千秋は運転疲れが残っていたのか、この日は運転すると言わないので、昇が朝からハンドルを握った。
まず猪苗代湖を目指して走った。現地に到着すると、さすが日本の湖で4番目に大きいだけあって、海のように広かった。
しばらく湖畔沿いに走って、駐車場に車を止め、松林を歩いた。
「なんか朝から、尻の穴がモゾモゾするような感じがする。お前、わしが寝てる間に、悪戯しなかっただろうな」と千秋が言った。
「何を言うんだ。夜中に私のベッドに潜り込んだのは、叔父さんでしょう。それに不経済だよ、わざわざ部屋を二つにしていながら、結局はひと部屋で済んだじゃないか」
湖畔の道を走って、猪苗代磐梯高原インターチェンジから磐越道に入った。そのまま走り続けて、郡山ジャンクションで東北自動車道に乗り替えた。
このあと矢板インターチェンジまで走って、鬼怒川方面に行く予定だった。
車中、暇なので、二人は取り留めのない会話をした。
「青い山脈の吉永小百合は良かったなあ」
昇が思い出したように言って、千秋がその後を継いだ。
「あの映画はリメイク版が多くて、全部で5作あるんだ。最初の映画の主演女優は原節子、次は司葉子、吉永小百合は3作目だな。あとの2作は見ていない」
「叔父さん、良く知ってるね。私も映画好きだが、青い山脈がそんなにリメイクされてるとは知らなかった」
「邦画はあまり見ないのか」
「ああ、そんなに見ない。英語の勉強のため、洋画はよく見たけど」
「じゃあ、お前の映画通ぶりをテストしてやる。最初は『君の瞳に乾杯』だ」
すかさず昇が答えた。
「カサブランカ。ハンフリー・ボガートが酒場でイングリッド・バーグマンに言った言葉だ」
「きざな言葉だよな。お前、その言葉を真似して、何人の女をモノにした」
「叔父さん、下品なこと言わないの。じゃあ今度は私だ。アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー」
「スペイン語だな。さよならベイビーか。なんか聞いたな。ちょっと俳優の物まねで言ってみな」
昇が声色を使って言った。
「アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー」
「あ、ターミネーターだ。アーノルド・シュワルツェネッガーが敵をやっつけたときに言う言葉だ。地獄で会おうぜ、ベイビー、てな。たしか続編のほうだ」
「ピンポーン!さすが叔父さん、よく知ってる」
「よし、わしの番だな。サック・マイ・ディック」
「俺のチンポを舐めろ、だって。そんなのファックやシットと同じで、アメリカじゃよく使われているスラングだ。特定の映画ってことはないだろ」
「すまん、思わず言ってしまった。お前の言うとおりだ。たまたま、GIジョーの映画で言ってたのを、思い出した」
「そういえば昔、ディック・ミネなんて歌手がいたね。チンポのミネなんて、アメリカじゃ恥ずかしくて名乗れないよ」
「ああ、ディック・ミネは、巨根の持ち主だったらしいな。でっけえ、見ねえ、なんて解説する奴もいた」
「タイトルは忘れたけど、年寄りの主人公の名前がディックマン、という映画を見たことがあるよ。アメリカのどこか雪国が舞台で、主人公は除雪車を使って、殺された息子の仇をとっていくんだ」
「ディックマン。チンポ男か。確かに日本語にすると変だな。で、その主人公の爺さん、巨根の持ち主だったのか」と千秋。
東北自動車道の矢板インターチェンジで下りて、鬼怒川温泉目指して走った。
こちらの方面は、昇が東京で働いていた頃、ゴルフでよく来ていたので、もっぱら彼が案内役を務めた。
途中、鬼怒川に近づいたところで、昇がよく利用していた店があった。川魚料理を出してくれるソバ屋で、ここで昼飯を食べることにした。店の主人は息子に代変わりしていたが、店の見た目は昔のままだった。
大きなかやぶき屋根の下で、囲炉裏が数か所切られていて、鬼怒川沿いの外部にも丸太の椅子テーブルがあり、野趣あふれる雰囲気があった。
時期的に養殖物だが、子持鮎の串焼きがおいしかった。色の濃いソバも素朴な味わいがあって、昇はザルソバを5枚平らげた。
昼食のあと、東武ワールドスクウェアまで足を伸ばした。
ここは広い敷地に、世界の有名建造物のミニチュアが、25分の1の縮尺で展示されている。ここを一周すれば、お手軽世界旅行が出来るってわけだ。
世界の建造物の最後のほう、万里の長城のところで昇が言った。
「叔父さん、今度は二人で世界旅行をしようよ。とりあえずは万里の長城なんてどう?」
「中国は5回ほど行ったけど、今は駄目だ。あの国は、ますます国家統制を強めて個人の自由を奪っている。そんな国には行きたくない」
千秋は言ったあと、歩を速めて、次の日本のコーナーに向かった。そして改めて昇に言った。
「どうだ、今回の旅のように、もう少し日本を歩き回ってみないか。いいところは沢山あるぞ」
その日の宿も、昇が昔よく利用していたところだった。夫婦で
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