目が覚めて時計を見ると6時ジャストだった。東京にいたときも6時起き、所は変わっても、長年身についた習性は変わらないようだ。
顔を洗って窓から外を見ると、三々五々、町の人たちが、宝亀山神社の鳥居をくぐる姿が見られた。
(感心に、朝からお参りなのか?ぼくもちょっと散歩でもするか)
服を着て部屋を出たところで、ハルさんにばったり出会った。
「あら、もう起きたの。お早うございます」
こちらも挨拶を返すと、「ラジオ体操にでも行ったらどうです」という。
雨が降らない限り毎朝、町の人たちが神社に集まって、6時半からラジオ体操をやっているそうだ。
これで分かった、町の人たちが朝早くから神社に集まっている理由が。
神社に行くと境内に、30人ほどの人たちが集まっていた。宮司が良平の顔を認めて、指でピースサインを送ってくる。
賽銭箱の前に、トランジスターラジオが置かれていた。
まもなくラジオ体操の放送が始まり、一斉に体操をしだした。第一体操、首の運動、そして第二体操。最後に拍手して、めいめい別れていった。
効率の良い流れに、町の人たちのまとまりを感じた。
あけぼの荘に戻って、まっすぐ食堂に行った。
朝食はバイキング形式になっていて、和食コーナーと洋食コーナーがある。
それぞれ好みに合わせて、料理を自分の盆に載せていく。
スギさんとテッちゃんの姿は見えなかった。良平の疑問を感じたらしく、ハルさんが自分から進んで説明した。
「スギさんたちは朝が早いから、朝と昼のお弁当を持って出かけてるの。漁船の上で食べるそうよ」
一人で食事をしていると、初老の男がこちらに向かってまっすぐ歩いてきた。
色が白く大福もちのような人物だ。
「ふーん、あんたが今度来た良ちゃんか」
男はいきなり声をかけた。呆気に取られていると、なおも言った。
「で、自分、男はできたん?」
「は?」
「いや、は?やあれへん。好きな男はできたかて聞いてんのや」
心を見透かされたようで、どきっとした。
(誰なんだ、この馴れ馴れしい大福もちは?それに、何で関西弁なんだ?)
混乱したが、良平は礼儀正しく答えた。
「あいにくぼくは、そんな趣味はありません」
途端、男は賑やかに言った。
「ウソをつけ!このスケベ。自分の顔は、ぜったい男好きの顔やで」
(なんなんだ、こいつ)イラっときたが、あくまで礼儀正しく聞いた。
「あのう、あなた、どちらさんですか?」
「あ、知りたい?ねえ、うちのこと知りたい?」と言って男は目を輝かせた。
これ以上、構うと碌なことはない。
良平は男を無視して、食事に専念しだした。
しかしあろうことか、男はなおも居続けて、勝手に自己紹介を始める。
「うち、フルネームは江上菊五郎て言うんや。スナック万玉のマスターやってる。自分、今夜うちに来てみ、サービスしてやっから」
つけ加えて「うちのこと、菊ちゃんて呼んで」とのたまう。
男は色白ぽっちゃり体型で、年増の小母ちゃんとも見違えるような中性的な顔立ちをしている。その風貌を見ていれば、男の経営するスナックがどういった類の店なのか、自ずと想像できる。
「ごめん、急いでいるんで。――工場に出勤しなくちゃ」
良平は断りを入れると、食事を早々に済ませ、自分の部屋に引きあげた。
白いカッターシャツにネクタイを締め、スーツ姿になると気が引き締まる。
転勤先の工場に初出勤である。
神社前のバス停で循環バスに乗り、目的地の工場前までは3区間。歩いて行けない距離でもない。
鉄の門扉の横に、会社の名称COSMOの文字看板がある。ゲートで社員証を見せて、事務所棟まで歩いた。光学機械を扱う先端技術工場だけに、場内は近代的な建物と緑の芝生、舗装された通路、と明確に区分けされていた。道に迷うことは無い。
まず工場長に挨拶した。安井工場長は50代半ば、中背太目の体型、一見、人の良い田舎の親父といった風貌をしている。
「お、来たか。小宮くんだな。よろしく頼む」
読んでいた新聞から顔をあげて、工場長は快活に声をかけた。「まあ、話は落ち着いてから聞こう。今夜、個人的に歓迎会をやってやる」
「はあ、ありがとうございます」
「18時30分、『無法松』で落ち合おう」
(なんだ、あけぼの荘じゃないか)と思ったが、良平は「了解しました」と言って頭を下げた。
そのあと、担当する総務課に行った。課といっても男の課長一人に、女子社員が5人いるだけである。
総務課長の竹下は、良平より一つ年下の45歳、背が高く、受け答えから推測するに、飄々として淡白な性格のようだ。良平も同じ課長だが、地方の工場に転勤するとき、次長にランクアップされていた。
総務課内で顔合わせが済むと、竹下の案内で、工場内の主要ポストの社員に挨拶して回った。
その日の午前中は、顔見せと工場の施設見学に費やした。工場内の食堂で
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