読切小説
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平民宰相
(あれっ、あの人は――)
新聞やテレビ、週刊誌などでおなじみの顔を見て、ぼくは戸惑いを覚えた。
場所は山手線の内側にある目白の銭湯。昭和初期の面影を残す古い家屋で、存在そのものが珍しいくらいだ。
次に思ったのは――こんなところで、まさか――だった。ここは、近隣在住の一般庶民が利用する、ごく普通の銭湯である。まあ中にはぼくのように、たまたま通りがかりで入る人間もいるが。
ぼくは街を歩いていて、銭湯があると飛び込みで入るほどの、風呂好きである。
それには不純な動機がある。ぼくはお年寄りの裸を見るのが趣味なのだ。それが高じて、お年寄りのチ〇ポをおしゃぶりしたり、ぼくのお尻に入れて貰ったりしたこともある。
だから40歳になっても、今もって独身である。
それはともかく、田中角栄に似たその熟年男性は、湯に浸かって、80歳前後の老人たちとなにやらのんびり会話をしている。ときどきその内容が聞こえてくる。
――角さん、よくお見掛けしますね。
――ああ、銭湯はいいもんだ。こうして、皆と話ができるからな。
――首相を辞められて、今は悠々自適の生活ですか。
――そうでもない、毎日、相談や陳情で大忙しだ。今日はたまたま休養日だ。
(やはり本物なんだ。そういえばこの地区には、目白御殿があったな)
老人たちの会話を聞いていて、ぼくは確信した。
いかにも平民宰相と呼ばれただけはある。老人たちと話す彼の態度は、ざっくばらんで、まったく気取ったところがない。それに闇将軍とも呼ばれるように、今もって裏舞台から政界に影響力を持っているようだ。

そのとき田中がぼくの方を見て、「よおっ!」と片手を挙げた。
えっ――。
ぼくはあわてて周囲を確認したが、田中の視線の先には、ぼくしかいない。
(人違いだろう)どう反応してよいか迷っていると、田中は湯の中で立ち上がって、ぼくのほうに歩いてきた。
「――!」
ぼくは思わず目を剥いた。
なんとも肉感的な性器が、アップで目に入ったのだ。
太い――太かった。
茎も太いが、亀頭冠はギョッとするほど太い!しかもズル剥けで、拳を握りしめたような力感がある。
「確かきみは文春の青木くんだったな」
田中は、独特のダミ声で聞いてきた。
「あ、はいっ!」
人違いをしているのではなかった。田中がぼくの名前を覚えているとしたら、驚異的な記憶力の持ち主だ。と言うのも、ぼくは一度だけ、田中に会ったことがある。
昨年、立花隆が「田中角栄研究」という記事を、ぼくの勤める文芸春秋社のために書いてくれることになった。どういう風の吹き回しか、立花隆が田中角栄に取材できるということになって、ぼくは文芸春秋社側からのメモ係として同行した。そのときぼくは、名刺を差し出して自分の名前を言ったのだ。
「やはり、そうか。ここにはよく来るのか」
「いえ、たまたま通りかかって、中に入りました」
ぼくは緊張して答えながらも、心臓はバクバクしていた。なにしろすぐ目の前には、剥き出しのイチモツが、ぼくを睥睨するようにぶら下がっているのだ。
(あのう――すごく気になって、目のやり場に困っているんですけど)
ぼくの気持ちに無頓着に、田中は言った。
「どうだ、これから一緒に昼飯でも食わんか」
青天の霹靂だった。ぼくのような一般庶民が首相経験者と昼飯を一緒に食べるなんて。
「あのう、私でいいんでしょうか」
「構わん。たまには君らの話も聞きたい」

田中は風呂から上がると、越中フンドシを締めた。腹の出た恰幅の良い体に、フンドシ姿――白熱灯に照らされたレトロ調の室内の雰囲気に、よく似合っていた。
そしてぼくは、現代でもフンドシを愛用する田中に、親近感を覚えた。なにしろぼくも、フンドシ派だったからだ。
ぼくがフンドシを身につけるのを見て、田中が声をかけた。
「ほう、きみもフンドシか。若いのに感心だ」
ぼくは身長165センチ。田中の背丈も同じくらいだったが、体重ではぼくより10キロ以上重いだろう。

田中はぼくを連れて、椿山荘ホテルに入った。すぐ支配人がやってきて、うやうやしく庭に面したレストランの席に案内する。
注文は田中に任せた。昼間からステーキを注文している。そしてなんと飲み物は、焼酎のお湯割りを頼んでいた。
田中に勧められるままにお湯割りを飲んだが、ぼくの頭はフル回転していた。なぜ田中はぼくを誘ったのだろう?
実は昨年の文芸春秋11月号に、立花隆の「田中角栄研究」が掲載され、田中金脈問題を追及していた。これが田中首相退陣の引き金となったのである。
この数年、世界中で政治的な変動が続いていた。昨年8月にはウォーターゲート事件で、ニクソン大統領が辞任して、フォード副大統領が昇格した。同じ月に日本赤軍がオランダのハーグにあるフランス大使館を占拠した。また10月には、佐藤栄作前首相にノーベル平和賞が贈られることが決定した。
そして12月の田中内閣総辞職である。代わって三木内閣が発足した。
三木武夫はクリーンイメージがあって、金権政治を嫌い、政治浄化を信条としていた。

だから厳密に言えば、ぼくは田中を退陣に追いやった連中の片割れと言える。田中から見れば、文芸春秋の社員は憎き敵方となるのである。
しかし田中は、そんな気持ちなどおくびにも出さず、政治のことを熱く語る一方で、先月引退宣言したザ・ピーナッツなどの話題を出す。
ぼくたちは田中の提案によって、「角さん」「一朗」と呼び合い、56歳と40歳という世代の違いはあるが、旧知の間柄のような雰囲気になっていた。
食事が終ると、角さんは部屋でちょっと酔い覚ましに休憩しようと言いだした。
(えっ、でも――)
逡巡する間もなかった。角さんは強引な態度で、ぼくをエレベーターに押し込んだ。

豪勢な部屋だった。広々とした部屋に豪華な応接セット、キングサイズのベッド、掃き出し窓の向こうには庭を見下ろすバルコニーがあった。
ソファーに向かい合って座ると、角さんが横に座れと言う。
(え、どうして?)
疑問に思いながらも、ぼくは移動して、角さんの横におずおずと座った。
そこでまたまた驚天動地のことを言われた。
「一朗、ちょっと、しゃぶってくれ」
(えっ!なに?)
ぼくは聞き間違えたかと思って、角さんの顔を見た。熱っぽい眼つき、発情したように赤みを帯びた顔――。
ついで股間を見た。ズボンの布地がもっこりと膨らんでいる。
ぼくは理解した。
途端、諸々の思いがぐるぐると回りだした。信じられない思い。宝くじが当たったような幸運。息苦しい興奮。――半面、怖くもあった。
「どうした。ズボンを開いて取り出すんだ。それから、しゃぶってくれ」
角さんがじれったそうに、ダミ声で言った。

命令することに慣れた、有無を言わせぬ迫力に負けた。
ぼくは興奮から震える手で角さんのズボンのベルトを外し、ファスナーを引き下げた。
布越しに温もりを感じた。前合わせをまさぐって、ソレを自由にした。グンニャリしていたが、圧倒的なボリューム感だ。
ソレはぼくの手の中で、体積を増してきた。
顔を寄せて、まず匂いを嗅いでみた。――ぼくの大好きな、親密な匂い。
ついで舌先でお湿りをくれ、そっと口に含んだ。――少ししょっぱい。
幸せ感が増幅した――。
ぼくは自分の気持ちに素直になって、角さんの偉大なチ〇ポを尺八しだした。
亀頭と根幹部のくびれに舌を這わせたり、尿道口をチロチロと戯れに舐めたり、思いっきり強く吸い付いたり――とにかく考え付くことを、すべて試みた。
56歳のチ〇ポがぐんぐん膨らんで、硬くなってくる。
少し休憩した。口を離して全容を見た。
コブの盛り上がったようなエラ、満々に張り詰めた亀頭――それらが、今や赤紫色に染まって、禍々しい様相を呈していた。



そのとき角さんは、ぼくの恐れていたことを言った。
「きみはきれいな肌をしてる。よし、次はお宮参りだ。仰向けになって尻を開け」
「あっ、それは勘弁してください。――とても無理です」
ぼくは必死で懇願した。
しかし、海千山千の角さんが、そんなことで引き下がるはずがない。例の有無を言わさぬ口調で命令した。
「心配するな。ほぐしながら嵌めてやる。さあ一朗、尻を出せ!」

――こんなことって、有り得ない。ぼくは日本の元総理大臣に弄ばれながら、朦朧とした意識の中で考えていた。
角さんは尻の狭間にオイルを垂らして、滑りをよくしながら、ぼくの秘肛の拡張作業を続けた。図太い指が断固とした意志を持って、穴を押し広げ、ズコズコと出し入れする。
そのあと――口に出しても恐ろしいことが始まった。
双丘が目いっぱい開かれ、今や真っ赤に張り詰めた亀頭があてがわれる。常人の倍どころか、何倍もあるように感じた。
「一朗、口を大きく開けろ。楽になるぞ」
言うなり角さんの怒張が、怯える秘肛を押し開き、グググっと入ってきた。
「ひいいっ!駄目っ――駄目ですうっ!」
ぼくは顎をのけ反らせ、尻を揺すって、抜け出そうともがいた。
しかし角さんは、力づくでぼくの双丘を押さえつけ、巨大な先端を押し込んでくる。
頭が入ったところで、角さんは一息に根元まで突き入れた。
「ギャンッ!」
ぼくは悶絶した。

時が静止した。ぼくたちは下腹部を密着して、じっとしていた。腸壁が、深々と埋め込まれた男の全容を、ぴっちりと締め付けているのが、はっきりと知覚できた。
怒張の脈動が伝わってくる。ドクッ――ドクッ――。
ぼくは息をひそめていた。少しでも身動きすれば、激痛が襲ってくる気がした。
それにしても――太い。

角さんがゆったりと抜き差し運動を始めた。
ぼくの体内いっぱいに膨らんだ肉根が、腸壁を押し開きながら行き来する。
胃の腑まで押し込まれ、引き際には内臓まで引きずり出されるように――。
「どうだ、良くなったか」
角さんは上体を屈めて、顔を近づけてきた。結合がいっそう深くなった。
図太い腰が、モクモクとうねっている――。
内奥に嵌められた肉根の律動に翻弄されているうちに、ぼくの内部で何かが起こった。
狂おしい情念――熱い昂ぶり――気も遠くなるような悦楽――。
ぼくはいつしか身悶えし、善がり声をあげていた。

それから1年後、ロッキード事件が発生して、角さんは逮捕された。
21/04/04 09:32更新 / サンタ

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