(9)甘えん坊の岳父

私たち夫婦は、いわゆる出来ちゃった結婚である。大みそかの晩、コンパで意気投合してホテルにしけこみ、結果、女の妊娠となった。
これでは事前に、親の同意を得るどころではない。私たちは必然的に、結婚せざるを得なかった。
女の両親の反応は、まちまちだった。
母親は、娘を孕ませた私を、咎めるような目つきで見ていた。ところが父親のほうは、いかにも嬉しそうに私をハグしたのだ。
女房の家は、麻布の豪邸に住む資産家だった。義父は男の甘い色気を感じさせる顔をしていたが、裏を返せば甘ったるいボンボン気質の男だった。しっかり者の義母は、そんな夫の手綱をしっかりと握っていた。
結婚式のときから、義父は私にベタベタくっついて、ことあるごとに接近してきた。それを義母は、苦虫を噛みつぶしたような顔で見ている。どうやら義父が男好きなのを、苦々しく思っているようだ。
目黒の家に同居するという案もあったが、私は一蹴した。あんな義父と一緒の家で暮らせば、なにか大変な不幸が私の身に降りかかって来るような、予感があったからだ。

別居生活をしていても、盆正月の行事や義父母の誕生日には、目黒の屋敷に行かなければならなかった。そんなとき義父は、家族に隠れて私に迫った。たまには温泉旅行に行こうとか、夏休みに北欧に行かないかとか――。しかもそれは全部、義父と私の二人きりで行く誘いだった。
子供は二人できた。男の子と女の子だ。当然のことに、義父母は大喜びで、ことあるごとに目黒の家に呼ばれた。そんなとき、義父は私以上に子ども扱いがうまかった。何のことはない、義父も幼児言葉を使って、孫と遊べたからだ。
それでも義父は、ときおり私のところに来て、次の日曜日に日帰り温泉に行こうと誘いをかける。そんな誘いに乗ろうものなら、私の貞操が危ういことになる。

ところが、会社でも同様のことが発生した。その頃、私は秘書室にいたが、人事担当の重役が私に接近してきた。重役は義父と同趣味だった。どうやら私には、その方面の年配者を引きつける、何かがあるようだ。
そして私は、重役をとるか昇格をあきらめるか、究極の選択を迫られた。私には、家族の扶養義務がある。そこでついに、重役の言いなりになった。
男同士の初体験は、温泉宿に泊った晩だった。不幸中の幸いで重役は私の尻を所望せず、自らのお尻を差し出した。
実際経験してみると、意外にも良かった。それに雲の上の存在のような重役を、私の体の下に組み伏せて責め立てるのは、すごく気分が良かった。重役は、息も絶え絶えにあえいでいたが、その苦痛が彼にとっては悦びであるらしい。
付き合いが重なってくると、重役は自分の嗜好をもろに出すようになった。
会社では厳格な人物と見做されている重役が、私と二人きりになると、幼児言葉を使って甘えてくるのだ。子供時代に心の傷でもあったのだろうか?
とにかく重役に合わせないと不機嫌になる。私は気持ち悪さを押し殺して、重役に合わせて演技した。
「センセー、ぼく、ポンポンが痛いの」と重役。
「おう、それはいかんな。ささ、ポンポンを見せて」と私。
「はい、センセー」
「ふむ、太い注射をすればすぐ直るよ。さ、注射してあげよう」
「太い注射はきらい。痛いんだもん」
「そんなこと言ってると、お尻をたたくぞ。さあ、お尻を出しなさい」
「あーん、センセーがいじめる」

私は、とかく自己嫌悪に陥り勝ちになった。それでも、慣れるのはいいが、馴れ馴れしいのは良くない――立心偏と獣偏の違いをわきまえて、私は重役に付き合った。

義父が66歳のとき、義母が病気で亡くなった。
義母の葬式が済んだあと、妻は父が心配で、目黒の家に同居することを私に提案した。
私は会社の重役と密かな関係を続けている最中で、二の足を踏んだ。
同居すれば義父が私に迫ってくるのは、目に見えている。同時に、二人の年配者を相手にするなんて、ちょっと荷が重いと思ったのだ。
そんな矢先、妻が差し迫った様子で、私に相談を持ちかけた。
「今日、千佳子さんから電話があって、父の様子がおかしいと言うの」
千佳子とは、義父の家にいる中年の家政婦のことである。家政婦が言うに、近頃頻繁に男の人が屋敷に来るようになった。旦那様の部屋に閉じこもって、声しか聞こえてこないが、なにやら嫌らしいことをしているようだ。これまで訪ねてきた男は3人にのぼる――。
おそらく、お目付け役の義母がいなくなって、義父の男好きに歯止めが利かなくなったのだろう。このままでは、お坊ちゃん育ちの義父のことだ、悪い男につかまって、財産までも乗っ取られかねない。
妻は私に言った。
「ねえ、あなた、何とかしなさいよ」
私は戸惑った。何とかしろと言われても、何も思いつかない。そこでとりあえず、義父に会って話をすることにした。

次の日曜日、私は義父の家を訪れた。洋
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