(2)趣味活動

小さな近隣公園に、男女合わせて15人ほどの老人が集まっている。1番から9番まで、赤地に白い番号を染め抜いたフラッグの付いたスタンドを、それぞれ適当な距離に配置して、スタート台の位置を決めている。
彼らはこれから、グラウンドゴルフをやろうとしているのだ。一時期は老人の間でゲートボールが流行ったが、ゲームの性格上、喧嘩沙汰がよくあった。そこで個人プレーに徹した、グラウンドゴルフが考案されたのだ。使うボールとスティックはゲートボールと変わらないので、そのまま転用できた。
集まった老人たちは、歩いて10数分のところにあるマンション、『ツインパレス根津』から来ていた。ここまで歩いてくる者もいれば、自転車で来る者もいる。
全員、マンション内のシニアクラブのメンバーだった。会員数は現在80人ほどだが、会員資格は60歳以上ということを考えれば、まだ120人近くが未加入と言うことになる。会員は60代が少なく、70代の老人が大半を占めている。
クラブのまとめ役的な存在は、伊藤英文という老人で、シニアクラブの会長をしている。75歳、中肉中背、風雪に耐え抜いたような渋い風貌や、朴訥な話しぶりから、剛毅な人柄を思わせるが、意外に茶目っ気のある性格をしている。それに、6つ年下の女房には、頭が上がらないようだ。
伊藤は、グラウンドゴルフの同好会幹事を、山下和江という67歳の未亡人に任せている。彼女は背の低いコロコロとした体型をして、明るくて愛嬌があった。いわゆる癒し系の女性で、周囲を和らげる雰囲気がある。
老人たちは和気あいあいと、グラウンドゴルフを始めた。途中、ホールインワンが出て、歓声が上がった。

しばらくして、同じシニアクラブ会員の木原正人が顔を見せた。
「やあ、超元気印の老人たちが、朝早くから頑張っていますね」
「あ、副会長、お早うございます」「お早うさん」
老人たちが口々に挨拶した。殆どが70代の老人たちに比べると、65歳の木原はまだまだ若造だ。
シニアクラブの副会長をしている木原は、肩をすくめて言った。
「その、副会長と呼ぶのは無し。できたら、シニアクラブのプリンスとでも呼んでいただきたいな」
「あ、それは無理よ」「そう、分不相応ってこともあるし」
「みんな、ひどいなあ」
木原はぶつくさ言って、ひとりの老人に声をかけた。「昇さん、約束の囲碁だけど、何時ごろから始めますか」
声を掛けられたのは、針ヶ谷昇、75歳である。中背やや小太り気味。きれいな白髪と上品な顔立ちをしている。無邪気な童心を持つ穏やかな性格から、癒し系爺さんとして人気がある。
「じゃあ、グラウンドゴルフが終ってから。――10時頃で良いですかな」
針ヶ谷はおっとりと言った。
「じゃあ、10時。お宅に伺います」
木原は言うと、皆に別れを告げた。

万華鏡をひとつ作り終えて、河合昌介は一息ついた。デスク上の置時計を見ると、思いのほか作業がはかどったのか、まだ10時前だ。昼飯の準備にとりかかるには早すぎる。いつも女房はサークル活動にでかけているので、彼は自炊するのに慣れていた。
手先の器用な昌介は、模型作りを趣味としていた。これまで帆船を中心に制作してきたが、たまたまテレビの番組で見た万華鏡作りに興味を引かれた。
材料はありあわせの物で良かった。ペットボトルやサランラップの芯、鏡の代わりにアルミ板を使ったり、虫眼鏡をレンズの代用にしたりできる。100円ショップに行けば、中に入れる面白い材料も豊富にある。
最初はときどき遊びに来る孫たちの為だった。その孫たちが成長して関心が薄れても、凝り性の彼は万華鏡作りをつづけた。思いついた形を図面に描き、それに合わせた材料を探し、時間をかけて作る過程を楽しんだ。
そして出来上がった万華鏡をのぞき見る。ちょっと動かすだけで、さまざまな絵模様が展開する。中に入れる具を変えてみる。孫が残したビーズやおはじき、千代紙など。
豪華絢爛な宝石模様や星空模様――ときに思いがけない効果を発見し、それだけで有頂天になる。
小さな工作物の中に広がる小宇宙――それは、あまり外の世界を出歩かない昌介の冒険の旅でもあった。

午前中にもかかわらず、針ヶ谷昇はバスルームにいた。暖かいシャワーの湯と石鹸を使って、体の隅々を洗う。とくに陰部は丁寧に洗った。それから洗浄器を使って腸内をきれいにする。
褌を締め、浴衣を身に着けたとき、昇は心身ともに清澄な気分になった。
女房が3年前に死んで以来、彼はずっと独り住まいをしていた。そんな寂しい生活も、今や別の楽しみに変わっている。
やがて待ちかねた、インターホンの音。玄関ドアを開けると、木原正人の大きな身体があった。
木原を中に入れ、ドアの鍵を掛けるのもそこそこに、昇は大きな身体にしがみついて、キスを求めた。
「おいおい、爺ちゃん、ぼくは、逃
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