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11月に入って最初の土曜日。
久しぶりに顔を見せた白取英彦に、一成の歓迎ぶりは熱烈だった。丸っこい顔に満面の笑みを浮かべて、この前、野本らに受けた暴行から、すっかり立ち直ったようだ。
「それで、私に何を頼みたいんだ?」
英彦が言うと、一成は空っとぼけた。
「えっ、何?」
「とぼけるなよ。その薄気味悪い笑顔を見れば、すぐわかる」
「へーえ、デコちゃん、鋭いな――ぬるい顔してるけど」
ひとこと嫌味を言って、一成は説明しだした。「実は敬老美術館の篠山館長から、60代のシニアを寄越してくれ、と依頼があった。以前、殿さまに行ってもらったことがあるけど、写真のモデルだよ」
「あっ、それは駄目。私には社会的地位があるから、ぜったいに無理」
「大丈夫。篠山さんの個人的な趣味のためだから。絶対、世間には出さないよ」
「個人的な趣味って何なの?それに、こんな腹の出たみっともない体だ。則平さんのほうが、締まった体つきをしてるよ」
「ノンちゃんは駄目。ハゲでチビだから。鼻もでかすぎる。――ねえ、頼むよ、先方の要望にぴったりのモデルは、デコちゃんしかいないんだから」
一成は両手を合わせて拝んだ。しまいには、演技過剰にも、涙まで浮かべている。
気の優しい英彦は、引き受けざるを得なかった。
「じゃあさっそく、篠山館長のところに行ってね」
「ええっ、すぐなの?」
「そう、今日の午後2時。大丈夫、まだ時間はたっぷりあるよ」
昼飯のあと、篠山館長のアトリエまで車で行くことになった。たまたま事務所にいた太田謙二に、車の運転を任せた。小さなミニクーパーでは、後部座席にいる一成から見ると、大きな体つきの英彦と謙二が前の座席で壁になっていた。
湯島天神の近くにあるマンションで英彦を降ろしたあと、一成と謙二は近くの不忍池まで足を伸ばした。
駐車場に車を止めて、不忍池沿いに上野の森に向けて歩いた。散策路をぶらつきながら、二人はのんびりと会話した。
「みんなとはうまくいってるの?」
「うん、みんな優しいよ」
一成は心配していた。この心優しい謙二は、事務所の老人たちの言いなりになっていた。とくに千秋と清司などは、謙二を個室に引っ張り込んで、この善良な55歳の体を、あれこれといじくり回している節がある。
弁天堂の参道のところまで来たとき、一成が最も会いたくない顔ぶれに出会った。
野本克彦と若い用心棒のタカ、それに大島啓二が一緒だった。啓二は一成の甥にあたる、62歳の経済学者だ。
「よう、ふたり仲良くデートか」
タカが言って、一成の後頭部を手の平で、二度ほど小突いた。いっぽう野本は、興味深そうに謙二のほうを見ている。
「その男は、お前のところの人間か?」と野本。
「ええ、それが何か――」
一成が用心深く言うと、野本が謙二を見ながら言った。
「なかなかいい体をしている。顔も可愛らしい。この男を事務所に寄越してくれ。これからすぐだ」
「ええっ!それは困ります」
一成は慌てた。野本の事務所に行けば、ケンちゃんの身に何が起こるか、考えるまでもなかった。先だっては、何も知らないで行った修一郎が、ひどい目にあわされた。それに彼自身、引き裂かれるような苦痛を味わったばかりだ。
「ケンちゃんはそのう――未経験なんです」
一成は思わず嘘をついたが、逆効果だった。
「お初か。それは楽しみだ。なあ、先生」
野本はほくそ笑みながら啓二に言ったが、こちらのほうは微妙な表情をしている。
一成は、啓二と野本がいい仲であるのを知っていた。
それで、甥に向かって言った。
「なあ、啓ちゃん、あんたからも言ってよ。ケンちゃんは勘弁してくれって」
声をかけられた啓二は、困った表情をして、そっぽを向いた。
「まあ、今月分の利子だと思ってくれ。おい、タカ、連れて来い」
野本が用心棒に声をかけた。
タカは、それまでぼんやりと突っ立っていた、謙二の腕を掴んだ。
「さあ、ぼく、お仕事だ。行くぞ」
「えっ、パンツも脱ぐの?」
「当たり前だよ、きみ。全裸じゃないと芸術にならん。さあ早く、その邪魔なものも取っちまって」
白取英彦は、美術館長篠山のマンションにいた。
そして今、70年配の篠山は、ふくよかな体をラフな服装でつつみ、期待を込めた目つきで英彦を見つめている。
英彦は後ろを向いて、おずおずと身につけた最後の一枚を脱いだ。
「ほう、思った通りだ。ボリューム感のある立派なお尻をしてるね。それに大きな体のわりに、身が締まって、肌もきれいだ」
篠山は円を描くように歩いて、英彦の体をじっくりと観察した。
「すごい!男のお道具も立派だ。太くてカリ高の力感的な形をしている。この前のご老人も立派だったが、さすが大島さんの所のスタッフは、素敵なお年寄りが多い」
英彦は、人身売買される奴隷になったような気がした。しかも、年取った天使の
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