(3)

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桂樹とアンリのデートは続いた。会える回数は限られていたが、それだけに充実した、心の通い合うひとときだった。そして会うたびに、桂樹は彼女への思慕の念を深めていった。しかし彼らはまだ、口づけさえも交わしていなかった。
アンリの父親、ゲイル・ギャザウェーの勤めるアメリカ大使館は、建設現場からそう離れていなかったので、桂樹はたまにギャザウェーと、昼のひとときを過ごすことがあった。
ある日、レストランの席でゲイルが質問した。
「桂樹、うちの娘をどう思っているんだ?」
「どう思うって?」
「ずっとデートを続けてるんだろ?」
「ああ、続けているよ。それで?」
「質問しているのはわたしだ。きみは質問するな」
「なんだよ、G・G、質問するなら、わかりやすく言ってくれよ」
「きみといると子供を相手にしているようだな。じゃあ俗っぽく聞こう。きみはアンリが好きなのか?」
「もちろん好きだよ。だからデートしているんじゃないか」
「どこまでいった?」
「なにが?」
「きみは質問するなと言っただろうが」
「だってG・Gの質問の意味が、わからないよ」
「ふん、いい子ぶって――キスくらいはしてるのか?」
桂樹は、まじまじと相手の顔を見た。(自分の娘のボーイフレンドに向かって、そんなことを聞くなよ。なんて親なんだ――)
しかしギャザウェーは、桂樹の沈黙を別の意味に捉えていた。
「桂樹、まさかその先まで――」
「よしてくれよ、G・G。ぼくたちはまだキスもしていないよ」
こんどはギャザウェーのほうが、桂樹の顔をまじまじと見る番だった。しばらくして、彼はふたたび質問を開始した。
「結婚のことは考えているのか?」
「最近ぼくは、彼女と結婚できたらいいなと思いはじめたけど、彼女がどう思っているかわからないんだ」
ギャザウェーは、ふたたび桂樹の顔をみつめた。それから沈んだ声で言った。
「どうやらアンリは、きみのことを誤解しているようだな」
桂樹はあわてた。
「どういう事だよ?」
「彼女はきみに、あまり愛されていないと思っているんだ」
「どうして――」
桂樹は絶句した。
「だって、考えても見ろよ。20代の男がデートを重ねて、キスのひとつもしてないんだぞ。欧米では考えられないことだよ」
「――」
桂樹は赤面した。「彼女がそう言ってるのかい?」
ギャザウェーは、真っ直ぐ桂樹の目を見つめながら言った。
「ああ、アンリはそう言っていた」

次のデートのとき、桂樹は恥ずかしそうに言った。
「あのう、アンリ――ぼくを誤解しないでもらいたいんだ」
「あら、わたし、あなたのことを何か誤解しているかしら?」
桂樹はモジモジした。
「きみのお父さんは、なにも言っていなかったかい?」
「G・Gから?何も聞いていないけど――」
アンリは思いだそうとするように、小首をかしげた。
「そう――ちょっと目を閉じてごらん」
アンリが素直に目を閉じると、桂樹は素早く顔を寄せて、彼女の唇にキスをした。
「何をするの!」
アンリは反射的に、桂樹の頬をひっぱたいた。
近くの席にいた年配のカップルが驚いたように、ふたりのほうを見た。それよりも、桂樹のほうが驚いていた。

「ごめんなさい!」
アンリは自分の咄嗟の行為にとまどい、桂樹の顔を心配そうに見た。「痛かった?でもあなたって、人前で急にキスをするんだもの」
「でもG・Gが――」
桂樹は、頬をさすりながらつぶやいた。
アンリがけげんな顔をした。
「G・Gがどうかしたの?」
「彼がこの前言ったんだ。きみが誤解しているって――そのう、ぼくがきみを愛していないって」
「わたしが誤解している?どうして?」
「ぼくがきみにキスをしないからだって。G・Gは、きみがそう言ってたって、この前話したよ」
アンリは、納得したようにうなずいた。
「あなたはG・Gにからかわれたのよ。わたしは、そんなこと一言も言ってません」
彼女は微笑んだ。「それから、キスをするときは、それなりの状況が必要だわ。わたし、人前でキスをするのは、あまり好きではないの」
桂樹はアンリの言葉に、嬉しさと、ゲイルに対する憤りとで、複雑な思いだった。しかし、そんな彼の気持ちも、別れ際には霧消していた。
ふたりは暗がりで、心置きなくキスを交わしたからだ。

建設工事の中間点の上棟式が済み、工事はいよいよ本格的な仕上げ段階にはいった。桂樹は設計担当者として、造作ディティールや色決めで、忙しい毎日を送っていた。
そんなある日、彼は所長室に呼ばれた。
何事があったのかと恐る恐る部屋に入ると、二人の客がいた。堀田内装の社長と、番頭の小室老人だった。
「高山、二人は知っているな。こっちに来て座れ」
所長が上機嫌な声で、桂樹に椅子をすすめた。桂樹にとっては、なつかしい顔ぶれだった。なにしろ彼が初めて単独設計した、大使館の建設
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