(3)
高山桂樹の落ちつかない気持ちに関わらず、ヤマト不動産重役とのゴルフ予定日は、刻一刻と迫っていた。
桂樹はとうとう思い余って、向陽不動産の大貫会長に会いに行った。不動産同業者の彼なら、山上常務のことを何か知っていると思ったからだ。
「お、子連れ狼が来たな。どうだ、赤ん坊の様子は?」
大貫は会うそうそう、桂樹をからかった。
「お蔭様で、毎日、元気に泣いております。それから、出産祝いに結構なものを頂きまして、有り難うございます」
桂樹は礼を言った。大貫からベビーカーを贈られていたのだ。
「なに、たいしたものじゃない。ところで今日は何だ?」
桂樹はヤマト不動産の山上常務と、ゴルフをやることになった経緯を説明した。
「ご同業の大貫会長なら、山上常務をご存知ではないかと思いまして。こんなことを会長にお話するなんて、お門違いでしょうが、藁をもすがる思いで参りました」
桂樹が話しおえると、大貫は腕組みをしたまま目を閉じて、しばらく黙っていた。
桂樹はじれて、会長に声をかけた。
「あのう、会長――眠っているんですか?」
大貫は目を開けた。
「バカ、起きてるよ。作戦を練ってたんだ」
「作戦ですか?」
「ああ、作戦だ」
大貫は腕組みを解いた。「それにしても、三田村さんも子供っぽいところがあるな」
桂樹は「同感!」と言いたかったが、黙っていた。
「それで、どこでやるんだ?」
「平塚カントリーです」
「平塚か――よし、きみたちの組のひとつ前に予約を入れてくれ」
「それは無理です。名門コースですよ。ゴルフは今週の土曜日にやるんです。そんな急に予約は取れませんよ」
「若いのはすぐあきらめおる。だから早漏なんだよ」
大貫はぶつくさ言いながら、立ち上がると、デスクの上の受話器を取った。
「何時スタートだ?」彼は電話がつながる間、桂樹に聞いた。
「9時――アウトスタートです」
電話がつながった。
「支配人につないでくれ、大貫だ。――あ、支配人、お久しぶり。じつはあんたにお願いがあってな――」
桂樹は大貫が電話をかけている間、じっと会話を聞いていた。大貫は高圧的でもなく、それでいて厚かましくも、とうとう予約の割り込みをしてしまったのだ。
「お電話を聞いていて、なんだか会長が恐くなりました」
大貫の電話が終わると、桂樹は言った。
「どうしてだ?」
「会長の、老獪かつ強引な駆け引きを聞いていますと、とてもわたしなんか太刀打ちできないと思いました」
大貫はジロリと桂樹を見た。
「きみ、わしを独裁者か何かだと思っているのか?」
「とんでもございません」
桂樹はあわてて否定した。「ところで、もう1組予約されて、なにをされようとしてるんですか?」
「もちろん、わしがゴルフをやるためだ。うちの会社の連中を誘ってな。それも、きみの会社の経費でだ」
桂樹は訳が分からなかった。
大貫はニヤリとすると、説明しだした。
「今、ヤマト不動産は、横浜のビル用地開発の件で、うちに擦り寄って来たいはずだ。山上と言ったか、先週、その人物からうちの担当役員にアポが入っているんだ。ま、そんなことはどうでもいい。とにかく向こうは、なんとしてもわしに、お近づきになりたがってると言うことだ」
大貫は、それで分かっただろうというように、背もたれにふんぞり返った。
「じゃあ会長が、わたしどもと山上常務の仲をとりなしてくださる、とおっしゃるんですね?」
大貫は、何をバカなことを言ってるんだ、という顔つきで桂樹を見た。
「わしは何もせんよ。ただゴルフ場で偶然きみに会って、きみとは個人的に親しいところを見せつけるだけだ」
そこで思いついたように付け加えた。「いいか、昼メシのとき食堂で、きみの席に立ち寄る。それまでは、お互い顔を見合わさないようにしておこうじゃないか」
桂樹は、まだ完全には、大貫の意図するところが見えなかったが、黙ってうなずいた。
――◇――
ゴルフ場の練習グリーンにいくと、先に来ていたヤマト不動産の山上常務が、でっぷりとした腰を屈めて、一人黙々とパッティングをやっていた。丁寧で几帳面な氏の性格を反映して、パッティングも、一打一打、慎重にかまえて打ちだす。彼がひそかに、先日の雪辱戦に燃えているのは明らかだった。
白取部長が山上に声をかけて、三田村社長が、急に熱を出して来れなくなったと伝えた。山上常務は、事情を聞くとがっかりしたようすだったが、桂樹には嫌味ったらしく言った。
「ほう、社長の代理にしては、えらく若い人が来たな」
「申し訳ございません。なにぶんにも急なことでございましたので。他の役員の都合がつかず、急遽わたしがお付き合いさせていただくことになりました。わたしでは役不足ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
桂樹は、用意しておいた言葉を、申し分けなさそうに言った。心配そう
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