(二)

(二)



わたしが偶然にも、高島紳一さんの秘密を知ったのは、ドイツの次にイギリスへ渡ったときのことでございます。
わたしたちは、ロンドン郊外のシャトー風のホテルに泊まりました。そこの庭園は広大で、緑の芝生と鬱蒼とした樹木があります。
食後の酔い醒ましに、わたしは室井さんと連れたって白いベンチに腰掛け、暮れ行く庭園風景を眺めていました。
そのとき、高島さんの姿を見かけたのです。白髪の欧米人男性が一緒でした。白人にしては背が低く、社会的地位と富に恵まれたような、品の良い顔をしています。
わたしはなぜか、ふたりが気になりました。いかにも親しそうに話しながら、ふたりは寄り添うように、木立を縫う散策路を歩いています。そのうち、木立の向こうにふたりの姿は消えていきました。

「少し歩きますか」
室井さんがふと立ち上がって、わたしを促しました。彼がなぜそんな行動を起こしたのか、そのときは分かりませんでした。とにかくわたしたちは、ベンチから立ち上がって、高島さんたちが消えた方向へと歩き始めたのです。
まもなく散策路を外れた茂みの奥から、人の声を聞いたような気がしました。
室井さんのあとについて茂みへ近づきますと、薄闇の中で、大きな幹のそばに立つふたりの姿が見えました。
わたしは仰天しました。
なんと、ふたりはしっかりと抱き合って、濃密な口付けをしているのです。
わたしたちは慌てて木の陰に隠れましたが、にわかに心臓が高鳴りました。
後で考えてみますと、どうやら室井さんは、そんな光景に出くわすことを、なんとなく予感していたような気がします。

そのあと見た光景は、想像さえしなかったことでした。
抱擁がおわると年配の白人は腰を落として、高島さんのズボンの前を開きました。そして、開かれた股間に顔を埋めたのです。
その世界に無知のわたしでも、何が行われているのか分かりました。年配の白人男性は、高島さんの性器を咥えているのです。
全身が、カアーっと熱くなりました。
一緒にいた室井さんが、わたしの肩に手を置いて、ギュッと握りました。
(静かに――)という警告です。
高島さんの股間で白髪の頭が前後に動き、かすかに濡れた音が聞こえてきました。高島さんは男の頭に手を沿えて、うっとりとした表情をしています。
わたしと室井さんは最後まで見届けずに、その場を離れました。
久しぶりに興奮して、歩き辛かった記憶がございます。

その日は、それで終りではございませんでした。
部屋に戻って、バスルームで汗を流したあと、室井さんがベッドに寝そべって、穏やかに話しかけました。
「今日は高島さんの秘密を、垣間見ましたね。でもわたしは、高島さんと初対面のときから、そうじゃないかと思っていました。それが今日、確信に変っただけです」
室井さんは口を閉じて、向かいのベッドの縁に腰掛けるわたしを、じっと見ました。そして、思い切ったように言いました。
「じつはわたしも――女より男のほうが好きです。ですから、自分のお仲間は、理屈抜きに勘で分かるのです。こんなこと、お恥ずかしい話ですが、あなただけには言っておきたくて」
少し置いて、室井さんはそっと言いました。「わたしを軽蔑しますか?」
「そんなことはございません」
わたしは即座に、否定しました。「誰しも同性愛の素質はあると思います」と小声で言いました。言ったあと、顔が火照るのを感じました。
室井さんは、ホッとしたようすでした。そして、思いがけないことを言いだしたのです。
「じつは、あなたのことが気になっていました。あなたは奥さんを亡くされて、お子さんもいないと言う。それに、体毛が薄くて、女のように白い肌をしています。いかにもその道の男に、狙われ易いタイプだ」
そこで冗談っぽく肩をすくめました。「ま、かく言うわたしも、あなたと同じような体型ですが。それで――ちょっとしたきっかけがあれば、あなたもわたしと同じ世界に入るのではないか、と思っていました」

室井さんが口を閉じたあと、沈黙が流れました。室井さんの潤んだ目が、まっすぐわたしの顔を見ています。わたしは言葉を失って、ただ呆然としていました。
部屋の空気が凝縮したようで、息苦しさを覚えました。
室井さんは起き上がると、わたしの横に腰掛けました。それからそっとわたしを抱きしめ、唇を合わせてきたのです。

ああ――そのときの感覚は、今もって鮮明に覚えています。
恥ずかしさと同時に、肌の泡立つような興奮に包まれていました。
男同士の口付けが、こんなにもうっとりとするものだとは、思いもしませんでした。
室井さんは、わたしの身体を愛撫しながら、パジャマを脱がせ、そっとベッドに押し倒しました。わたしはまるで女になったような気分でした。
そのあとのことは、記憶が定かではございません。ただ室井さんのなすがまま
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