(3)趣味の世界

廉と潔、二人の付き合いが続いた。
と言っても会えるのは、せいぜい月に一度ほどだった。潔のスケジュールが過密状態だったのだ。
廉にとって、キーさんに会うのは一刻千秋の思いだった。大手企業の重役ともなれば、分刻みのスケジュールなのは理解していた。それでもキーさんに会うのが待ち遠しかった。彼にすれば、毎日でも会いたい気分だった。

一方、潔は、レンちゃんとの付き合いをほどほどに考えていた。男同士の深い関りはこりごりだった。愛情が深ければ深いほど、別れの悲しみも深くなる。
だから(レンちゃんとは、付かず離れずの付き合いにしよう)と思っていた。
それでも、レンちゃんの肉体が頭の中から離れなかった。そのうえ、男の獣心をそそる菊座は(嵌め心地が抜群――)だった。控えめで灰汁のない性格も、自分と正反対なだけに、気に入っていた。
初めてレンちゃんの顔を見たとき、つい半年前に亡くなったシゲルさんを思い浮かべた。それほどレンちゃんは、シゲルさんのイメージがあった。
大手メーカーをリタイア後転職してきたシゲルさんとは、すぐ親密な関係に発展した。潔よりふたつ年上、常務取締役と嘱託という肩書の差はあっても、男好きの独特の嗅覚で初対面の時から惹かれ合った。
昼飯をご馳走したときや外交先に同行させたとき――事あるごとにシゲルさんをセカンドハウスに連れ込んで、愛し合った。
電子工学の技術者だったシゲルさんは、知的で、先進的で、飄々とした性格の持ち主だった。それに少年のような、体毛のないすんなりとした肉体をしていた。小柄なだけに、結合感は抜群だった。

――私がリタイアしたら、シゲルさんと同棲したいな。
――そうして一緒に歳を取って、私たちはメタボ体型になるのでしょうね。
――ああ、旨いもの食って、酒をたらふく飲んで、酒池肉林の毎日だ。
――だったら、ピンピンコロリで逝けますね。

房事のあと、そんな他愛もない会話をしたのを思い出す。
付き合いだして1年余り、相思相愛の仲だった。
そんなとき、シゲルさんの定期健診で喉頭ガンが見つかった。それから数か月後、シゲルさんはあっけなくこの世を去った。
最後まで飄々として、爽やかな人物だった。
シゲルさんが死んで初めて、失ったものの大きさに気づかされた。亡き人を追い求める気持ち――なにか深刻なホームシックに罹ったような気分だった。
毎日が惰性的に流れ、気づけば悲しい酒を飲んでいた。
そんなとき、レンちゃんに出会ったのだ。

――*――

出会いから2年余り、二人の仲は続いたが、若干の変化はあった。
潔は会社を退いて、完全リタイアしていた。自由時間は大幅に増えたが、その分多彩な趣味活動で忙しくなった。
ゴルフや旅行、水彩画や文章作り、カメラ――。
今最も熱中しているのは、「雲水ひとり旅」とタイトルした旅行案内誌だった。これまで旅行した先々の記録に、写真や自筆のスケッチ画を添えて、紀行文風に編集したものだ。
処女作は自費出版したが、それを目にしたある書店チェーンの関係者から、自分のところで売らせてくれ、とオファーがあったので有限会社を立ち上げた。と言っても趣味の範疇なので、気の向くままに仕事をしている。
第一版は本屋でそこそこ売れていた。旅の記事だけでなく、性におおらかだった江戸風俗の多少きわどい話を加えたり、素朴なスケッチ画や露天風呂に浸かる爺さんたちの写真(なぜか艶っぽい裸体ばかりで、肝心の部分はぼかしを入れている)を挿入したりして、読者が退屈しない工夫を凝らしている。

廉がそんな趣味多彩なキーさんに付き合えるのは、ゴルフと文章作りだった。
ゴルフは、無類のゴルフ好きであるオーナー社長に付き合って始めていた。そして偶然にも、会社が法人会員になっているゴルフ場が、キーさんの個人メンバーコースでもあったのだ。
廉はたまに付き合って、キーさんとゴルフをした。ゴルフ場と自宅の位置関係から、いつもキーさんが自家用車で廉を迎えにきた。
そんなときキーさんは、廉の女房が好きな菓子折りや特産品などを持ってきて、ちゃっかりと自分を売り込んでいた。おかげで女房は、キーさんに全幅の信頼を置くようになっていた。

ある金曜日、廉が仕事を終えて家に戻ると、女房が声をかけた。
「あなた、遠山さんから電話があったわよ」
「ふーん、何だって?」
「原稿の締め切りが迫っているので、明日から日曜にかけて泊まり込みで、あなたに手伝って貰いたいのですって」
キーさんの巧妙な手口に、内心ニヤリとした。廉がまだ帰宅していない時刻を見計らって、電話をかけてきたのだ。そして、女房に事情を話して、廉が大手を振って外泊できるようにした。なにしろ女房は、キーさんの大ファンなのだ。
でもキーさんの本当の目的は、廉と愛の交歓をしたいのは分かっていた。

次の日、廉は朝から麻布に
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