有栖一郎は自分のマンションに向かって歩いていた。横には上野公園で出会った老人が、自転車を押しながらついてくる。
ちょっとした初対面の会話から生まれた幸運――。老人が女房に先立たれ、谷中に一人住まいだと聞いて、一郎は言ったのだ
「――私も女房に先立たれました。実家は長男一家に住まわせて、私は池之端にあるマンションで一人住まいです。朝起きると不忍池や上野の森が見えて、快適な部屋ですよ」
そして付け加えた。「仕事は――来春、リタイアの予定です」
一郎の話を聞いて、急に相手の目元が親しみを含んで和らいだ。
「じゃあこれを機に、お付き合いできますね」
思わず本音が出たのか、老人は自分の言葉に驚いたように頬を赤らめた。
「いいですよ、セイさんさえよろしければ」
一郎は、相手の顔に浮かんだ表情を見て、思い切ったことを言った。「どうですこれから私のマンションに寄りませんか」
老人がそっと頷き、二人は一郎のマンションに行くことになったのだ。
マンションの部屋で二人きりになると、少しの間、気まずさが漂った。
それを払拭するように、一郎は老人のほうに歩み寄った。
少し怯えたような顔が、こちらを見あげる。
そのまま、老人の身体をやさしく抱きしめた。
決断の一瞬だった。もし老人が抗えば、一郎は「冗談ですよ」と言って、お茶でも出すつもりだった。
しかし老人は、おとなしく抱かれるままにしていた。
こうなるとやることは決まっている。二人は裸になり、バスルームでシャワーを使ってお互いの身体を洗いあった。老人は小柄だが、肉付きが良かった。そして体毛の薄いなめらかな肌をしていた。
老人は、駒健で肛門性交を経験した、と白状した。そのあと、シリンジポンプを使って直腸を洗浄しだしたので、二人の役割は決まった。
寝室に行くと、窓のカーテンを引き、照明はスタンドひとつにした。
二人はベッドの端に並んで腰かけ、お互いの身体を触って刺激し合った。
70歳と67歳の爺さんが昼日中、薄暗い部屋の中で睦みあう姿は、妖艶というよりも、どことなく微笑ましかった。まるで未知の性交に好奇心を抱いた、仲の良い子供たちのように。
そのうちじょじょに、大人の卑猥が童心を覆いつくしてくる。乱れた呼吸や息づかいが、二人を淫らな興奮へと追いやっていく――。
その興奮は、70歳の性器を不相応に勃起させ、すぐにでも湿った穴倉にもぐり込みたくて、ぶるぶると打ち震えさせた。
老人を前屈みにベッドの端にしがみつかせ、用意した潤滑油を菊座にべったりと塗りこんだ。秘所のやわらかさから、初心でないのが分かる。
亀頭にも潤滑油を塗り込め、谷間の中心にあてがい、じんわりと押し回した。
押し回すことによって、潤滑油をその周辺になすりつけると同時に、固くすぼまった菊座の緊張を緩めた。
やがて少しずつ押し入れていく。
「ああっ、入ってくる――ゆっくり、ゆっくり入れて」
老人が喘ぎ声をあげた。
あと一息で亀頭冠が通過するとき、老人が苦しみの声をあげた。
かまわず一郎は、老人を貫いた。深々と結合すると、しばらくそのままでいた。湿った温もりが、性器の全長を押し包み、締めつける。直腸が微妙に蠕動して、敏感になった亀頭に3つ年下の息吹を伝える。
往年の力を蘇らせた一郎は、力強い腰遣いで動きだした。
その頃、マンションの下では、長いこと佇んでいた中村春夫が、その場を立ち去っていくところだった。
彼は偶然、上野公園で有栖一郎を見かけたが、声をかけるのをためらった。一郎が見知らぬ老人と親しげに話していたからだ。
それでも二人が連れたって歩きだすと、慌てて喫茶店を出て後をつけだした。
区長という公職から離れた一郎の私生活に出会うと、なんとなく、そばで一緒に居たい気分になる。べつに一郎と男色関係にあるわけではない。これまで二人の関係は、あくまで幼馴染の域だった。
それでも一郎の姿を見ると、身体中に暖かいものが広がり、無性にそばに居たい気分になるのだ。
春夫は自分の心情の変化が、完全には理解できていなかった。
その変化の兆しは、一郎が高校の同窓会で区長選挙に打って出る、と急に言いだした頃からだ。そして見事当選したとき、再認識した。
やはりイッちゃんは永遠のチャレンジャー、不可能という言葉はないんだ――。それは彼が幼少時代から思っていたことだった。
嫌だなあ――。
小学生時代の中村春夫は、一郎が近くにいると、いつも思っていた。
だから登下校のとき、家の近い子供たちが集団で歩いていても、出来るだけ一郎から離れていた。
一郎と仲が良い、と他のクラス仲間に思われたくなかった。なぜなら一郎は仲間たちと群れず、いつも一人でいた。それで変人と見做されていた。
それでも一郎がイジメに遭わなかったのは、皆に一目置かれていたからだ。学業成績はいつもトップ、な
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