(6)65歳その後3

(6)65歳その後3

和繁のマンションに、ヨシのいる風景が定着した。
ヨシは甲斐甲斐しく雑事をこなし、クニさんとのコンビネーションもしっくりといっているようだ。
和繁は、ヨシを付き人として連れ歩くことが多くなった。身の回りの世話をするヨシは、よく気が付くので重宝だ。
いっぽう、ときどき来るセイさんやシユウちゃんも、ヨシに馴染んできた。和繁はその親しみの中に、二人がヨシの身体を虎視眈々と狙っているように感じたが、当面は成り行きを見守ることにした。

ある朝和繁は、セイさんの運転する車に乗って、ゴルフ場に向かっていた。月に一度ある、所属ゴルフ場の月例大会に参加するためだ。
運転しながら、セイさんが言った。
「シゲさん、頼みがあるんだ。ひと晩、ヨシと付き合わせてくれ」
「いきなり直球できたな。しかし、ヨシの気持ちもあるからな」
「ああ、それは大丈夫だ。この前ヨシに持ちかけたら、社長のご了解をいただいたら、お付き合いしますって」
そんなこと、なんで俺の了解が要るんだ、と考えていると、セイさんがなおも追求した。
「なあ、頼むよ。それに、シゲさん、ずるいぞ。ヨシを独り占めするなんて」
その言葉で、和繁はちょっとへそを曲げる気分になった。
「ぼくは別に、ヨシを独り占めするつもりは無い。それに、クニさんもヨシと寝てるんだぞ」
「なにっ、それはけしからん!」とセイさん。
「べつに、けしからんことはないだろう。自由恋愛だ」
「だったら、私もいいだろう。もしシゲさんが断ったら、運転ミスで事故を起こすぞ」
「おい、セイさん。ぼくを脅してるのか」
「ああ、脅迫してるんだ。それで、ヨシのことはいいな?」
「了解」
和繁はうなずきながら、別のことを考えていた。
(やれやれ、この調子じゃ、そのうちシユウちゃんも迫ってくるな)

――**――

「――いま工事業者が引き上げていきました。おかげさまで、すっきり整理できました」
「そうか、良かったな。で、ほかに何かあるか」
「それが――先ほどシユウちゃんから電話があって、今夜泊めてくれとのことです。あのう――社長の寝室に」
「――」
一瞬、和繁は沈黙した。(俺がいないことをいいことに、シユウちゃん、ヨシをモノにしようとしてるな)しかし和繁は、寛大な返事をした。
「分かった。自由に使ってもらってくれ。じゃあな」

和繁は旅番組の撮影のため、沖縄に来ていた。
いつもは付き人としてヨシを帯同するのだが、3人が住むようになった部屋の模様替えをしているため、今回は東京に残したのだ。
その日は那覇の市街地に2、3か所立ち寄ったあと、本島から600メートルほど離れた瀬長島に渡った。
季節は6月の半ば。沖縄では昨日、梅雨明け宣言がなされたばかりだった。夕方だというのにまだ太陽が眩しかった。しかし日差しはきついが、海風が吹き込んで涼しく感じられるくらいだ。

瀬長島ホテルの部屋で小休止すると、まず温泉風呂に入った。
見晴らしが最高だった。ちょうど慶良間諸島に沈む夕日が望めた。
7月8月に比べると観光客は少ないが、温泉には年配の客が5人ほど入っていたので、撮影することをあらかじめ断った。
彼らと話していて分かった、どうやら内二人は、和繁が撮影で来ることを知っていて、このホテルに泊まったようだ。
そのあとレストランで、店員の説明を聞きながら、県産魚のポアレと黒毛和牛のステーキを食べるシーンを撮影して、その日の仕事は終わった。

翌朝、5時半に目が覚めて、何もすることがなかったので、周辺の海岸を散歩した。そのあとホテルに戻って露天風呂に行くと、昨日会った二人が、和繁に気づいて挨拶した。さっそくこちらに寄ってくる。温厚そうな顔をした二人の雰囲気を見ていると、親密な間柄のようだ。
(そういえばシユウちゃんはどうしたろう?思惑通りヨシをモノにしたんだろうか?)
一瞬、クニさんに電話して確かめようかと思ったが、無粋なので思いとどまった。

ホテルで昨日撮り残した撮影をしたあと、車で本島に戻って、更に南に下ったところにある漁港に行った。今回は趣向を変えて、沖縄の海で釣りをやることになっていた。
見たところ50代後半と思える男が、港の広場で待っていた。局側も和繁が年配者好みと知っているので、ルポの相手も必然的に年配者が多かった。
男は青いかりゆしウエア(沖縄シャツ)を着ていた。背は低めだが肉付きの良い太めの体型、それでいて弛んだところは感じない。よく日焼けした朴訥な顔の中で、悪戯っ子のような小さな目が輝いていた。
「やあ、沖縄にようこそ。湯本清です。皆はキーさんと呼んでます」
男は白い歯を見せて、歯切れよく言った。こういったざっくばらんな男とは波長が合う。和繁は手を伸ばして、握手を求めた。
「キーさん、よろしく。七尾和繁です。皆にシゲさんと呼ばれ
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