(余談)

この小説を書く前に、根津神社界隈から上野の森まで、何度か足を運んで構想を練った。書き終わったあとに改めて訪れると、また違った感慨が湧いてくる。
総戸数300戸の『ツインパレス根津』なんてマンション団地は架空のものだが、私の目にはその全景が浮かんでくる。
あ、木原正人が針ヶ谷老人の肩に手を置いて、マンション玄関から出てくる姿が見える。この厚かましい、スケベ!
サロン内の集まりでは、素朴で実直な伊藤会長が、はにかみながらも山下未亡人になにやら話しかけている。
おや、歩道の向こうから、杖を突いた内田老人と背の低い河合昌介が歩いてくる。言葉少なだが、老人を気遣う河合昌介の思いが伝わってくる。
人の世は千変万化、複雑に変わりゆく万華鏡のよう――。でもここ、根津に住む人たちはケセラセラ、何事もあるままに生きている。

ピンク色の濃い小説を書いた不徳を清めるため、根津神社に向かう。
表参道の鳥居をくぐって神橋を渡り、途中、手水舎で身体を清めることを忘れずに、桜門、唐門とくぐる。それから拝殿で神妙な気持ちになってお参りする。
二拝二拍手したところで、手を合わせてお願いする。
(神様、不純な心をお清めください)ついでに近所に住んでいたという森鴎外や夏目漱石にあやかって(拙い文才を少しでも高めてください)とお祈りする。
そして最後に心を込めて、一拝。
ハイ、これで私の心は清純無垢、ついでに文才も、少し高まったような御利益を感じる。
そのあと西門から出る。ちょっと戻ったところで西の傾斜地に入って、千本鳥居を潜り抜ける。
根津神社の境内から出たときには、身も心もすっかり清らかになっていた。
でも私は、罪深き人間である。街を歩くご老人たちの姿を見るにつれ、よろしくない気持ちがムクムクと頭をもたげてくる。
お、素敵なお爺ちゃん!あ、こちらもいいな!


22/03/30 08:55更新 / 神亀

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