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10月に入ると、銀座『塚本堂』のマタニティー・シリーズのキャンペーンが、大々的に行われた。それとともに、ドレスアップした桂樹とアンリの姿が、テレビや新聞、雑誌、ポスター、とあらゆる宣伝媒体に登場しだした。
ルビーの指輪を手に入れたアンリは、すっかりご機嫌だった。彼女は、コマーシャルに出てくる自分たちの姿を見て、無邪気にはしゃいでいた。
いっぽう桂樹のほうは、それどころではなかった。会社では会う人毎に冷やかされるし、外を歩いていても、見知らぬ人々が自分に注目しているような気がして、落ちつかない毎日が続いた。
そのうえ家に帰っても、テレビのCMを見るたびに、ゲイルがあれこれと桂樹をからかった。
「桂樹、きみは撮影のとき、おしっこでも我慢してたのかい?」
「G・G――そうやって、人をからかってろ。そのうちひどい目にあうぜ」
「おお、怖。しかし、じっくり見ると、きみもなかなかの男前じゃないか」
「フン、急にお世辞なんか言ったって、G・Gの魂胆は見え透いてるぜ」
「わたしはお世辞なんか言ってない。実際、きみはスタイルがいい。それに目、鼻、口も、ひとつずつ見れば、どれも男らしくて申し分ない」
「――」
「ただ難点は――それぞれの配置がアンバランスなだけだ」
「G・G!」
桂樹がクッションを投げつけたときには、ゲイルは素早く逃げ去っていた。
そんなコマーシャルの話題も薄れかけたある日、桂樹は社長室に呼ばれた。
三田村社長は、上機嫌な声で言った。
「今日、大塚さんから電話があったぞ」
桂樹のほうは、浮かぬ顔をしていた。
「そうですか――」
「大塚さんは礼を言われてたぞ。きみたちのお陰で、商売のほうも上々だってね」
桂樹はそっけなく言った。
「それはよかったですね」
「どうだ、モデルになった気分は?」
「社長――」
桂樹は恨めし気に、三田村を見た。「協力しろと言われたのは社長ですよ。わたしは別にモデルなんか、するつもりはなかったのに」
「そうふくれるな。あれは大貫会長の陰謀だ。わたしが聞いたのも、ずっと後になってだ。ところで、今度の土曜日は、わたしにつきあってくれ」
三田村社長の唐突な命令に、桂樹は返事につまった。アンリが昨日から産婦人科に入院していて、今週にでも出産しそうなのだ。
「どうした。なにか都合が悪いのか?」
社長は、ためらう桂樹を見て聞いた。
桂樹は妻の状態を説明した。社長はそれを聞いて、眉をひそめた。
「それで――奥さんの健康状態はどうなんだね?」
「はい、すこぶる順調です。体の方は、もともと丈夫ですから」
社長の顔が明るくなった。
「なら、大丈夫だ。奥さんには医師や看護婦がついてるのだし、それにきみが出産するわけじゃないからな」
「――」
「じゃあ、土曜日は頼むな」
「あの、社長――」
桂樹はあわてた。「おつきあいって、何をやればいいんですか?」
社長は、何を言ってるんだ、この男は、という顔で桂樹を見た。
「言ってなかったか。ゴルフに行くんだよ、大貫会長と」
「またですかあ?」
桂樹が思わず口に出して、三田村がにらみつけた。
「おや、きみは、わたしがこうして頭を下げて頼んでいるのに、付き合うのが嫌だってわけだ。わかった、大貫会長のお相手は、他を捜そう」
「待ってください――行きますよ」
桂樹はあわてて言いながらも、いまの社長と同じような表現を、大貫会長が使っていたのを思い出していた。
(年を取ってくると、どうしてみんなタヌキになってくるんだ)彼は社長邸にうかがう時刻を確認すると、憮然として部屋を出ていった。
次の土曜日、桂樹はブスッとした表情で社長の自宅に出かけた。
昨日病院で、アンリは何も言わなかったが、義父のゲイルには、さんざん嫌みを言われたのだ。
「ほう、きみはアンリが大変なときに、ゴルフで遊び惚けるわけだ」
「それは違うよ、G・G。ぼくだってゴルフに行きたくないんだ。でも社長命令だからな」
「と言うことは、きみはアンリよりも社長を優先するんだ」
「そんな大袈裟なことを言うなよ。とにかく大事をとって、病院と交渉して入院できたんだし、それに明日は、G・Gもアンリに付き添ってくれるんだろう」
「ああ、明日は大事な用事があったけど――いや、気にするな。わたしは愛する娘のためなら、どんな犠牲だって払うさ。たとえ娘の旦那が、さほど妻を愛していなくてもな」
「G・G、そんな言い方はないだろ。――やっぱり、ゴルフは断るべきかなあ」
「いいや、きみはゴルフに行ってくれ。なにしろ大事な社長さんと付き合うんだからな」
桂樹は、すっきりしないものを感じながら、社長邸の呼び鈴を押した。そんな彼の心情にお構いなく、三田村社長は上機嫌で家から出てきた。
「よう、高山。奥さんの様子はどうだい?」
「とくに変わりはありません。予定日は昨
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