(4)朴訥な岳父

私はときどきひとり旅をする。会社や家族のことを忘れ、日本各地の風物をカメラに収める。そして地元の人々と交流する。
実はその裏に、密かな期待感もあった。私と同じ趣味、つまり男好きの年配者と遭遇して交流することを夢見ていた。これまでのところ、その夢は実現したことは無かったが。

ある夏の日、私は週末を利用して、長野で農業をやっている義父を訪ねた。
北陸新幹線に乗って上田駅の改札を出ると、義父が待っていた。
小麦色に日焼けした顔が、私を見て人懐っこく白い歯を見せる。白の半そでシャツにベージュの作業ズボン――中肉中背の身体は、農作業を続けることによって、健康的に締まっている。義父はたしか67歳になるはずだ。
「お父さん、ご無沙汰しています」
私が声を掛けると、義父は眩しそうに私を見て、素朴な笑みを浮かべる。
「俊雄さん、久しぶりやね。家族は元気か?」
「ええ、皆変わりありません」
義父は私のことを、さん付けで呼ぶ。娘婿の私に遠慮があるようだ。義父にさん付けで呼ばれると、むずがゆい気分がする。かと言って訂正するのも面倒なので、そのままにしている。
挨拶もそこそこに、義父が駅前広場に駐車している軽トラックに乗る。

義父の家は、広い畑の一角にある。家の敷地も広く、瓦葺き屋根の母屋のほかに、作物や農機具を収める納屋がある。庭の片隅には鶏小屋もある。
番犬として飼っている柴犬が、人懐っこく吠えて私たちを出迎える。家の主人と一緒にいるので、私に対しては攻撃的に吠えない。
田舎ののんびりとした風情は、都会生活に疲れた私を生き返らせる。ゆったりとした時の流れを感じながら、私は義父の後に付いて家に入った。
義父はひとりで生活していた。それにしては、農家の大きな家をひとりで守るのは、大変だと思う。家に入るとまず土間があって、囲炉裏の切られた茶の間があり、その奥に広縁でつながった続き間の座敷がある。裏側には台所や浴室、便所、そして寝室に使っている洋間がある。
驚いたことに、どの部屋もきれいに清掃が行き届いている。義父はよほど几帳面なのか、あるいは私が来るというので特別に片づけたのか。

昼はもりそばが出た。義父が昨夜打ったものだと言う。色の黒い素朴な味で、私はお替りして二杯食べた。それを義父は、うれしそうに目を細めて見ている。
義父は腹ごなしに、今夜のおかずにする野菜を収穫すると言うので、私も手伝うことにした。家のすぐそばにある菜園で、トマト、キュウリ、ナス、チンゲンサイ、などを取り入れた。
作業の終わったあと、義父は私に訊いた。
「俊雄さん、せっかく上田に来たんだから、どこか行きたい所はあるかね?」
上田城には何度か行ったことがあるので、別所温泉の方面に行きたかった。
あちらには、北向観音や安楽寺の八角三重塔など古い建造物がある。それを義父に伝えると、うれしそうに頷いた。
「そちらに行くんなら、ついでに露天風呂に浸かりますか。わしがよく行く日帰り温泉があるんで」

義父の運転する軽トラックの助手席に乗って、まずは北向観音に行った。
ここは天台宗の古いお寺である。普通、お寺は東か南に向かって建てられるものだが、ここではお堂も観音像も北向きである。
ついで北の安楽寺に向かった。山門近くの駐車場で車をとめて、まずは本堂に行った。曹洞宗のお寺で、長野県で最も古い寺と言われている。
そのあと左の階段から、最上部に位置する八角三重塔を目指して歩いた。先を歩く義父は、さすが農作業をやっているだけあって、すこぶる健脚だ。義父に付いていくだけで息切れがしたが、目の前でムクムクと動くお尻を見るのが楽しみだった。
ようやくたどり着いた八角三重塔は、8本の母屋柱がある珍しい建築様式で、国内で現存するのはここだけである。
私は古い建造物が好きで、二つのお寺をまわるだけで2時間近くかけた。その間、義父は辛抱強く、私に付き合ってくれた。

夕方、義父は公共温泉施設に車を回した。ここはリニューアルしたばかりで新しかった。
入湯料500円だが、義父は回数券を持っていて、それで二人分払った。それに手回しよく、タオルは自前のものを2枚持ってきていた。
安楽寺の坂道で、義父の健康的な後ろ姿を見てきた私は、これからその裸を直に見られると思うと、期待に胸膨らませた。
脱衣室で裸になったとき、義父の色の白さに驚いた。普段露出している顔や腕は小麦色に日焼けしているのに、服の下に覆われた部分は、抜けるように色が白い。それに皮がめくれてカリの張った、形の良い性器――。想像以上のそそられる裸体に、私の下腹部がざわめきだした。

内湯に入らず、真っ直ぐ露天風呂に行った。脇に陶器の壺湯が二つあって、ひとりの老人がのんびりと浸かっていた。
石張りの露天風呂は解放感があった。垣根越しに、上田の市街地が眺望できた。
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