(10)一件落着

(10)一件落着

「――そんなわけで、成田義明さまの遺言状は、私が預かっております。遺言状には財産の処分について詳しく書かれています。半分を町の福祉関連施設に寄付して、残りを木原正彦さまに贈与されています。その一部には笠原さまと内村さまへの贈与分も含まれております。それから税金対策につきましても、成田義明さまから直接指示を受けておりました――」
室井と名乗る弁護士は正彦を前に、大勢の老人たちに囲まれて、話し辛そうに説明をつづけた。
弁護士の話が終わると、皆一様にホッとした顔をした。
「じゃあ、この家は、無事キーさんの所有になるんだ。税金も払えるし」
「ああ、グランパも続けられるね」
「これでウタマロに頭を下げなくて済む。――あの野郎、どうしてくれよう」
「さすが御前さまだ。自分が死んだ後のことも、ちゃんと考えていたんだ」
皆、思い思いのことをしゃべった。

最後に神谷が、弁護士に尋ねた。
「しかし、なんであなたは、こんなに遅く来たんだ。もうちょっと早く来てれば、キーさんも辛い思いをしなくて済んだのに」
「あっ、それは私が悪いんです」
老人たちの話をひやひやして聞いていた弁護士が、慌てて言った。丸っこいおでこと鼻の頭に、汗を浮かべている。
「実は私、海外旅行に出掛けていまして。それで、義明さまの訃報を聞いたのが遅くなりました。――すみません」
「すみませんだと!お前のせいでキーさんは、ウタマロにさんざんいたぶられたんだ。よしっ、お前も同じ目にあわせてやる」
奥村が弁護士の腕を掴んで、仮眠室に引っ張って行こうとした。それを皆が押しとどめるなか、正井がのんびりと言った。
「オクちゃん、今はやめとけ。無事、手続きが終わってからだ。この坊やに、へそを曲げられたらことだからな」

――◇――

さて、御前さまの遺産騒動は、これにて一件落着である。
しかし、みんなのキーさんがウタマロに犯された問題のシーン――あれは、グランパを守るための演技なのか、それとも本当にウケが気持ち良くて善がったのか、謎は残った。
それでキーさんの人気も陰りが見えてきたかと言うと、そうでもなかった。むしろ、キーさんの人間的な弱さや可愛らしさがわかって、ますます彼の人気は上昇したのである。
それはともかく、グランパに来る常連客は、多少の変化はあったものの、いつもの落ち着きを取り戻していた。
以下は彼らの近況である。

奥村と正井は、相続と税の手続きがすべて完了すると、予定通り中年の弁護士を仮眠室に引っ張り込んで、その可愛らしい体を裸に剥き、さんざん弄んだ。その最中の弁護士の悲鳴は、表の通りまで聞こえてきたと言う。
可哀想に弁護士は、それ以来、すっかりマゾのウケに転落してしまった。

神谷は奥村と組んで、もっぱら銀友クラブに入会した新顔の面倒を見ている。と言っても、彼らの動機は不純である。あの手この手で初物を賞味しようという魂胆は、最初から見え見えであった。
一方で神谷は、ポルノビデオの撮影チャンスも狙っていたが、こちらの方は、初物喰いほど実績が上がっていないようだ。

おしゃべりとおしゃぶりをこよなく愛す関は、店の従順な老従業員ふたりのお道具で我慢している。それでも彼は、キーさんを仮眠室に引っ張り込むという、競争率の高い望みを捨てたわけでは無かった。

板井は、悪夢のような初体験を乗り越えて、同級生たちとも仲直りしたのか、グランパに姿を現すようになった。
ほどなく、あこがれのキーさんとも一夜を過ごし、彼が抱きつづけていた夢を実現することができたのである。
そしてまた、キーさんの影響があってか、彼の嫌味な性格も、多少丸みを帯びてきたようだ。

立石は、店のテレビで、キーさんとウタマロの問題のシーンを見て以来、少し様子がおかしかったが、そのうちグランパに姿を見せなくなった。
噂によれば、ウタマロの愛人になったと言う。
おそらくマゾに目覚めたのだろうというのが、グランパに来る爺さんたちのもっぱらの解釈だった。

涌井は、酒造会社の社長を娘婿に引き継いだあと、銀友クラブの正会員となった。彼がグランパに来るのは、キーさんが居るときだけに限られていた。
また、キーさんの家から朝帰りする姿も、見られるようになった。
奥村や正井は、なんとか殿下の気を惹こうとしたが、殿下の澄んだ瞳は、いつもキーさんだけに向けられていた。

そして、キーさんこと木原正彦は、その大きな体とおおらかな父性愛でもって、グランパに来る多くの老人たちを幸せな気分にしている。それも相手が望めば、ふくよかなお尻を差し出すという、レパートリーを広げて。
しかし、毎年七夕の日、成田義明の命日には、朝から身を清めて、誰のお相手もしなかった。決まって彼は、庭先に黄色い花を付け始めた女郎花を数本摘むと、行き先も告げずに外出し
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