1)50歳〜52歳

1)50歳〜52歳

七尾和繁は男好きである。正確には、男好きになった、と言うべきであろう。
もちろん性的な意味である。
彼が50歳を過ぎた頃、女房がくも膜下出血で急逝した。それまで愛妻家で知られていた彼にとって、ショッキングな出来事であった。
和繁には3人の娘たちがいる。長女は昨年、民放のテレビ局に就職したばかりで、残り二人はまだ大学生だ。それに亡き女房の父親が同居しており、合わせて5人の世帯である。
一般家庭に比べれば、決して少人数とは言えないが、明るい性格だった女房がいなくなった日常は、静かで、どことなく魂の抜けたようなものだった。

一方、女房との夜の生活がなくなった和繁は、別の問題を抱えていた。
和繁は若いころ、体育会系で鳴らした。スポーツ万能で、部活のフリースタイル・レスリングでは、学生チャンピオンになったこともある。
それに加えて趣味多彩で、絵を描きながらのスケッチ旅行や、ミニコンサートでギターの弾き語りをしたりする。
アグレッシブな生き方をする彼は、当然、性欲旺盛である。その彼が、性のはけ口を失ってしまったのだ。
そのころ重役に昇進していた和繁は、安易にその種の風俗店に行くことができなかった。いや、もともと彼は、3人の娘たちがいる手前、若い女を抱く気など毛頭なかったのだ。
毎晩、悶々たる夜が続いた。いよいよ我慢できなくなると、自ら手で慰めたが、あとで惨めな思いをした。

ある夜、家族が寝静まったあと、春情に誘われた和繁は、全裸でベッドに横たわり5本の指を使ってふけっていた。
その時、義父の声がした。
「だいぶ不自由しているようだね」
いつの間にか、半開きのドアの隙間から義父がこちらを見ていた。
ぎょっとする和繁に向かって、義父はなおも驚くべきことを言った。
「よければ私が相手をしてあげよう」
和繁は戸惑いを覚えながらも、下腹部を露わにしたまま、老人の手と口によって翻弄されるに任せた。そして、義父の手慣れた口淫に、禁欲していた和繁はあっという間に昇天した。
それが男色の世界に入る、第一歩であった。



それ以来、義父との密かな行為は続いた。
回数を重ねるにつれ、行為も手淫や口淫から、肛門性交へと発展した。義父は以前から、家族に隠れて男色行為をやっていたらしく、男色技法のイロハを和繁に教え込んだ。
いつしか和繁は、義父と同衾していて、男を抱くことへの違和感を拭い去っていた。いやむしろ、義父に対する不思議な愛情――女性の代替えとしてではなく、相手が年配の男性と意識したうえでの愛情を抱くようになっていた。
そして義父も、和繁の愛情を受けて、ちょっとした愛撫でも敏感に反応した。
常人の倍近く太い性器を体内に受け入れて、最初は苦しんでいた義父も、秘肛がすっかり馴染んだのか、女のように悦びの声を上げるまでになった。
『出藍の誉れ』と言えば大げさだが、なにしろ和繁には、若いころレスリングで培った技能がある。
相手の手足をとって体を返し、思うままの体勢に持ち込む。
彼は義父に教えられた性技を発展させて、ベテランの義父が我を忘れて善がり泣くほどの、淫技を身に着けていった。

和繁が義父以外の男と寝たのは、男色を知って1、2年あとのことだった。
彼が統括する開発事業本部に、業務課長の宮部邦彦がいた。職場ではクニさんと呼ばれ、温厚でおとなしい性格から皆に親しまれていた。あんこ型の体系をして、横に開いた、女のように大きな尻をしている。
宮部は業務課長なので、本部長である和繁の雑事をすることが多かった。たまにかばん持ちとして、出張に同行することもあった。
宮部は和繁より7つ年長だが、女房をくも膜下出血で亡くしていて、似たような境遇から、二人はなんとなく波長が合っていた。そしてまた和繁は、この年上の部下が自分に接する態度から、ひょっとしたらこの男は、俺に恋心を持っているのではないだろうか、と思うこともあった。

和繁が義父と男色関係になって気づいたことがある。
男の中でも、和繁に好意を抱いている――それも性的な意味で――と明らかに思える者がいるのだ。
彼は俳優の竹脇無我に似ている、とよく言われる。この俳優は、男の甘さを含んだ男前だが、俳優業としては今ひとつパッとしていない。その俳優に渋さと逞しさを加えたのが、七尾和繁というわけだ。
当然のことに、彼に思いを寄せる女性は多かった。とくに接待されて行く、バーやクラブのママ連中にもてた。
そういった女と浮いた話のない和繁は、身持ちの堅い男だと思われていた。それは和繁に好意を抱く男たちにとって、好材料と見えたことだろう。

業務課長の宮部を連れて、東北地方の仙台に出張したときだった。
支社の関係者たちと仕事の打ち合わせを終え、その夜は、秋保温泉の老舗の宿に泊まった。
落ち着いたところで、和繁と宮部
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