(1)廉と潔

ここに二人の男がいる。
飯田廉は62歳。身長160センチほどの小柄ながら、中肉、均整の取れた肉体をしている。魅力は色白、体毛のないきめ細やかな肌である。ほかにも好事家にとって、垂涎ものの魅力箇所があるのだが、それはあとの話にしよう。
一方の遠山潔は70歳、身長168センチ、肉の厚いがっしり体型をしている。こちらは男らしい体毛があって、赤らみを帯びた精力的な肌をしている。
この二人、7年越しの親密な関係を築いている。親密というのは、単に精神的な愛情にとどまらず、肉体的な深い結びつきもあるということだ。
共に妻帯者でありながら、一緒に自由気ままな行動をし、夜は親密な二人だけの時を過ごしている。
なぜこんなことが出来るのか?
これを理解するには、二人が出会った頃から現在に至る、彼らの軌跡をたどってみなければならない。

――7年前。
飯田廉は55歳、ある中小企業の総務部長をやっていた。小造りの目鼻立ちに小柄な体型、控えめな性格の持ち主である。
オーナー社長は裸一貫から会社を立ち上げた、我の強い頑固者だったが、仕事をコツコツとこなし自己主張の少ない廉に、厚い信頼を置いていた。
廉は子供の頃から口数が少なく、大人しい性格から、あまり目立った存在ではなかった。それでも頭が良くて、学業成績はいつもトップクラスにいた。それに、小さな身体ながら、運動神経に恵まれ、きわめて健康体であった。
父親を早くに亡くした彼は、子供時代から大人の男性に、あこがれの気持ちを抱いていた。しかし何事も控えめな彼は、自分の気持ちを表に出さず、じっと胸の内に秘めていた。
会社では総務系の仕事を続けていたので、パソコンが普及するようになると、いち早くその操作に慣れ、インターネットという便利な機能を覚えた。そこでは、彼が密かに温めていた男色の世界が、驚くほどあからさまに見られたのだ。
貯めていた小遣いで自分用のノートパソコンを購入した彼は、夜毎、電子上の男色世界にのめり込んでいった。
海外のゲイ動画、国内のゲイサイトに掲載された男色小説・エッセイ――いつも胸ときめかせて、ドキドキしながら見ていた。
そしていつしか廉は、いっぱしの男色者並みの知識を得ていた。あと足らないのは実践だけだった。
究極の男色行為は肛門性交だと知った廉は、いつかその行為が実現することを夢見て、準備を始めた。勇気を奮って浅草にある大人の玩具店に行き、必要な道具――シリンジ(直腸洗浄器)やディルド(張り型)、ラブオイル(潤滑油)などを買い求めた。そして女房に隠れて、浴室やベッドの中で、自分の身体を使って肛門性交の真似事を始めた。

いっぽう、当時63歳の遠山潔は、そろそろ会社を退職しようと考えていた。彼は、大手企業の常務取締役をやっていた。
濃い眉毛と輝く瞳の活発な少年は、長じて歌舞伎役者にでもしたいほどの男前になり、重役に就いてからは、渋い大人の雰囲気を持つ魅力が備わっていた。
潔には子供の頃から、年寄りの男たちを惹きつける、何かがあったようだ。近所に住むお爺ちゃんや親父たちに、なにかと可愛がられていた。
初めて年配男性と性的な関係を結んだのは、大学に入ったとき、相手は下宿先の老家主だった。
以来、週に一度は家主と親密な行為に耽ったが、男と関係したのはこの爺さんだけで、社会人になってしばらくの間は、女一筋で通した。
性的活力の最盛期だった中年の頃は、海外出張の折に、男を抱くことがあった。海外では彼の本質、男好きを開放できたのだ。それも自分の父親や祖父の年代に近い男達に、食指を伸ばした。
日本国内で男性との交接を復活させたのは、50歳になってからだった。子宮がんに罹った女房が摘出手術を受けてから、夫婦の睦みごとも無くなって、精の捌け口を男に求めるようになったのだ。
幸い潔は、お爺さんと呼ばれる年代の男性によくもてた。仕事やプライベートな集まり、そして社内で、彼に秋波を送る年配男性は何人かいた。潔はそうした中から、自分の好みに合う人間を慎重に選び、密かに関係した。

廉と潔が出会ったのは、新橋にある小さなゲイバーだった。
飯田廉は年々、男を求める気持ちが強くなっていたが、一方で自分の男色嗜好を家族や会社に知られることを極端に恐れていた。その点では憶病なのだ。
いよいよ男色嗜好が強まったとき、酒好きの廉はゲイバーに寄ってみようと決心した。都内にあるゲイバーの所在は、インターネットで調べていた。
ある晩、会社が引けてから、新橋にあるフケ専のゲイバーを訪れた。店は小さな雑居ビルの2階にあった。
ドキドキしながらドアを開けると、数人の先客がいた。店内は照度を落として、木質系内装の落ち着いた雰囲気だった。
カウンターの奥から、初老のマスターが笑みを浮かべて、「いらっしゃい」と声をかけた。どこにでもいる下町の親父とい
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