(1)朝のお楽しみ

朝の通勤電車は混んでいた。とくにこの季節は、普段の乗客に新入社員や学生が加わり、息もできぬほどの混雑ぶりだ。
乗客を満載した電車は、ひと駅ごとに人を吐き出し、また新たな人を呑み込んでいく。そして、前後左右に揺れ動きながら、次の駅まで延々とも思えるほど、ゆるやかに走り続ける。

俺は最後尾の電車に乗り込んで、なじみの顔をめざとく見つけると、人の波を押し分けながら近づいていく。目指す相手は小柄な70歳前後のフケだ。
フケの名前は知っているが、まあここでは「先生」と呼んでおこう。俺が通っている、英会話塾の講師のひとりだ。
すっかり薄くなった白髪、銀縁眼鏡の奥の臆病そうな目、こぢんまりとした上向きの鼻、血色のよいなめらかな頬、柔らかな丸みをおびた顎――フケはいかにも几帳面そうな顔つきをしているが、俺にとっては、ちょいと可愛がってやりたくなる気になるタイプだ。

この先生に男色嗜好があると気づいたのは、英語の授業を受け始めてすぐだった。先生が授業の教材にしたのが、まさにその種の小説だったからだ。
不良少年たちがポルノ映画館ではしゃいで、ハゲの中年男に注意される。その仕返しに、少年たちは男の帰り道を待ち伏せする。そして男を無理やり倉庫に連れ込み、裸に剥いて――といったストーリーだ。暗示的な表現が多いが、あきらかにアメリカのゲイ社会の物語だ。
俺は先生の授業を受けながら、あれこれ想像した。ひょっとしたらこの先生は、少年たちに暴行される中年男に自分を置き換えて、密かな刺激を味わっているのではないだろうかと。

まあ、前置きはそのくらいにして、朝のひとときの楽しみを始めよう。
俺は先生の背後に、ピッタリと寄り添った。雑踏の揺れにあわせ、先生の柔らかい体が押しつけられてくる。
衣服を通してでも、小柄な見た目に反して、弾むようなぽっちゃりした感触が伝わってくる。とくに肉づきのよい臀部の弾力は、最高だ。先方の位置は低すぎたが、こちらが膝を曲げて位置を調整する。
ズボンのなかで膨張したイチモツの先端を、先生のやわらかい谷間が押し包んで、吸いつくような心地よい刺激を与えてくれる。
電車の揺れに合わせて、やわらかい狭間が前後左右に、押しつけられ、こすられ、どうしょうもないほど昂ぶってくる。にじみ出る先走りに、パンツが濡れるのを感じる。
背後からそっと先生の横顔を見下ろすと、耳たぶから頬にかけて赤く染まっている。丸っこいおでこには、うっすらと汗が滲んでいる。
あきらかに相手が意識している証拠だ。

ふいに電車が止まり、ドアにむかう人の流れに、俺たちの体は引き離された。
つぎに相手のところに戻ったときには、向かい合っていた。
電車の中の混雑は、ますますひどくなってきた。書類鞄を持つ俺の右手は、ふたりの体の間にはさまれていた。
先生は乗客の谷間に埋もれて、辛抱強く俺の胸辺りを見ている。形よくふくらんだ腹部が呼吸につれ、あいだに挟まれた俺の手をやわらかく圧迫している。
先生は意識して俺と目を合わさないようにしているが、俺が受講生のひとりだというのは、とっくに気づいているはずだ。

電車の横揺れがあって、鞄を持つ俺の右手が、先生の下腹部を撫でるように滑る。そのとき、手の甲にある種の感触が伝わってきた。意識しないと気づかないほどの、かすかな起伏。まるで柔らかい肉の一部にしこりができて、固く盛り上がったようだ。
手の甲を押しつけていると、それは独立した生き物のように蘇った――雪解けの大地から頭を出した、フキノトウを思わせて。
老人の小さな体に生まれた新しい力の感触に、俺は新鮮な感動を覚えた。
先生の顔をうかがうと、頬を染めて困ったような表情をうかべている。

先生のつけている整髪剤の、甘い匂いを感じた。俺はそ知らぬ顔をして、手の甲を小さなふくらみに押しつけ、人差し指の背中でそっと撫でた。ますます硬度と容積が増してきて、指に弾力を伝える。それでも先生は、俺の手から体をずらそうともせず、人壁の中でじっと立ちつくしている。
(先生、歳の割にはけっこう元気じゃないか)
薄い布地越しに、かわいらしい形状を指先でたどりながら、俺の頭の中で淫らな想念が渦巻いた。
(ホテルに連れ込んで、泣き叫ぶ先生を無理やり裸にひん剥く。そして、ぽっちゃりとした体を、考えられる限りの体位で犯しまくる――)
俺は高鳴る心臓の鼓動とともに、そんなことを考えていた。



これまで、何度となく繰り返されてきた行事だ。
先生はいつも車両の定位置にいて、俺もそこに乗りこむ。そして、ひとときの密かな快楽に耽る。お互い、楽しんでいるのは分かっていた。しかし目下のところ、二人の関係がそれ以上に進展することはなかった。
23/10/29 13:44更新 / 神亀

[6]次へ
[7]TOP [9]目次
[*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b