(3)

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「高山くん、向陽不動産はうちの部の担当になったぞ」
専務室から戻ってくるなり、白取が言った。
「うちの部の担当?でもあそこは、大場専務がじきじきに行かれてるのに、またどうしてですか?」
「理由は知らない。専務に言われたんだ」
白取はキツネにつままれたような表情をしていた。
「とにかく、きみは大貫会長を知っていたな。これからは、きみが担当になってくれ」

そんなわけで、桂樹はさっそく向陽不動産にも足を運び出した。彼は担当部署に足を運ぶときは、必ず大貫会長のところにも寄った。
しかし、大貫会長に会っても、いつかのように仕事のお願いをせず、ただひたすらお付き合いを始めた。大貫はあまり酒を飲まなかったので、たいがいがゴルフだった。ゴルフの同行者は、白取部長よりも三田村社長のほうが多かった。そして家が近かったので、ゴルフ場の行き帰りはいつも社長と一緒だった。
一方で、東都銀行にも足繁く通っていた。阿部に紹介された銀行企画部の担当者と、小倉建設所有のいくつかの土地について、新しい事業手法の可能性を検討していたのだ。
阿部常務本人に対しては、用心深く、つかず離れずの関係を保っていた。ちょっと気を許せば、取り返しのつかない関係に陥りそうだったからだ。

そんなある日、大場専務の部屋に呼ばれた。桂樹が部屋に入ると、大場はジロリと彼の顔を見て、無言のまま顎でソファーを指し示した。
桂樹がかしこまってソファーに腰掛けると、大場は書類を手に、座りながら言った。
「これはきみが書いた提案書か?」
桂樹が小倉建設所有の不動産について、不動産特定共同事業をシュミレーションしたリポートだった。それは2日前に、白取部長に提出していた。
中には、事業の仕組みや証券化した投資家の募集方法、事業収支などが詳細に記載されていた。彼は東都銀行のスタッフの助けを借りて、それらをまとめあげたのだ。
桂樹がうなずくと、大場はめずらしく微笑んだ。笑い慣れていないのか、ぎこちない表情だった。
「なかなか斬新なアイデアだ。きみひとりでまとめたのか?」
「いえ、東都銀行の阿部常務のご紹介で、銀行の方たちと検討してまいりました」
大場は眉をひそめた。
「きみ、銀行と検討会を開くのなら、前もって会社の上司に報告すべきじゃないのかね」
「すみません」
桂樹は素直に謝った。実のところは、事前に白取部長に了解をとりつけてあった。
「ま、済んだことはいいが――」
大場は、さほど気にしなかった。「しかし、これは事業企画部の仕事だぞ」
「はい、確かにおっしゃるとおりです。でもリポートにある不動産の処分は、営業部の責任範囲でもあります。それで、特定共同事業の可能性について、わたしなりに検証してみたかったのです」
「きみの知的好奇心はよく分かった。ただし、きみは営業マンだ。きみはこれまで、なにか仕事を取ってきたのか?」
桂樹は冷たい怒りを覚えたが、神妙な顔つきで言った。
「まだ成果はありません」
「なら、営業の仕事に専念するんだ。死にもの狂いになってな。きみは、向陽不動産の大貫会長と親しいそうじゃないか。だからきみの部の担当にしたんだ。向陽から仕事を取ってこい」
「はい、分かりました。ところで専務――」
桂樹は、大場の手にしたリポートを見た。「その提案書のことですが、役に立ちそうですか?」
「わからん。これを読む限りは、なかなか説得力はあるが。ま、これは事業企画の上田のところで検討させてみよう」
大場はそっけなく言った。

その日、家に戻ると、アンリとゲイルの間に、なにやら冷ややかな空気が流れていた。
桂樹はそれに気づいたが、黙っていた。彼自身、大場専務との会話で、不愉快な気分だったからだ。
不良資産では起死回生の妙案だと思っていたのに、大場はごみくずでも捨てるように事業企画部に回したのだ。おまけに、桂樹がまだ工事受注の成果をあげていないことを、嫌みったらしく突いてきた。
むしゃくしゃした気分を押し殺して、つい先月歩きはじめた貴史の相手をしていると、妻と義父のいさかいが耳に入ってきた。

「いい、パパ。さっきも言ったように、もう貴史にはチョコレートなんかあげないで。虫歯になったら困るから」
「歯なんか、まだ生え揃っていないだろ」
「それでも、甘いものを食べさせてると、虫歯になりやすくなるの」
「アンリ、お前の言ってることは全然論理的じゃないよ」
「なら1歳の子供にチョコレートをあげるのが、論理的な行為だと言えるの。とにかくパパは、貴史を甘やかしすぎよ。孫がかわいくて仕方がないおじいちゃんの気持ちは分かるけど、あまり貴史に構わないで欲しいの」
「よく言うよ。わたしに子守を押しつけているのは、お前のほうだろ」

いつまでも終わりそうにない親子喧嘩に、桂樹は間に入って仲裁することにした。
「ふたりと
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