運転手のほうは、いつ言われるかとビクつくだろうが、それがお灸になる」 そこで悪戯っぽく泰平を見た。「それより、お前がワタルにしたことだ。事務所に戻ったら、先生に何て報告するか――」 途端に、泰平がガバッと床にひれ伏した。 「頼むよ、何も無かったことにしてよ。相棒だろう」 「さあ、どうしょうかなあ」 泰平は二郎の太腿にしがみついた。指の先が微妙なところに触れている。 「お願い。黙っていて」 「おい、どこ触ってるんだ。俺の長いのは知ってるだろう」 |
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24/06/18 05:56 神亀
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