(1)セブンティ

ここは東京の下町でも閑静な地域、大学や病院の路地裏にある、古くからの住宅が残っているところである。
その路地の突き当りに、古びた外観の3階建て住宅がある。蔦の絡まるレンガの外壁を見れば、昔はモダンな建物であっただろうと想像させる。裏庭は広い都立公園に南面しているため、日当たりは至って良い。
3階は家主の居住部分、2階は家主の愛人を住まわせ、1階はその愛人に喫茶店をやらせている。
もっとも、愛人と言っても女ではない。60代の男である。

家主の名前は小林一成、70歳。見るからに親分肌である。
ずんぐりむっくりした体型をして、灰色の髪は短く刈っている。普段は口をへの字に曲げて、一見不愛想だが、存外、面倒見の良い人情家であり、地域の町内会長を長年やっている。
愛人の名前は小穴洋平、62歳である。区役所の職員だったが、退職後、以前から交際していた一成と同居を始めた。
中背ほっそりとして、優しい顔立ちをしているが、結構したたかな男である。
前は小林によって一方的に可愛がられていたが、今や立場を逆転させて、洋平のほうが主導権を握って可愛がるほうである。
もっともこれは夜の話で、普段は相変わらず、小林の下僕のように仕えている。宮勤めしていた名残で、博愛の精神に満ちているのだ。

さて1階の喫茶店だが、小林一成が65歳で商社をリタイアしたとき、退職金を使って自宅の一部を店舗に改造した。
家そのものは、親の代から続いたものを、25年前に建て替えていた。
敷地は袋小路になった突き当りにあるので、災害時には若干不安がある。しかし裏庭の境界壁に非常用の鉄扉があって、いざというときには公園側に逃げられるようになっている。
店のネーミングは袋小路であることから、両手を広げて「通せん坊」をするに引っ掛けて「サロン陶仙房」とした。
もともと一成は、不慣れな喫茶店経営を自分でやるつもりはなく、経験者を雇って店の運営いっさいをやらせた。
それは後日、区役所を退職した小穴洋平にやらせるようになったが。

袋地にある立地の悪さもあってか、開店当初から客は少なかった。
それでもしばらくすると、馴染みの客がぽつぽつと増えてきた。
町内会長をやっている一成は顔が広かった。それに何事もあけすけの彼は、男好きであることを隠しもしなかった。
必然的に、その方面の客、それも歳を食った客が多かった。それでもクラシックなインテリアを好む、女性客の姿もちらほら見られた。
一成のパートナー、小穴洋平が区役所を退職して店で働きだすと、客の数がより増えてきた。洋平は意外にも客あしらいがうまかった。どんなサービスをしてやっているのか不明であるが、爺さんたちに人気があった。
店で食事もできるようになった。洋平がいくつかの飲食店と話を付けて、出前をしてもらうことにしたのだ。
こうして店は一日中、暇を持てあます老人たちの憩いの場となったのである。

さてこの下町には、小林一成と仲の良い、二人の幼馴染がいる。
都議会議員の榊原桂介と画家の神谷雄一である。共に70歳――。
子供時代はいつも連んで、3匹の悪ガキとして、町内の大人たちから警戒されていた。女の子のスカートをめくったり、店のシャッターに落書きしたり、農家の庭先から柿を盗んだり――。
精通した頃は、面白がってお互いの性器をしごきあった。大学生の頃は、娼婦を引き込んで桃色遊戯をした。
男の尻も試してみよう、とおとなしいマンションの管理人を部屋に連れ込んで、強引に尻を犯したこともある。
とにかく若い頃、3人は悪戯の限りを尽くしていた。

社会人になって、ようやく真っ当な道を歩み出した。
小林一成は商社に、神谷雄一は都市銀行に、就職した。榊原桂介は弁護士目指して、司法試験に挑戦しだした。
その後3人は、社会人としての力を蓄えていったが、最後までサラリーマンをやったのは、小林一成だけだった。
神谷雄一は銀行業務のかたわら、趣味で絵画をやっていた。それが二科展で賞を取るようになった。もともと宮勤めが性に合わなかった雄一は、銀行員をすっぱりと辞め、絵画修行でフランスに渡った。そして同じように画家を目指す多くの外国人たちと交流した。ここで彼が得たものは、さまざまな絵画技法と男色の味である。
榊原桂介は、司法試験に合格したあと目標の弁護士になったが、そのうち政治に興味を持つようになり、試しに出馬した都議会議員選挙に当選した。外交的な彼は、町内の主だった有力者と顔なじみだったのが役立った。

60代に入った頃、かつての悪ガキ3人組は、おのおの社会的地位を築いていた。かと言って、聖人君子になったわけでもない。
小林一成は女房に先立たれ、二人の娘たちが結婚して家を出ると、興味のあった男性専科に切り替えて、小穴洋平と付き合いだした。
神谷雄一はもともと男好きだったが、母
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