エピローグ

(エピローグ)

くっきりとした青空と陽光きらめく海が中間色に滲み、ハワイ島はおだやかな休息の時間に入ろうとしていた。
日が傾くにつれ、徐々にオレンジカラーが濃度を増して、あたりの風物を暖かい色で包み込んでいった。

桂樹とアンリは、海沿いの椰子の木立にある散策路のベンチに腰掛けて、サンセットの壮大なパノラマを声もなく眺めていた。
二人の見ている前で、水平線に沈む太陽が最後の瞬間、白橙色の煌きをみせて、それからあたりは薄闇に包まれていった。
桂樹は大きくため息をついた。
「すばらしい――こんな穏やかな海を、大型ヨットでのんびりと航海することが夢だったんだ。――時間を気にしないでね」
アンリが微笑んだ。
「すてきな夢ね。いつか実現できればいいわね。そのときは、わたしと貴史も一緒よ」
「ああ、待てば海路の日和あり、だ――いつかね」
「でも、サンセットってなんだか物悲しい気分になるわ。最後の打ち上げ花火みたいに、華やかさはほんのちょっぴり。そのあとの闇は、ずっと長いっていうのに」
「そんなことはないさ」
桂樹は、アンリの言葉を否定した。「だって明日になれば、サンライズがあるんだぜ。また新しい一日の始まりだ」
「それもそうね」
アンリはあっさりとうなずいた。

ふたりは肩を寄せ合って、暮れゆく海をしばらく見つめていた。
アンリがつぶやいた。
「ねえ、桂樹――」
「なんだい?」
「わたし――すごく幸せ」
「ああ――」
桂樹はアンリの体に腕を回し、そっと引き寄せた。
「ぼくたちには、たいした財産はないけど、幸せだけはたっぷりとあるね」
「あら、桂樹には大きな財産があるわ」
「どうして?」
「だって、桂樹のために集まってくださる、大貫さんや堀田さんたち、素晴らしいお友達がいるじゃない」
「ああ――彼らね。しかし、どうしてぼくには、年寄りばかり、なつくんだろうな?」
「桂樹の人徳よ。あの人たちは、桂樹に一種の活力と安らぎを求めているのよ」
「きみにそんな言われ方をされると、複雑な心境だな」
「素直に喜びなさい。年配のかたたちが気を許してくださるってことは、桂樹の人柄がいいからよ」
「まあ、大貫さんとゲイルは、鯉の吹き流しだからね――彼らの言葉に、根はないと分かっていても、どうしても苛められてる気分になるんだ」
「そんなにいじけるんじゃないの。――ところで、堀田さんのお申し出はどうするの?」
「ああ――堀田さんのお世話になることを決めたよ」
「小倉建設のほうはいいの?」
「お世話になった会社の方たちには悪いけど、割り切ることにしたよ。ぼくには、小さな組織のほうが、性に合ってる」

桂樹は立ち上がった。
「さあて、ビレッジに戻るか。貴史も年寄りたちのお相手で、疲れている頃だ。今度はぼくが、彼らのお守りをする番だ」
二人は手をつないで、暗くなった道を歩き出した。
                                    おわり


(あとがき)

40代の頃に書いた小説を読み返していますと、不思議な気持ちになってきます。
当時の自分がいかに青臭かったか、という思い。と同時に、ほんのちょっぴり、純粋さや正義感が感じられて、懐かしい思いもします。
私はすでに70代に入っていますから、30年ほど前の作品です。
このたび、当時の原文に若干の手直しを加えて、ほんのわずか男色仕様を取り入れてみました。ノーマルだった当時の自分に対して、少々後ろめたい気持ちです。
でも仕方ありません、今や私は、酸いも甘いも噛み分けた(海千山千と言う人もいますが)男色仕立ての爺さんですから。 神亀


21/06/13 09:20更新 / 神亀

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