東南アジアへのゴルフ旅行は、廉にとって満足のいくものだった。しかし片や、せっかくキーさんと二人旅が出来たのに、じっくりと愛の交歓をできなかったことに、不満があった。
それに、北海道の旅といい、今回の海外旅行といい、行った先でキーさんと特別な関係の人物がいて、廉を加えて3Pまがいのことをやった。こんなことなら、他の土地にも同様の人物がいるのではないか。
そんな思いから、心の片隅にどんよりとしたシコリのようなものがあった。
廉はキーさんに恋していた。それも「キーさん命」とたのむほどだ。
それだけに、キーさんを独り占めしたい気持ちが強かった。
廉とてものの道理が分からぬわけではない。キーさんのような幅広い交流のある人なら、廉と同じように愛情を抱く人間が、他にいても当然だ。その中の何人かとキーさんがいい仲になったとしても、何の不思議もない。
それに廉自身、自分が特別の存在だと言うほど、思いあがってもいない。
それでも――キーさんの愛を一身に受けていたかった。
帰国後も廉は、新橋のバーにたびたび行ったが、キーさんの姿を見なかった。
だからと言ってキーさんの携帯に電話するのは、はばかられた。いかにもこちらが焦れているように思えるからだ。
2月の半ば頃、キーさんと店でばったり会った。
キーさんは廉の顔を認め、「よお!」といつものさり気ないサインを送る。
にわかに心がときめいたが、その気持ちをグッと抑えて、廉も挨拶した。
「しばらくお顔を見なかったですね」
「ああ――長崎から大分にかけて、取材旅行をしていたんだ」
それを聞いて、廉の頭の中で、丸山老人やワンさんの顔が浮かんだ。それで、つい言葉に出た。
「さぞかし、たくさんの人と会われたんでしょうね」
キーさんはあっさりと答えた。
「ああ、取材旅行だからな。行く先々で、多くの人の話を聞いた」
「それはようございました。たくさんの人と交流できて、楽しい夜を過ごされたことでしょう」
キーさんは怪訝そうに廉の顔を見た。そして言った。
「なんだか含んだ言い方だな。何が言いたい」
「いえ、他意はございません」
廉は否定したが、つい不信感が口を突いて出る。「キーさんは、知り合いが多いでしょうから――」
「知り合いが多いから何だ?」
キーさんは追及してきた。普段は大らかでぶっきらぼうな物言いをするが、反面、鋭い感性を持っているだけに、廉の微妙な心の内を感じ取ったようだ。
廉が黙っていると、キーさんのほうから話しだした。
「ははあ、俺が旅先で他の男と寝たと思ってるんだな。それは無い。いくら俺でも、しょっちゅうやりまくってるわけじゃない」
廉は、キーさんの言葉を素直に受け止められなかった。それが態度に出た。廉は疑いを滲ませて、ゆっくりと言った。
「そうですか――」
キーさんは廉の顔をじっと見ていたが、静かに言った。
「今夜は楽しい酒になりそうにないな。俺は帰る」
そう言って、キーさんは店を出て行った。
後に残された廉は、しばらく呆然としていた。キーさんを追っかけて謝りたい気持ちはあったが、動けなかった。
ふと顔を上げると、初老のマスターが同情するような顔つきで、こちらを見ている。
廉は気を取り直して、ウイスキーのロックをぐいと飲んだ。
(なんだよ、唐突に帰っちゃうなんて――)
キーさんを非難する思いに、後ろめたい思いが重なった。
そのとき、マスターの穏やかな声が聞こえてきた。
「キーさんは、見掛けによらず潔癖症ですから、あんな態度をとったのです。でも根に持つ人ではないから、次に会ったときにはケロッとしていますよ。だからご心配には及びません」
マスターの言葉に、廉は少し気が休まったが、それ以上飲む気がしなくなって、早々に店を後にした。
その後、キーさんと会う機会がなくなった。新橋の店のマスターに聞いても、このところずっとキーさんは来ていないと言う。
(このままずっと、キーさんと会えなくなるのか?)
そう思うと、廉は暗澹とした気持ちになった。キーさんと会えない日数が長引くほど、それだけ不安な気持ちも深くなってくる。
3月の決算時期を迎えて、会社の仕事も大忙しだが、廉は仕事がろくに手につかなくなった。
(どうしちまったんだろう、ぼくは?)
廉にとって、暗い日が続いた。
廉の勤める会社は、3月の決算を無事終え、新年度の4月に入った。
その4月も半ばを過ぎた日曜日、廉は自宅で所在無げにしていた。
空はどんよりと曇っていたが、夕方になって外に出かけた。気分転換に散歩してみようと思ったのだ。
街路を歩いていても、ついキーさんのことを考えてしまう。2カ月近く会っていないし、キーさんからの連絡もない。
(もうキーさんとは縁が切れたのか)
そう思うと、言いようのない絶望感に囚われる。
公園を歩いているとき、ふと植え
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