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赤坂ビルの竣工式の翌日、桂樹とアンリは、アメリカ大使館わきの教会で結婚式を挙げた。そのあと、ホテルで行われた披露宴は、ささやかだが、心のあたたまるものだった。
仲人は、設計部長の和泉夫妻にお願いした。桂樹の昔馴染の友人たちや会社の人たち、下請け企業の堀田社長や千秋社長も招いた。アンリ側からは、学校関係者のほかに、アメリカ大使館の職員たちも来ていて、桂樹の見知った顔ぶれも何人かいた。
披露宴は、新郎新婦の人柄を反映して、終始なごやかで明るい雰囲気に包まれていた。
最後に唯一の親族代表として、ゲイル・ギャザウェーがスピーチをした。
本来はしんみりとする場面だが、いかにも陽気なゲイルらしいスピーチだった。彼は新郎に一人娘を取られたことを、恨みがましく、かつユーモラスに話し、出席者の笑いを誘った。

「わたしは初めて桂樹に会ったときから、嫌な予感がしていたんだ。この男はわたしから何か大切なものを奪うんじゃないかってね。で、その予感は見事に的中したってわけだ。
アンリは、親のわたしが言うのもなんだが、子供のころから何をやっても優秀な娘でね。いま皆さんがご覧になって分かるように、容姿端麗、それにハートもいいんだ。娘は、明るくて気立てがよくて、申し分のない女性に成長した。死んだワイフも、さぞかし鼻が高いと思うよ。
そんな娘だから、正直言って、新郎新婦はあまり釣り合いがとれていない。それは皆さんも、密かに感じていることだと思う。
最初、二人が結婚すると言い出したとき、わたしは娘のセンスを疑いました。よりによってこんな無骨な男を選ぶなんて、ひょっとしたら娘も、オツムが弱いんじゃないかってね。
しかし、皆さん、日本には、蓼食う虫も好き好きってことわざがある。それに無骨な男なら、丈夫で長持ちするし、他の女にもてなければ浮気もできない。わたしは、そんな前向き思考で考えることにしたんだ。
だから皆さんも、美女と野獣だなんて思わずに、どうかこの若いカップルを祝福してやってください」

新婚旅行は、東京ディズニーランドの近くにあるホテルに一泊するだけの、質素なものだった。桂樹が働いていたビルの現場は終わったが、竣功図の手直しその他の残務で、まだまだ仕事は残っていたからだ。
二人は結婚式に集った人々から開放されて、ホテルで二人っきりになると、待ち兼ねたように愛を交わしあった。それから身繕いを整えると、ホテルのレストランで遅い夕食をとった。
「ごめん、満足なハネムーンもとれなくて」
「いいのよ。二人にとって充実していれば、一夜だけのハネムーンだって、いい思い出になるわ」
「ああ。落ちついたら、改めてハネムーン旅行をしようよ」と桂樹。
アンリが微笑んだ。
「いいわね――G・Gがついて来るって言い出したら困るけど」
披露宴会場で別れるとき、ゲイルの寂しそうな表情は、ふたりのハネムーンについて行きたいのを、ぐっと我慢しているようすだった。
桂樹は思い出し笑いをした。
「G・Gは寂しがり屋だからね。彼は前からああなのかい?」
「わたしが子どものときは、そうでもなかったわ。両親はわたしの自主性を尊重してくれたから。ひどくなったのは、母が死んでからよ」
「それだけ深く、奥さんを愛していたんだな。再婚する気持ちはないのかなあ」
「いまのところは全くなしよ。彼は母の面影が忘れられないの」
「それにしても、今日のスピーチは、ひどいことを言われたな」
「あれはG・Gの本心じゃないわ。G・Gは嬉しいとき、かえって逆のことを言う癖があるの」
「素直じゃないな。ところでアンリ、そろそろ部屋に戻ろうよ。時間がもったいない。話はベッドの中でもできるよ」
その夜、二人は愛し合い、話をし、そしてまた愛し合った。ふたりがようやく眠りについたのは、外が白々と明けかかる頃だった。

――◇――

現場の残務仕事を終えた桂樹は、やっと1週間の休暇を取った。しかしアンリは大学に戻っていたので、桂樹はひとり新居に残って、壁紙の貼り替えや庭の手入れなどをして、日中を過ごした。そして気が向くと、スケッチブックを片手に、鎌倉周辺を歩きまわった。
ある日、桂樹は、鶴岡八幡宮の境内をぶらついていた。昨夜降った雨はすっかりあがって、昨日より暖かく感じた。こうやって、ひと雨ごとに寒さがやわらぎ、春へと向かっているのだろう。
梅の花は終わりを告げていたが、まだ香りだけは残っている。源氏池のあたりでいいアングルを見つけ、縁石に腰掛けると、さっそくスケッチにとりかかった。

「絵がうまいんだね」
背後から声が聞こえてきて、桂樹は振り返った。
好々爺然とした老人が、こちらを見ていた。桂樹はその老人の顔に見覚えがあった。昨年会長を退き相談役になった長尾重役だった。長尾は、いわば小倉建設のご意見番のような存在で、小柄で飄
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