裏廊下の端にある曲がり階段から2階に上がった。
最初の部屋は書庫だった。外気に面したガラス窓以外は、壁の3面に書架が設けられていた。文庫本からハードカバーの分厚い書籍まで、いろんなジャンルの書籍がぎっしりと並んでいる。
水原家の人間は、よほど本好きが多いのだろう。執事の日記には、小説家目指した次男の啓太が、書庫に入りびたりだったと書かれていた。
窓の近くに、読書用の椅子テーブルがあった。その上に、重ねられたペーパーと灰皿があった。
ペーパーを手に取って見た。応接室で見たものと同じ、タイプライターで印字された文章だった。
――重兵衛が病院に行くことはきわめて珍しいが、その日は年に一度の健康診断のためである。そして必要でもないのに、検査入院となった。
その夜、重兵衛の病室に現れたのは、70代の院長先生だった。実はこの二人、ずいぶん前からデキていたのである。
さっそく二人は裸になって、ベッドの上で愛の行為を始めた。
院長先生の手慣れた口淫に、重兵衛の飢えた陰茎はみるみる勃起してくる。そのうち70代の小さな体が馬乗りになり、握った陰茎を体の中に取り入れようと尻をうねらせた。そこは長年慣れた交尾、二度、三度、尻をくねらせると、図太い性器が体のなかに吸い込まれていく。
重兵衛は仰向けのまま大の字になり、下から己が陰茎を、軟らかい秘門の中に根元まで埋め込んでいた。常人では痛がって中々挿入できない大きさだが、院長先生は度重なる交合ですっかり拡張されていた。
先生は体内に呑み込んだモノを味わうように、ゆるやかに腰をうねらせる。可愛らしい口から、かすかに喘ぎ声が漏れ出る。
いつの間にか重兵衛が上になり、院長先生の体をしっかり抱きとっていた。逞しい腰が上下にあるいは前後に動きはじめると、院長先生が重兵衛の胸に顔を押しあて、声を殺してよがり声をあげはじめた。
ぬちゃぬちゃ、ぴちゃぴちゃ――湿った卑猥な音がした。それに、途切れ途切れの喘ぎ声、荒い息づかい、満足そうな吐息が重なる――。
初心なぼくは、すぐ勃起した。面白そうにぼくの下腹部を見るリョウに気づいて、慌てて体をずらせた。
灰皿に吸い殻があるところをみると、父さんもこのエロ小説を読んでいたのだろうか。ぼくとハグしたとき、ズボンの前を膨らませた父さんの姿を思い出した。それにしてもこのエロい文章は、だれが書いたのだろう?それに、いかにも読んでくださいというように置かれている。何か意図があるのだろうか?
気を取り直してぼくたちは、次の部屋に向かった。続く二部屋は空室だった。
廊下の端にある最後の部屋の前で、リョウは凍り付いたように立ち尽くした。
「どうしたの?」
ぼくが訊くと、リョウは寒そうに両腕をさすった。
「なぜだか分からないけど、すごく怖い」
(幽霊でも怖いことがあるんだ)そう思いながら、ドアノブを掴んだ。鍵がかかっていた。持っている3つの鍵でも開かない。
そこでふと思い出した。ぼくはスマホを出して、執事の日記を写した画面を開いた。最後のところに、次男の部屋の鍵を長男が中庭の噴水に投げ込んだ、と書いてある。
(じゃあ、ここは水原啓太の部屋だ。鍵はまだ噴水の中にあるのだろうか?)
中庭に行ってみることにした。1階におりて、施錠された外部ドアを執事室から持ってきたマスターキーで開けた。
放置された花壇が、いかにも荒廃した様子を際立たせていた。噴水のある小さなプールは、中庭の中央部分にあった。水はどんよりと緑色に濁っていた。
これでは鍵の所在を確かめられない。プール周りを調べていると、バルブの付いた支柱があった。試しにバルブを回してみた。錆びて軋んだ音がしたが、なんとか動いた。
噴水が勢いよく水を吐き出した。透明の水が浄化作用を起こして、濁った水が排水溝へと押し流されていく。ほどなくプールの底が見えだした。
二人で水面を透かし見て、底に沈んでいる鍵を探した。こういう時は、空中を浮遊できるリョウのほうが有利だ。真上から見ることができるからだ。
ほどなくリョウが、水底に沈んだ鍵を発見した。ぼくは腕まくりして、泥に埋もれた鍵を掴んだ。
噴水プールの向こうに、コンクリート壁の部屋がある。ちょうど家の主、水原壮一郎の部屋の下階にあたる部分だ。その前の地面に、黒っぽい物体が落ちているのに気づいた。取り上げて見ると、黒皮の長財布だった。
中身を確認した。1万円札が5枚、カード類、そして折り畳んだ新聞の切り抜きが入っていた。
(父さんが落としたのかな?)そう思いながら、新聞の切り抜きを読んだ。
――2023年2月13日の日付――浄土島の西の岩場で、男性二人の遺体が発見された。二人は島の所有者、水原仙一氏と浅香圭一郎氏であることが判明した。三日前に瀬戸内地方で起きた震度7の地震の際、二人が行方不明になったと屋
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