第9章 運否天賦

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向陽不動産との請負契約をまとめた桂樹のもとに、東都銀行の阿部常務から電話があった。「こんど、うちの大阪支店のビルを新築することになった。不動産子会社との共同出資だが、きみの会社も候補に挙げておいた。関係者に紹介するから、白取部長を連れて挨拶に来なさい」と言う。
桂樹はこれまで何度か、阿部に同様の話を聞いて、その都度、結果はぬか喜びに終わっていたので、「一応うかがいましょう」とだけ冷たい口調で伝えた。
阿部が不満そうに言った。
「おい、高山くん。えらくそっけない言い方だな」
「そう聞こえましたか?常務の誤解ですよ。いつも貴重な情報をいただいて、とても感謝しています」
「きみの口ぶりはなんか引っかかるなあ。これまで、話がまとまらなかったことを恨んでいるのかい?」
桂樹は、なかばやけ気味に言った。
「とんでもございません。商談がまとまらなかったのは、こちらの力不足ですから」
「おいおい、なんだか開き直って聞こえるな。こんどは期待してくれ。競争相手はたいしたことないからね」
「いつも期待していますよ。これまでもずっと、そうしてきましたから」
電話の向こうが、しばし沈黙した。
「――小さな仕事なら、すぐにでもまとまる話はあるんだが。やはりきみなら、大きい仕事でないと、似合わないだろうからね」
「あのう――常務、小さな仕事でもけっこうです。とにかく実績がほしいんです。実績を積んでいれば、そのうち大きな仕事も入ってくるようになりますから」
「そうか。じつは大学の後輩が、こんど社屋を新築したいと話していた。芸能プロダクションの社長だ。建設資金の融資はうちでやるから、ゼネコンはこちらの裁量で決まるだろう。こんど紹介してあげよう。建国記念日に、彼と伊豆の温泉で一泊する予定だ。きみもおいで」
温泉に一泊というのが引っかかったが、桂樹は思い切って承諾した。

アイ・プロダクション社長、三原宜宏は、阿部常務より2つ年下だが、それ以上に若く見える服装をしていた。ピンクのストライプのシャツにベージュのジャケット、着古したチノパンツを履いて、頭にはヤクルトスワローズのキャップを被っている。広い額とこぢんまりした顎、小作りの目鼻立ちに、茶色がかった鼻髭を生やしていた。おむすびを逆さにしたような顔は、すべすべとしてきわめて血色が良い。
3人は伊豆のホテルに着くと、まず温泉に入った。海を一望できる露天風呂は爽快だったが、桂樹は自分のほうをちらちらと見る年配者たちの視線が気になった。
風呂から上がると、宿自慢の山海の珍味に舌鼓を打った。
そのあと三原社長の部屋に行き、よもやま話に花を咲かせた。
三原は芸能プロダクションを経営するかたわら、自らポルノ映画の監督をやっていた。
話題はまず、そのあたりから始まった。

「撮影で苦労するのは、女はエブリタイム・オーケイなのに、男のほうは、なかなかソノ状態にならない、ということです」
三原の言葉に、阿部がにやついて質問する。
「若い男でも駄目なのか?」
「若くても駄目ですね。なにしろ、色んな体位でやらせるんで、どうしても撮影時間が長くなってしまう。最初ビンビンでも、そのうち疲れて立たなくなるんです」
桂樹は年配者二人の生々しい会話を聞きながら、早く自分の部屋に引き上げたくて、うじうじしていた。でもここで失礼すればせっかく三原とお近づきになった意味がなくなる。それで我慢して、三原の部屋にとどまっていた。

三原の話は、ポルノの撮影から男女の体の構造に移ろい、そして男色の世界に入り込む。彼は、男の尻を試したことがある、という。
「映画監督をやってると、どうしても興味が湧いてきましてね。それでゲイバーの若い男の子で試してみたのです」
ぎょっとする桂樹の横で、阿部が好奇心いっぱいに訊く。
「で、どうだった?」
「それはもう――」
三原は恥ずかしそうに、小太りの体をくねらせた。「きゅうっと締め付ける感触が、最高でした」
「ふーん。でも、きみのは、ちっこいから楽だろうけど、この若い人のお道具じゃ、大きすぎて裂けちゃいそうだな」

先輩の露骨な事実の指摘に、三原はちっとも怒りを見せず、むしろ憧れるような目で桂樹を見た。
「お風呂で拝見しましたけど、確かに高山さんのお道具は立派ですね。あれが臨戦態勢になった状態を想像すると、どきどきしてきます。うちのポルノ男優にしたいくらいだ」
それから、阿部のほうに頭を巡らせて、「でも、高山さんのような大きなお道具でも、事前準備をすれば大丈夫です。入れる前に、穴を指でじゅうぶんほぐしてやるんです。それに歳を取ると、括約筋が緩んでくるから、先輩だって充分受けられますよ」
阿部が期待を込めた目つきで、桂樹のほうを見た。
「ふーん、だったら試してみるか。なあ、高山くん」
言ったあと、阿部は桂樹の股間に手
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