(2)発展

早くもゴールデンウイークに入った。
連休中の電車は、ふだんのラッシュアワーに慣れきった人間には、物足りないと思えるほど空いている。
俺は暇をもてあまして、ひとり、電車に乗っていた。空いた座席に腰掛け、ぼんやりと車両のなかを見回した。
ふいに、心臓の鼓動が跳ね上がった。あの先生がいたのだ。
先生は、老婦人と10歳くらいの女の子と一緒だ。どうやら孫を連れての外出のようだ。
話をしているのは、もっぱら夫人と女の子だけ。先生は二人に無関心な様子で、新聞を読みつづけている。
女の子はお爺ちゃん似で、ふっくらとして愛くるしい顔をしている。夫人のほうは眼鏡をかけて、神経質そうな顔だ。見かけだけではなさそうだ。ときどき命令口調で夫に何か言っていた。そのたびに先生は、反発もせず、言葉少なにぼそぼそと返答していた。
(――完全に尻に敷かれているな)俺は苦笑した。

その家族は、途中の駅でおりた。俺は憑かれたように、彼らの後を追った。
夫人と孫から少し遅れて歩く先生の姿は、まるでおとなしい飼犬のようだ。
俺は後をつけながら、先生の後ろ姿を、じっくりと観察した。
ベージュのスポーツシャツに淡い茶のズボン――薄地の布が体に貼りついて、肉づきのよい体の線を浮き彫りにしている。
形良く膨らんだ腹、ベルトのうえの丸みを帯びた腰の贅肉。プルンとして弾力のある尻は横に張りつめ、谷間の淡い窪みが俺の春情を誘うように揺れ動く。
先生の後ろ姿を見ながら、俺はあれこれと夢想した。
(具合の良さそうな尻だ。それにしても、ちょいと開きすぎだな。ひょっとして先生、すでに経験済みなのか)



やがて、前を行く3人は、昨年出来たプール施設に入って行った。少し迷ったが、俺は意を決めて入場券売り場に向かった。
内部は巨大なガラス張りの高い天井で覆われ、屋外のように明るい。売店で買ったトランクスに着替えると、家族連れの先生の姿を捜した。
先生は、プールサイドにある、大きなパラソルの付いた円形テーブルのところにいた。遠くからでも、目に染みるような白い肌が、際立って見える。
俺が見ていると、女の子がひとりで回遊プールに入った。バスタオルを肩にかけた夫人は、折り畳み椅子に腰掛け、雑誌を読んでいる。夫人に無視された先生は、所在なげにぶらぶらと歩きだした。

俺は先生の後を追った。先生は競泳用プールに入ろうとしていた。小腰をかがめて足の先を水につけるとき、ちっぽけなパンツに覆われた尻が、むっちりと横にふくらんだ。間近に見る肌は、ゾクリとするほど色が白く、きめが細かい。
先生は水に入ると、慎重に体を慣らし、ゆっくりと泳ぎだした。見かけによらず、馴れた泳ぎぶりだ。
俺はプールの縁から、先生の泳ぐ姿を見守った。
先生は一往復すると水の中で休憩し、それからもう一往復してプールを出た。
水に濡れた水泳パンツが股間にぴっちりと貼りついて、性器の丸っこい膨らみが浮き出ている。

先生はプールの縁に腰を下ろすと、足を垂らして水につけたまま休憩した。俺は近寄らず、斜め後ろのベンチに腰掛けて、先生の後ろ姿をじっくりと観察した。
つきたての餅のような丸っこい腹、水泳パンツをむっちりと膨らませた臀部。
下腹部を覆う布地が小さすぎて、腰のつけ根からふたつの膨らみに分かれ始める部分が、パンツの端からのぞいていた。ふっくらとした窪みが、白い肌に淡い影を落として、妙に初心っぽく見えた。

先生の後をつけ回して、一時間が経過した。先生はまったく俺に気づいていない様子だ。いちど夫人のもとに戻り、うるさそうに追っ払われると、ひとりでのんびりと売店に向かった。先生は買った飲料を飲みおわるとトイレに向かった。
俺は少し遅れてぶらぶらと、先生の後を追った。

トイレに入ったとき、先生は小便器のまえで苦労して、パンツをずり下ろしていた。他人がトイレに入ってきた気配に、先生はあわてて便器に腰を近づけ、前を隠した。
俺は歩み寄って、先生と横並びでトランクスを引き下げると、勢い良く小便をした。横目で窺っていると、先生が驚いたように俺の手元を見て、ついで俺の顔を見上げる。
「あれっ、先生ですか」
初めて気が付いたように俺が声をかけると、先生は気恥しそうに頭を下げて挨拶した。
歳の差は、小便の勢いにも現れていた。
俺が小便をし終わっても、先生はチョロチョロと続けている。指の先から、丸っこい頭がわずかに見えていた。
俺は洗面台に戻って手を洗いながら、目の前の鏡に映る先生の姿を見守った。
鏡の中で、用を足した先生が戻ってきた。

トイレには、俺たちのほかに誰もいない。
善からぬ考えがムクムクと頭をもたげる。
俺は先生に向かって話しかけた。
「先生、ここで会うなんて、奇遇ですね。どうです、退屈しのぎに、ちょっと遊びますか」
先生は何の反応も示さなかった。
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