(1)密かな想い

父はぼくが7歳のときに他界した。だからあまり父のことを覚えていない。それでも、父の腕に抱かれたときの大いなる安らぎは、記憶の断片として残っている。
古ぼけた数枚の写真からみると、父は小柄な体つきをしていたようだ。ぼくを挟んで夫婦並んだ写真があるが、母のほうが背も高く、体格も立派だ。
父の顔の印象は、多少気難しそうに見える。
父を早くに亡くしたぼくは、小柄な年配の男性に対して、淡い憧憬の念を抱いて育った。その想いが高じて、大学生のとき、下宿先のおやじとのっぴきならない関係に発展した。そして初めて、父親の愛情がいかなるものか、身をもって体験した。それは痛みを伴うものだったが、麻薬のようにぼくを魅了した。ぼくは小柄な年配者に背後を犯されながら、ぼくを折檻する父親の姿を重ねて、異質の快楽に酔いしれた。
ぼくは、母親似だ。51歳の現在、174センチ、88キロある。でも多分に見掛け倒しだ。色白、体毛の薄い肉体は、いかにも温室育ちで、およそ男らしさとは縁遠い。それに気が小さくて、人の先頭に立つのが苦手だ。

それでも会社勤めの現在は、上司に恵まれて、大手企業の総務課長をやっている。直属の上司である部長は、仕事に厳しい人だが、いったん職場を離れると、人情味あふれる好人物になる。部長は無類の酒好きで、仕事のあとぼくを誘って居酒屋に寄ることがよくあった。
小柄だが筋肉質の体型をした部長に、ぼくは密かな想いを抱いている。
おでこが禿げ上がった赤ら顔で、重厚な口元を気難しそうに引き締めているが、人懐っこく輝く小さな目が、部長の本質を物語っていた。それに小さな顔のど真ん中にある大きなナスビ型の鼻が、妙にセクシーだった。

部長に対するぼくの想いが決定的になったのは、たまたまトイレで居合わせたときだ。小便器に向かって、手元からぞろりとはみ出したイチモツは、カリが張って、思わずドキッとする肉感的なシロモノだった。渋茶色にふすぼけて、卑猥なほどふてぶてしい。
それ以来、ぼくは部長の肉体を意識した。部長を前にすると、ぼくの視線は無意識に下腹部にいく。そして、左太腿の布地を内側から押しあげる膨らみを見て、密かに心を躍らせた。――ああ、あの中身を引っ張り出して、匂いを嗅いだり、舌で味わったりできたら、どんなにか幸せだろう――と。

それでもこの3年間、ずっとぼくの片思いに終わっていた。たまに酔った勢いで、部長の腰に触ったり、「部長って精力絶倫みたいですね」なんて鎌をかけてみたりしたが、いつも一笑に付された。
要するに、部長は根っからのノンケなのだ。部長がぼくに目をかけてくれているのは、ぼくの仕事ぶりに対してであって、ぼくの肉体に対してではなかった。
夜、数え切れないほど、夢想にふけった――部長に組み敷かれて、背後から犯されている自分の姿を。そして、女房との夜の関係が途絶えた今、部長への想いはますます強くなっていた。


20/08/27 13:37更新 / 神亀

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