(8)声

私の名前は桧垣和彦、何の特技もないが生来の男好きである。62歳でリタイアして、サンデー毎日の生活を送っている。
そんな私が退屈しないのは、手慰みにゲイ小説を書いてネット上に投稿を始めたこと、もうひとつは地元老人クラブに入ったことだ。
私はフケ専である。好みのフケを見ると、ついお尻に入れたくなる。
老人クラブはフケの集まり。選り取り見取りと言う訳でもないが、私好みの爺さんは何人かいる。
そんな爺さんに対して、いきなりヤラしてくれとは言わない。私流のやり方で、じんわりと接近する。

私は男好きであることを隠していない。かと言って、自分がゲイであることを、カミングアウトしているわけでもない。
周りの人たちの反応は面白い。
私がいくら「女より男が好き」と言っても、真に受けてくれない。爺さんをハグしたり、尻を触ったりしても、「まあ、いやらしい」くらいで済む。
それは、私に女房・子供・孫がいるからであり、また彼らが健全な精神の持ち主だからであろう。
だから、まさか私が本当に、男の尻にチ〇ポを入れている姿など、想像さえできないのだ。

大体、男好きの男達は勘が鋭い。だから男好きの持つ独特の波長を嗅ぎ取って、相手がお仲間であることを感知する。
その能力は私にも備わっている。
私は現役時代、その能力で5人の男性と恋愛関係を持った。
もっとも、強引に肉体関係から恋愛にもっていった例もあるが。
私はフケ専であるから、もちろん相手は私より年長者だ。それでも一人だけ例外的に、20歳近く年下の男がいた。この男は、今で言うパワハラまがいで強引にモノにして、当人が本来持つ男好きに目覚めさせたのだ。
あとの4人は、年長の管理職、再就職で来た嘱託、財団の理事長、飲食チェーン店の経営者、と経歴はばらばらの年配者たちだ。

ときどき考える。――私好みの男とはなんだろう?
私はフケ専だから、心を動かされるのは年長者ばかりと思っていたが、はるかに年下の男も愛している。(と言うのも、その年下の人間とは今も年に数回会って、親密な時を過ごしているからだ)
そこで年齢は除外して、私が関係した5人の共通項を探ってみる。
まず肉体的には――これまたばらばらである。
管理職はぽっちゃり肥ったあんこ体型、嘱託は小柄ほっそり型、理事長は小太り体型、店の経営者は英国紳士風のスマート体型、そして年下は、むっちりとした固太り体型――。
では体型を除外すると――そこで見えてきた。
いずれも肌がきれいなことだ。それに体毛が薄いのも共通している。特に管理職と年下は、抜けるように色白の肌をしている。
では性格的にどうか――。
これははっきりしている。いずれも温厚で、争いを好まないタイプ。そして心が可愛らしい男たちだ。

――*――

その声が聞こえ始めたのは、私が65歳を過ぎた頃からだった。
――このスケベ親父!
突然の声に思わず周りを見渡したが、周囲には誰もいない。空耳にしては、妙にはっきりと聞こえてくる。
――この浮気者!
――恥ずかしくないのか!
雑踏の中でも聞こえる。声は明確に聞こえるのに、周囲の人間は、何も気づいていないようだ。
どうやら聞こえるのは私だけ、それも私の頭の中だけのようだ。
そのうち悟った。それは――私の心の声だった。

私はたまに一人で、同好の士が集まるフケ専バーに立ち寄る。
爺さんを引っ掛けようとするときは、趣味の良い服装にする。逆に、一人きりで飲みたい夜は、サングラスをかけて怖い小父さん風の恰好で行く。
その夜も一人静かに杯を傾けながら、店内の客を観察していた。
カウンターの端で、頭髪の薄い50代の親父が、70代と思われる爺さんに向けて、しきりに話しかけている。
(あの禿げ、爺さんをナンパしようとしてるな――)
私が考えると、すかさず声が聞こえてきた。
――生温かく見守ってあげろよ。
(見守るだと。これが黙っておれるか。純情な爺さんが、毒牙にかけられるかも知れないんだぞ)
――お前、臆面もなく、よくそんなことが言えるな。お前こそ、これまで何人もの純情な男どもを、毒牙にかけてきたじゃないか。
(全部が純情とは限らん。海千山千だっていたんだ。――あっ、あの禿げ、爺さんを店から連れ出そうとして――サラミソーセージを突っ込もうというのか)
――下品なこと言わないの。近頃、満足に立たなくなったからって、やっかみが多くなったな。
(なにを!今だって朝立ちしてらぁ)
――あれは朝立ちって言わないの。おしっこが溜まってるだけだ。

万事がこの調子で、心の声をまともに聞いていると、精神衛生上はなはだ宜しくない。そこで開き直って近ごろは、心の声を単なる悪友と受け止め、気にしないことにしている。

その頃、私は、老人クラブで脈のありそうな、一人の爺さんに目をつけていた。
私より10歳年上、中肉
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