(10)旧交を温める

私は66歳の現在、新たに二人の老人と付き合いを始めている。
ひとりは老人クラブの76歳になるノボルさん、そしてもう一人は70歳になるメル友セイちゃんである。
二人は風貌も性格も違うタイプだが、肌のきれいさと心持ちの可愛さは共通している。
考えてみれば、この二人は、私が現役時代に関係した人物――いずれも物故者になっているが――に似た雰囲気がある。ノボルさんは財団の理事長だった人に、そしてセイちゃんはリタイア後転職してきた嘱託さんに。
ひょっとしたら私の中に、ノスタルジアのようなものがあって、今は亡き二人に似た人物を求めていたのかも知れない。

私は現役時代、それぞれの時期に、5人の男性とお付き合いしていた。
そのうち二人は、先に述べた物故者たちである。残り3人中、二人は同じ社内の人間だったので、今もって何らかの接点を保っている。

この春先、久しぶりに、働いていた会社を訪れた。ОB会の関係で、現職役員とちょっとした打ち合わせがあったのだ。
その席でトシ(俊明)と顔を合わせた。45歳のいまは総務次長だ。
相変わらず色白の艶やかな顔をしている。それに歳を取った分、男の色気が増したようだ。その顔を見ていると、昔のことがまざまざと思いだされる。

密かに愛し合っていた年上の管理職が定年退職して、そのあと本部に配属されたのがトシだった。
見るからに稚児タイプの男だった。非常に肌つやの良い童顔で、背は低いがほどよく肉が付いている。
35歳で独身、それに怯えたように私を見る眼つきで、すぐに気付いた――この男は、父親の年代の男性に特別の思いがあると。
フケ専の私は、当初、トシに関心を示さなかった。なにしろ20近く年下だ。
それが社内旅行のとき、ホテルの大浴場で彼の裸体を見たとたん、肌の泡立つような欲望を覚えた。
背は低いがむっちりと肉がついて、腹や腰のやわらかい線や丸みを帯びた尻が、妙に艶めかしかった。
とくに惹きつけられたのは、異質のきれいな肌だった。抜けるように色白で、肌理が細かく、しっとりとした艶を帯びている。
その夜、私はトシを部屋に呼んで、半ば強姦同然にトシを凌辱した。トシは無抵抗に、私の狼藉を受け入れていた。それから月に一度の頻度で、私たちは二人だけの親密な時を過ごすようになったのだ。

その日の打合せが終って、最上階のレストランで現役の役員と会食した。その間トシは離れた席で、控えめにこちらを見ている。
会食が終って地下の車寄せまで見送りに来たとき、トシがそっとささやいた。
「予約は取れています。お名前をおっしゃれば通じます」
他の人間が聞いていても、何のことか分からないだろう。会社で呼んだハイヤーに乗ったあと、私は目的のホテル名を運転手に告げた。

ホテルの部屋に入ると、まずシャワーを浴びてすっきりした。浴衣を身に付けたあと、ほどよく空調の行き届いた部屋で、テレビを見ながら待った。
15分ほどして、ノックする音に、ドアを開けるとトシが立っていた。ドアを閉めるのももどかしく、しっかりと抱き合って、熱烈な口づけをした。
少し落ち着くと、トシは持参したハーフサイズのワインボトルを出して、ホテル備え付けのグラスに注いだ。
「私は先に身体を洗います。本部長、申し訳ありませんが、ワインを飲んでお待ちください」
名前で呼べといくら私が言っても、トシは『カズさん』と呼べない。トシの中では、私は永遠に本部長なのである。

トシが素っ裸の上にホテルの浴衣を着て、バスルームから出てきた。下着を身に付けないのは、私の意向があるからだ。
「こっちにおいで」
私はソファーの横を空けながら言った。
「今日はご苦労さん」
言って、トシのグラスにワインを注いでやった。
乾杯して、お互いの目を見ながら、グラスを傾けた。
「会社の業績はいいようだな」
「はい、おかげ様で。先輩たちの築き上げた礎があればこそです」
「まあ私たちも配当を享受してる。現役の皆さんに感謝だ。それにしてもお前、総務次長になって貫禄が出てきたな」
私はグラスをテーブルに置くと、トシの腰に腕を回して引き寄せた。

風呂上がりのトシの顔は、艶やかに輝いていた。短く整髪した頭、丸っこいおでこ、お公家さんのように薄い眉毛、二重瞼の夢見るような瞳、少し上向きの鼻、ピンク色のこぢんまりとした唇――童人形のような、顔の造作のひとつひとつを見ていると、じんわりと欲望が募ってきた。

抱き寄せて、そっと口づけした。トシが控えめに反応して、舌を入れてくる。
その舌を吸いながら、浴衣をはだけ乳首を触る。
小さな身体がヒクンと動き、次いで弛緩する。むっちりと肉の付いたわき腹から太ももへと愛撫しながら、ささやきかけた。
「お前、ちょっと太ったんじゃないか?」
「ええ、少し――」
すっかり興奮したトシが、喘ぎながら応えた。

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