(2)
パーティー会場では、日本人の客は年配者ばかりだった。
桂樹はむかし通い慣れた室内を、なつかしそうに歩き回った。顔見知りの大使館員も多かった。義父のゲイルも目にしたが、あえて近寄らなかった。
パーティーの終わり間際に、大貫会長が桂樹のところにやってきた。
「きみはここじゃ、有名人だな」
「そうですか?おそらく前に仕事で、ここに何度か来たことがあるからでしょう」
「宿舎の設計をやったんだろう」
「よくご存知ですね。だれに聞きましたか?」
大貫はそれに答えず、謎めいた笑みを浮かべた。
「意外にきみは癇癪持ちらしいな?」
「わたしが癇癪持ち?だれがそんなことを言いましたか?」
「だれだったかな。きみが、国宝級の頑固者だとも聞いたな」
「国宝級ですって?」
「相手がきみより年長者であるにもかかわらず、平気で怒鳴りつけたり、感情を踏みにじったりしたそうじゃないか」
「――?」
「それに奥さんがおめでたらしいが、計算が合わないそうだな」
「何のことですか?」
「結婚した日から計算すると、どうみても出産予定日が2ヶ月早いとか」
「――発育がいいんですよ――妻は健康体ですから」
桂樹は、冷や汗をかきながら言った。心の底では、そんなことをだれが大貫に言ったのか検討がついていた。
そのとき、まさにその容疑者がやってきた。
「やあ、桂樹。きみはこのパーティーに来ていたのか?」
義父のゲイル・ギャザウェーが、無邪気な笑みを浮かべて、ふたりに近づいてきた。
「ああ、G・G」
桂樹は無愛想にうなずいた。「大貫会長はすでにご存知だろ」
ゲイルは驚いたように薄い眉毛を吊り上げたが、肯定も否定もせずに、大貫に向かって頭を下げた。
「G・G、随分ぼくの楽しい噂をばらまいたようだな」
「わたしが?覚えがないな」
ゲイルはとぼけて言った。
桂樹は脅すように、義父の首に片腕をまわした。
「いまこの場で、思い出させてやってもいいんだぞ」
ゲイルは同情を誘うように、哀れっぽい顔で大貫のほうを見た。
「お見苦しいところをお見せしました。これは時々暴力をふるいますけど、身内に対してだけです。どうか暖かい目で見てやってください」
大貫は鷹揚にうなずいた。
「大変ですな、元気のいい息子さんを持たれて。そういえば思い出した。わしも高山くんに、ひどいことを言われたことがある」
「ほう、どんなことですか?」
ゲイルはにわかに興味をもって、大貫にたずねた。
「いやなに、たしか初対面のときでしたな。わしの腹が出っ張ってるとか、態度がでかいとか、その割には肝っ玉が小さいとか、言われました。大切なお得意先である、わしに向かって」
「やはりそんな男でしたか」
ゲイルが活気づいて言った。「わたしなんか、毎晩うなされるほどひどい目に会っていますよ。たとえばこの前も――」
「ちょっと待て、G・G」
ふたりの会話を、ハラハラして聞いていた桂樹が割り込んだ。「よくもそんな根も葉もない作り話を――」
大貫が桂樹の言葉をさえぎって、ゲイルに言った。
「じゃあ、わしはそろそろ失礼するが、来月の件、お忘れなく」
ゲイルが愛想よく答えた。
「第一土曜日でしたね。必ずお伺いします」
桂樹は、ふたりがなんの話をしているのか分からなかったが、大貫にガードマンとの約束を思い出させた。
「あ、会長、ジャイアンツ戦のチケットをお忘れなく」
「なんのことだ?」
大貫が、けげんそうに振り返った。
桂樹は信じられないという思いで、性急に言った。
「だって、会長は約束されたじゃないですか。門を通り抜けるときに、ジャイアンツ戦のチケットをケリーに渡すって」
「わしが約束?」
大貫は訳が分からんというように、うそぶいた。「ガードマンと約束したのはきみだろう?わしはなにも約束しとらんよ」
「ひどい!会長はあのとき、うなずいたじゃないですか」
「きみはなにかい、わしが頭を下げて礼を言ったら、それで約束したとでも言うのか?」
大貫は冷然と言うと、さっさと歩き去った。
気を取り直した桂樹は、ゲイルに訊いた。
「ところでG・G、さっき大貫さんに、来月の土曜日にうかがうって言ってたけど、なにがあるんだ?」
「ああ、大貫さんの自宅の建て替え工事が完成したんだ。それで新しい家を見せてもらうことになった。わたしも将来、建て替えるときの参考にしようと思ってね」
「ふーん、ま、大貫会長とG・Gとでは資力に違いがありすぎるけど。夢を持つのは、いいことだな」
「なんとでも言うがよい。じゃあ頼んだぞ」
「頼んだぞって、なんだ?」
「きみとアンリも招待されているんだ」
「なにっ!」
桂樹はゲイルを睨みつけた。「そんなこと聞いてないぞ!」
「あれっ、言ってなかったか。しかし大貫さんと約束したんだから、仕方がないな」
「仕方がないって――G・G、アンリはお
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