「良ちゃん、母さんは結婚することにした」
ある日、私が勤め先から帰ると、母は唐突に言った。
突然のことに、私は面食らった。
「――そう。で、誰と?」
「堀井さん。ほら運送会社の――」
「ああ――」
私は納得した。堀井は小さな運送会社の番頭で、ガタイの大きい老人だった。これまでも用がないのに母と一緒の姿をよく見かけた。でも、50歳の母に対して、堀井は60代半ばを過ぎている歳だと思ったが。
母は、肝っ玉母ちゃんの典型で、竹を割ったようなさっぱりとした性格をしている。中背小太りの体は、いつも活気に満ちていた。長年、街の不動産屋で働いて、女手ひとつで私を育ててくれた。
一人息子の私は、今や32歳。コンピューターのソフト会社で働いている。今もって独身だが、そのことについて母は何も言わない。
私は父の顔を知らなかった。物心ついたときには、父はいなかったし、母も父のことについて、一言も口にしなかった。推測するに、私は母が18歳の時の子供なので、若気の至りでセックスした結果、私が出来たのではないかと思う。
私が母親似でないのは、はっきりとしている。私は小柄で、顔も性格も優しいとよく言われる。しかし、優しいと言うと聞こえがいいが、要するに気が弱いということだ。だから喧嘩になりそうだったら、先に逃げてしまう。
母が入籍したあと、堀井は私たちのアパートに同居した。堀井は180センチを超す大男で、体重も100キロ近くあった。夫婦が並ぶと、普通体型の母が小さく見えた。
もともと2DKの狭いアパートだったので、3人が暮らすと鬱陶しくて仕方ない。と言っても、日中は3人とも外で働いて、夜帰って寝るだけだった。
それでも朝の食事は同じテーブルになる。それに、夜、私が家に帰るのは遅いので、堀井の使ったあとの風呂に入らなければならない。他の男が使ったあとは、なんとなく不潔に感じられた。
母と結婚した堀井は、私の義父ということになる。正確には継父(ままちち)ということだろう。
堀井は大男だが、気が優しくて力持ちのタイプだった。あまり些事にこだわらず、本能のままに生きているような印象がある。私に対しても、あけすけな態度をとって、話す内容も直球で来る。
「良ちゃん、いいひとはいないの?」
「やりたくなったら、どうしてるの?」
「俺が紹介してやってもいいぞ。女が欲しくなったら言ってみな」
義父の会話は、アノことだけである。まるで世の中は、男と女がヤルことだけだと言わんばかりに。
私は、今のアパートを出ることを考え始めた。私の給料はそこそこだし、他のアパートを借りることはじゅうぶん出来る。
ある日曜日、外から帰ってきた私は、そのことで母に相談しようとした。
部屋のドアを開けた途端、裸の大きな後ろ姿が目に入った。
なんと、男女の秘め事の真っ最中だった。ベッドに手をついた母の腰を背後から掴んで、素っ裸の義父がモクモクと尻を動かしている。二人の身体の間から、ズブッ!ブチャッ!と湿った音が漏れ聞こえる。
(真っ昼間からなんだよ)
自分の母親が男にやられている姿を見るのは、いい気分ではない。それも50歳と66歳の熟年交尾だ。私はすぐに引き返そうとした。
そのとき、ふと義父が振り返った。彼は私の顔を見てニヤリとすると、再び抜き差し行為を続けだした。
しばらくの間、肉太の大きな裸体が脳裏に焼き付いていた。運送仕事で鍛えられた、太い腰骨と豊満な肉体。横に張ったでっぷりとした尻の動きや結合部から漏れ出る湿った卑猥な摩擦音――その情景が蘇ると、狂わしいほどの劣情に囚われた。
私は女に興味がない。32歳の今もって童貞である。かと言って、男と性的関係を結んだこともない。
別に肉体的欠陥があるわけではない。人並みに精巣で精子を製造し、勃起させて精液を放出することもできる。
ただ、自分の5本指以外で射精したことがないだけだ。
心情的には男好きである。父のいなかった私は、父と言う存在にあこがれを抱いてきた。だから年配の男性に惹かれる。だけど堀井のような、大雑把な男は敬遠したい。理想を言えば、教養のある優しい年配者がいい。
ときどき夢を見る。包容力のある暖かい身体に抱かれて、優しく愛撫を受けている自分の姿を。
私は母たちと別居して、新しく借りたアパートで生活を始めた。いったん一人きりの生活を初めて見ると、堀井のような男でも懐かしく感じる。性格はともかく、彼の豊満な肉体は、視覚的に魅力があったからだ。
そんなある夜、当の義父が私のアパートに訪ねてきた。
「堀井さん、どうしたんだい?」
「いや、母さんが仕事で、大阪に出張しているんだ。一週間ほどかかるらしい。で、やることがなくて、良ちゃんのところに寄った」
(彼は自分の女房のことを、母さんと呼んでいた)
堀井はここに来る前に、アルコールを入れているよ
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