(3)私設秘書

苫戸初男は若い頃、政治ジャーナリストを目指していた。まずは新聞社に入社して、政治記者として第一歩を踏み出した。
しかしすぐ、仕事が面白くなくなった。
どちらかというと反体制派の彼は、枠にはめられることが嫌いだった。
最初は進取の気持ちで取材していたが、記事の大半は、記者クラブで与えられる政府側の一方的な情報だった。
彼はもっと掘り下げて、情報の裏に潜む政府の思惑を追求したかった。
そんなとき出会ったのが、榊原桂介である。
榊原は弁護士から都議会議員に転身した、新進気鋭の政治家だった。旧態依然とした悪習をぶっ壊し、新しい都政を目指す。その選挙演説や講演会の話を聞くにつれ、初男はこの新進の議員に惚れ込んだ。

思い込んだら猪突猛進の初男は、すぐに榊原事務所の門を叩いた。
榊原は、形式張らない包容力のある男だった。試しに、今度都議会で演説予定の草稿を書いてみろ、と初男に言った。
初男は議員の与えた課題に応じて、一晩考えて、議会演説の草案を書いた。
翌日、初男の提出した草案を見て、議員はうなずいた。
(この男は使える――)

初男は榊原議員の私設秘書となった。
最初から馬が合った。二人には共通項が多かったからだ。
物おじせず厚かましいところ、それでいて、茶目っ気があり、憎めない。それに型破りの発想と精力絶倫ぶり。
初男は、性格が似通ったところから、先生が次に何をやろうとしているのか、先読みできて、それに備えることが出来た。

しかしひとつだけ、初男の想定外のことがあった。
英雄、色を好む――榊原先生は初男の尻を所望したのだ。
先生が大変な艶福家で、銀座の種馬とあだ名されていたこと。また最愛の奥さまを亡くされ、女から男に宗旨替えした事情は知っていた。
しかし実際に、自分に迫る先生の持ち物を見たとき――初男は自分のモノに自信があったが、先生のモノは規格外だった。以前、ポルノ映画で見た、外国の男優並みだ。

まるで生きた心地がしなかった。気の遠くなるような苦痛の中で、初男は生まれて初めて、屈服感を味わった。
ようやく終わって意識もうろうとした初男の耳に、先生の声が聞こえてきた。
「――江戸の好色本に、最良の陰間が書かれている。尻の穴まわりの肉付きが良く、肌理細やかなこと。尻の切れ込みが深く、菊座が柔軟性に富んで、緩やかなこと――その点、お前は最高の尻をしている」

榊原事務所には、マドンナなる女性がいた。足立円華――榊原先生の娘で、ミス東京に選ばれたこともある。今や40代になり、二人の子を持つ母親であるが、往年の魅力は失われていない。彼女は父親の事務所で、会計事務の仕事や雑事をこなしていた。
いくら女好きの初男でも、この女性には食指を動かさなかった。なにしろ榊原先生の娘である。少しでもけしからぬことをやれば、先生の天罰が下ることは目に見えている。
ところがマドンナにチョッカイを出す無謀な男がいた。
内村栄之進という老人である。この爺さん、70代になるのに色気は失っていない。大きな尻をしたずんぐりむっくり体型だが、我が身を顧みず、美人タイプにめっぽう弱いのだ。
老人はマンションの管理人をしているが、空いた時間、用もないのに榊原事務所に入りびたった。そしてマドンナに、一回でいいからやらせてくれ、と無邪気に迫った。
しかし、マドンナのほうが一枚上手だった。なにしろ榊原先生の娘である。
彼女は、蛙の面に小便タイプの老人を適当にあしらって、逆に老人との会話を面白がってる風もある。

むしろ父親のほうが、内村老人を煩わしく思っていた。
当のマドンナがいないとき、榊原先生は栄之進に向かって、「うちの娘に興味がおありなら、ちょっと話し合いましょう」とサロン陶仙房に連れて行った。
二人は喫茶店ではなく、3階の家主の居住部分に行った。
部屋に入ると、先生はガラリと態度を変えて言った。
「娘の穴に突っ込みたいんなら、まず俺が調べてやる。これからお前のチンポが満足に立つのか、それともフニャチンなのかだ」
あとは苫戸初男が味わった苦痛の再現だった。栄之進は、ウンウン唸りながら、議員先生の太い逸物を受け入れていた。
そんな栄之進の苦しみなど気にもかけずに、榊原先生は気持ち良く腰をうねらせながら、好き勝手に言った。
「――うう、いい――爺さん、女のようにでかいケツをしてるから、さぞかし弛んでるだろうと思ったが、意外に締まりがいいじゃないか――うっ、こりゃあいい、よく締まる」
栄之進は枕にしがみついて、生きた心地がしなかった。それでもほんのちょっぴり、虐められる悦びを感じていたのである。



内村栄之進はめげない老人だった。榊原先生に地獄の責め苦を受けながら、そのことをケロリと忘れたように、事務所通いをやめていない。そして相変わらず、マドンナに向けて色目を使っているのだ
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