朝、目覚めるとサイドテーブルの置時計を見た。6時ちょうど。
よし、今日も快調!
前日何があろうと、翌朝6時には目が覚める。長年の習性だ。
ベッドの横では、昨夜バーで引っ掛けた爺さんが、うつ伏せになってだらしなく寝ている。上布団がめくれて、白い尻が剥き出しだ。
有栖二郎はベッドから抜け出ると、老人の身体にずれた上布団を整えてやる。
まずトイレに行って、気持ち良く放尿した。次にキッチンに行き、ヤカンに水を入れてコンロにかける。それから洗面所で手早く髭を剃る。
さっぱりしたところで、キッチンのヤカンがピーッと音を立て始めた。
コーヒーを入れて新聞を読んでいると、ようやく爺さんがベッドから起き出してきた。上半身は肌着一枚、下はスッポンポンの姿だ。萎びた性器がダランと垂れ下がっている。
「お早う」
二郎が声をかけると、老人は裸の尻を掻きながら、ぼそっと言う。
「尻が痛い」
そしてトイレに向かいながらぼやく。「ジローちゃん、激しいんだから。少しは年寄りをいたわれよ」
二郎はニヤリとして衣服を整えると、出かける用意をした。
ディック探偵社は鶯谷駅から歩いて行ける。言問通りから一筋入ったところで、狭い間口の7階建ビルの4階にある。
社名の書かれた型ガラスのドアで区画されたオフィスは、何となく胡散臭い雰囲気がある。そして中で働く男たちも、何となく得体が知れない。
所長の有栖二郎は66歳、中肉中背で髪は白いものが目立ち始めている。日焼けした顔立ちや太くて長い鼻筋が、精力絶倫の覇気をにじませている。
パートナーの国広泰平は同い年、ずんぐりむっくりした体型をしている。頭頂部まで禿げた額や短い眉毛と小さな瞳、上向きの団子鼻――小ずるい性格に反して人の良い田舎の親父といった印象がある。
ほかに事務をやる老人がいる。山家昌輔、82歳。二郎と泰平にとっては、高校時代の恩師である。
山家はちょっとした経緯で、教え子の泰平と同棲するようになり、その縁で二人の仕事を手伝っている。小柄な体になめらかな小顔、まどろむような小さい瞳が老いた天使のような優しさをたたえている。
ディック探偵社の命名は、この元教師である。ディックはチ〇ポという意味であるが、教え子たちと温泉風呂に入ったとき、閃いたと言う。老人は、ディックの他の意味――人をだますとかペテンにかける――も知っていたが、もちろん二人には黙っている。
もう一人、こちらは従業員ではないが、遊びがてらに事務所を訪れる老人がいる。大石昇、82歳。元大学教授で電子工学の専門家である。山家とは大学同窓生にあたる。知的で穏やかな紳士だが、悪戯好きで、発明家でもある。
「――無理やりオカマを掘られて、それをネタに脅迫されているんです」
その男は事務所にやってきて、5分ほどウジウジしていたが、やっと決心がついたように話し始めた。
有栖二郎は相棒の国広泰平にチラリと目配せして、男に訊いた。
「オカマを掘られたのは初めて?」
「勿論です!」
思わず声を上げて、男は自分に驚いたように声を落とした。「私はそんな趣味はありません。無理矢理やられたんです」
「なんで警察に行かなかったの?」
「こんなこと、恥ずかしくて――とても警察なんか行けません」
二郎は長い話になりそうだと思い、椅子の背に体をあずけ、腹の上で両手を組み合わせた。そして冷静な口調で言った。
「じゃあ、最初から順を追って話してください。私たちがあなたのお役に立てるのかどうか、話を聞いてから判断します」
大園尚(タカシ)と名乗る男は、何の予約も無しに事務所に入ってきた。
背は低いがバランスのとれた体つきをしている。年の頃は60代前半と思えた。男の甘さを含んだ顔立ちは、整髪されたロマンスグレーの頭髪によって、いっそう洗練されてみえる。
白のカッターシャツに紺のストライブ柄のネクタイ、上下揃いのすっきりとした濃茶のスーツを着こなして、いかにも金持ち好みの渋い風采だ。
そしていま、二重まぶたの黒目勝ちの瞳が、控えめに事務所の様子を窺いながら訥々と話し出した。その話しぶりから推察するに、几帳面かつ気真面目な性格のようだ。
――浅草寺に行ったとき、背の低い中年男に声をかけられました。その男は若い頃、私の父親に大変世話になったと言います。近くの喫茶店でお茶でも、と誘われたとき、悪い男ではないと思ったので受けました。そしてコーヒーを飲みながら話をしている途中で眠くなってきました。
男に支えられながら店を出て、車に乗せられた後は覚えていません。
目が覚めたら見知らぬ部屋にいました。私に声をかけてきた中年男の他に若い男がいて、無理やり私を裸にしました。
その後は、思い出すのもゾッとします。中年男のイチモツをしゃぶらされ、そのあとオカマを掘られました。その間、若い男は手出ししないで一部始終を
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