第5章 常務の性癖

(1)

ぼくは大学を卒業すると、ある大手商社の食料カンパニー部門で働きだした。学生にとって就職難のこの時代、超ラッキーなことだった。
ある日、ぼくは上司に言われて、藤森常務の部屋を訪れた。
一介の新入社員が、単独、会社重役の部屋に行く。そんなのは滅多にあることではない。それに藤森常務は切れ者で、社長も一目置いている人物――なんてことを会社同期の集まりで聞いたことがある。
(一体、何の用だろう?)ぼくは震える気持ちを鼓舞して、ドアをノックした。
「企画の高木鉄平です」
緊張した声で言うと、穏やかな声が返ってきた。
「入りたまえ」

藤森常務は60歳、ロマンスグレーの似合う恰幅の良い初老紳士だった。
ぼくが部屋に入って直立不動でいると、常務は大きなデスクの向こうから、しばらくものも言わず、値踏みするような視線でぼくの全身を見た。
ぼくは突っ立ったまま、息苦しさに耐えた。
ようやく常務が口を開いた。
「きみはいい体をしている。それに顔もハンサムだ」
次の言葉は聞き取りにくかった。「さぞかし大勢の年配男性に持てただろう」
「いえ、それほどでも――」
言いかけて、ぼくはハッとした。(いま、年配男性って言った?)通常会話なら大勢の女性に持てたんだろう、と来る。当然そう言われたものと思って、ぼくは返事をしたのだが。
聞き間違いかと思って常務の顔を見ると、何やら企んだ表情がうかがえた。
「やはりそうか。きみは年配者にも、持てる顔をしているからな」
(違います!)ぼくが慌てて否定しようとすると、先に常務が続けた。
「きみは英語が得意なようだな」
常務は手元の書類を手に取った。おそらくぼくに関する身上書だろう。
ぼくは学生時代、40代後半の英語教師と親密な関係を続けていた。だから英語の成績がマル優なのは当たり前で、実力が伴っていなかった。
そんな事情など露知らず、常務は命令するように言った。
「今度、私は東南アジア諸国を視察する。そこできみに随行員を頼みたい」

それが、藤森常務とぼくの最初の出会いだった。
そのときのぼくは、まさかこの後、藤森常務と抜き差しならない深い関係になるとは、微塵も思っていなかった。
ぼくは大学4年間、3人の年配者と肉体交流をしてきた。英語講師の宮内先生、マンション管理人のシゲルさん、そして美術の水原先生だ。三人三様の魅力はあったが、一番抱き心地が良かったのは60代半ばのシゲルさんだった。
それでもぼくは心に決めていた。社会人になったからには、彼らとの縁をきっぱりと切る、と。
でも勤め先は同じ東京だ。彼らといつ遭遇するか分からない。
まあ、その時はその時さ――ぼくの意志は、きわめて脆弱だった。

(2)

藤森常務に付き従っての海外旅行は、緊張しっ放しだった。東南アジアとはいえ主だった施設は、英語なら通じる。ぼくは片言の英語で、背後の常務を意識しつつ、冷や汗をかきながら係員と会話した。
最初の国タイは、藤森常務も何回か訪れているらしく、現地情報に詳しかった。レストランで早めの晩飯を食べているとき、常務は、このあと垢すりに行こう、と言った。タイでアカスリと言えば、たいがいは個室で女性が出てくる風俗店である。ぼくは事前にネットで調べていた。
(ええ!常務って60歳にもなって、そんな元気があるのかなあ)
ぼくは内心、感心しながらも、常務の後に従って歩いた。

連れて行かれたのは、高級感のある新しいスパ施設だった。日本の銭湯の大型版のようなもので、マッサージやアカスリのメニューもある。
全てが清潔で透明感に溢れている、健全なスパ施設だった。
ぼくは内心ほっとしたが、片や常務の裸を見て泡立つものを感じていた。でっぷりと肥っているが、色が白く、沁みひとつないきれいな肉体だった。歩くにつれ、プルンとした豊満な尻が揺れ動いて、ぼくは自分の股間が兆しを見せていないかと気が気ではなかった。
常務もぼくの股間を見て、オッでかい、というような表情を見せた。そのあと、温泉に入っているときも、大部屋でアカスリを受けているときも、何となく常務の視線を感じていた。

ホテルに戻って、自分の部屋でくつろいでいると、常務から電話があって、「ちょっと部屋においで」と言う。
部屋に行くと、常務はシャワーを浴びたらしく、バスローブを羽織っていた。
勧められてソファーに落ち着くと、常務は向かいに腰掛け、グラスにビールを注いだ。軽めのタイビール、シンハーだった。
「今日はお疲れさん。さあ、乾杯しよう」
ぼくは、グラスを取り上げようと手を伸ばしたところで、固まった。なんと大股開きに座った常務のバスローブがはだけて、仄暗い股間に性器が白っぽく浮かび上がって見えるのだ。
エッと思って常務のほうを見ると、目と目が合った。
その瞬間、ぼくは覚った。お仲間同士の直観的なひらめ
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b