(2)63歳〜65歳

(2)63歳〜65歳

七尾和繁は長年勤めた会社で、最後は社長にまで昇進した。彼が63歳になったとき、後進に社長の座を譲って、潔く退いた。会長職にという会社側の要望もあったが、それを断った。
彼はリタイア後、先に退職してマンションの管理人をしていた宮部邦彦を呼び寄せ、同棲生活を始めた。
そのため恵比寿にある2LDKのマンションを購入した。
その頃、娘たちは3人とも結婚して、それぞれの家庭を持ち、子供もいた。義父はすでに亡くなって、和繁の家に同居しているのは長女の家族だった。
ある日曜日、その家に3人の娘たちを集めた。どう説明するか迷ったが、結局、正直に話した。
母さんへの思いが強いので、女性とは再婚しない。その代わり、会社時代、部下だった男と新しく買ったマンションで一緒に暮らす。今の家は、長女の家族で自由に使ってくれ――と。

「ええ!お父さん。それってゲイカップルってこと?」
3女が素っ頓狂な声を上げた。
和繁が3女のあからさまな質問に、どう答えていいか迷っていると、次女がけろりとして言った。
「別にいいじゃない。私はゲイに偏見なんか持っていないわ」
「でも、なんか驚天動地ね。一部上場企業の社長だったお父さんが、ゲイだったなんて」と長女。
すっかり父親をゲイと決めつけて、それぞれの意見を述べる娘たちに、和繁は複雑な心境だった。それでも彼は、義父との関係を伏せて、言い訳した。
「母さんが死んで、なんだか女性に興味を失くした。それで当時、私の下にいた男の部下と親しくなった――あ、部下と言っても私より年上だが――その人も奥さんをくも膜下出血で亡くして、同じ境遇が引き寄せあったんだと思う」

結局、家族会議は円満解決した。娘たちは和繁の方向転換に理解を示し、宮部と同棲することも認めてくれた。
しかし、和繁が娘たちに言っていないことがあった。娘たちは、和繁の親密な相手は宮部邦彦だけ、と思っているようだが、その実、和繁は宮部以外にも、複数の男性と関係していた。その中でも、ゴルフ仲間の征一と音楽仲間の修二郎とは、今も続く昵懇の仲である。

和繁は都心のマンションを買ったとき、リビングの内装壁と窓を二重にして、音楽ルームにした。和繁はギターとピアノを嗜み、宮部もピアノが弾けた。それに征一が弦楽器のベースをやり、修二郎がドラムをやると分かっていた。それで、いずれは集まって音楽をやるだろうと思い、外部に迷惑がかからないように改装したのだ。
(ここから先、宮部邦彦をクニさん、征一をセイさん、修二郎をシユウちゃんと呼ぶ。和繁から見て、最年長のクニさんは7つ年上、セイさんは5つ上、シユウちゃんは2つ年下である)

和繁とクニさんの新しい生活が始まった。
クニさんは自分から進んで家事をやりだした。もともと細かいことにも気配りが出来て、家事は性に合っているのだろう。
2LDKといっても30坪あるので、リビングも寝室も広い。寝室は書斎兼用に使っても余裕がある。最初、ツインベッドにしてクニさんと同じ部屋で寝ようと思ったが、娘たちが来ると変に気を回されそうなので、部屋を分けた。
クニさんとの夜の行為は、せいぜい月に一度くらいにとどめた。すでにクニさんは70歳を過ぎているし、二人はそんなに若くないのだ。
それでも和繁は月一では物足らない。彼はクニさんと同棲してからも、セイさんやシユウちゃんと親密な関係を続けていた。
ある意味、異常体質と言えるほど、和繁は精力絶倫だった。60歳を過ぎてからも、血色がよく、肌も艶々としている。気に入った相手なら、ちょっと触れられただけで、壮年男の逞しさを見せる。

やがて、二人の住まいにセイさんとシユウちゃんがベースとドラムセットを持ち込んで、即席のジャズバンドができあがった。
音楽を本格的に習ったのはシユウちゃんだけなので、もっぱら彼が演奏指導をした。彼はまだ某私大の経済学の教授である。
ジャズ演奏だけでなく、ボーカルもやった。こちらのほうは、カラオケを楽しんでいた和繁とクニさんが、絶妙のハーモニーで歌った。クニさんは綺麗な高音域の声を出すことができた。
演奏練習は夜までかかることも多いが、セイさんとシユウちゃんは、その日の内に必ず自宅に戻った。二人には家で待つ女房がいるのだ。
しかしその習慣も、4人で海外旅行したあと、変わることとなった。

新居の生活が半年ほど続いたころ、4人はイタリアに10日間の旅行をした。
音楽を一緒にやりだして顔なじみになったとは言え、もとは和繁つながりで、ほかの3人はお互いまだ気心が知れていない。そこでより親睦を深めようと、海外旅行をすることになったのだ。
ミラノから入って、ベニス、フィレンツェと回り、ローマからナポリへと向かう旅だった。費用を安くあげるため、ホテルは二人ずつの相部屋とした。
最初は、和
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