のぞきの常習者や変質者を指して、出歯亀と呼ぶ。
もとをたどれば明治時代、女湯のぞきの常習者で出っ歯の池田亀太郎が引き起こした、猟奇殺人事件からである。
教職者や警官等の公職にある人物でさえ、のぞきや盗撮で逮捕されたという話題が後を尽きない。それほど、のぞきという行為は、好き者にとって魅力ある行為なのであろう。
さてここに小山等という男がいる。52歳、小柄でほっそりとして、歌舞伎役者の女形にしても通るような優しい顔をしている。
本人はそれを気にして、鼻の下に髭を生やしているが、白いものの混じった薄い髭なので、本人の目指す威厳効果は、あまり出ていない。
一部の人間はどういうわけか、この男がなよっとした見た目に似合わず、カリ高ズル剥けの男の道具をぶら下げていると知っている。
それはともかく、この小山等には無類の覗き趣味があった。
と言っても、鏡やスマホを使って女の子のスカートの中を覗いたり盗撮したりするような、犯罪行為はやっていない。それにもともと彼は、女に対して全く興味を持っていない。
ヒトシの場合は、たまたま――それこそほんのたまたま、興味ある場面に遭遇したとき、物陰に隠れてじっとのぞき見する――そんなたぐいのものだった。
その興味ある場面とは、どんなものなのか?
例えば夜の日比谷公園。ヒトシは仕事のあと、この公園をよく歩き回る。そしてたまに、ほろ酔い加減のスーツ姿の親父リーマンたちが発展しあっている場面を見かけたりすると、素早く物陰に隠れて社会見学をする。
ヒトシは清掃会社で働いている。その前はアパレル業界で働いていたが、不況のあおりを食ってリストラされ、今の会社に拾われた。会社で働くといっても分かりやすく言えば清掃員である。
モップやポリッシャーを使って床を清掃したり、雑巾でテーブルを拭いたり、あるいはガラス磨きをやったりする。
働く時間帯は、早朝と夕方以降。場所は会社に指示されれば、どこにでも出向く。目下のところは、丸の内のオフィスビルが働き場所となっている。
ゴールデンウィーク明けのある晩、ヒトシは某企業の室内清掃を一人でやっていた。時刻は夜の8時頃である。
そのフロアは役員階で、床は分厚いカーペットが敷かれ、会社員はすでに帰っていることもあって、あたりはシーンと静寂に包まれていた。
フロアの奥に向かったとき、一つのドアの下から明かりが漏れていた。
(おや、まだ残っている人がいたのか)
近づくと、その部屋は専務室だった。
ヒトシは、手前の部屋のドアを開け、中に入った。暗がりの中を専務室との境の壁伝いに、窓のほうに行く。壁際のサイドボードのところに行くと、上部の壁に掛かった絵画をそっと外した。
細いスポットライトのように、一条の光が壁から放射された。
秘密の覗き穴だった。ヒトシは偶然、この覗き穴を見つけていた。誰が何の理由で設けたのか知らないが、明らかに専務室の様子を見るのが目的だと分かる。
恐る恐るその穴を覗いて、ヒトシは危うく声をあげるところだった。
おそらく部屋の主の専務であろう、いかにも偉いさんらしい顔つきの紳士が、ソファーに座っていた。
しかし、その状況が異様だった。
上着やネクタイは着けたままなのに、下半身はすっぽんぽんなのだ。シャツは胸元までまくられ、乳首がみえていた。
その乳首を指先で摘まんで揉み解しながら、もう一方の手は、赤く色づいた亀頭を揉んでいる。ときおり年配者の口から、「はあっ――」と悩ましいため息が漏れ出ていた。
心臓がバクバクと騒ぎ立てる中、ヒトシは魅入られたように、室内で繰り広げられる重役の自慰行為を見ていた。
ヒトシの片手は自然に下にいき、ズボンの前をまさぐる。我慢できなくなって、ファスナーを引き下げ、自らの逸物を取り出した――。
そのとき、肩に誰かの手が置かれ、ヒトシはギョッとした。
振り返ると、暗闇に背の高い警備員が立っていた。たしか奥村と名乗る、中年の男だ。
奥村は口に人差し指を立て、額縁を戻すよう身振りで指示した。
きまり悪そうに額縁をもとの位置に戻し、部屋から出ると、警備員は黙ってヒトシの腕をつかみ、エレベーターの方に引っ張っていった。
連れていかれたのは地下1階の監視室ではなく、警備員の控室だった。和室4畳半に流しと湯沸かし、奥の壁際に仮眠用の2段ベッドがある。
部屋には60代後半とみられる、でっぷりと太った年配の男が、胡坐をかいてテレビを見ていた。警備主任の川勝という男だ。彼はヒトシの姿を見て、何だと言うように奥村の方を見た。
「こいつ、例のところから専務室を覗いていたんです」
奥村が報告して、ヒトシは慌てて言った。
「ごめんなさい!光が漏れていたんで、誰か残っているのかなと思って――」
とたんに頭をどつかれた。
「馬鹿っ!だったらなんで、ズボンからチ〇ポを出
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