(3)

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赤坂の現場に行く前日、桂樹は、アメリカ大使館宿舎の竣工パーティーに招かれた。
パーティーには小倉建設からも、社長以下多くの関係者が出席していた。設計者である桂樹は、その席でアメリカ大使から感謝状を受けた。
立食パーティーの会場で、桂樹はひとりの若い外国女性に目をとめた。その女性はゲイル・ギャザウェーと話をしていたが、その廻りには、話に加わりたくてウジウジしている男たちが、大勢たむろしていた。
それほど彼女は魅力的だった。背が高く、170センチ近くあった。色白で彫りの深い横顔を見ながら、桂樹は引き寄せられるように、そちらに近づいていった。

「やあ桂樹、久しぶりだな」
先にギャザウェーのほうから声をかけた。
桂樹はギャザウェーと握手をしながら、女性の方を見た。近くで見ると、どことなく日本的な要素をもつ欧米人の顔だった。すんなりとした眉の下から、知的なグレーの瞳が桂樹を見返した。筋の通ったほっそりとした鼻、やや大きめのピンク色をした唇がなにか言いたそうな表情をしている。
桂樹は魅入られたように、その女性の顔を見た。
「桂樹、なにポケッとしているんだ」
横からギャザウェーがからかうように言った。そのとき、当の女性が口を開いた。
「パパ、お知り合いの方?」
「パパ――?」
桂樹は、その女性とギャザウェーの顔を交互に見比べた。彼女はずんぐりしたゲイルより背が高いし、ファッションモデルのように抜群のスタイルをしている。どう見ても親子とは思えなかった。
ゲイルが桂樹の表情を見て、怪訝そうに言った。
「なんだ、桂樹、ふたりが親子なら何かおかしいのか?」
「いや、ちょっと日本の諺を思い出していたんだ。鳶が鷹を生むって」

女性がクスクスと笑った。桂樹が振り返ると、彼女は明るい笑顔で、桂樹のほうを真っ直ぐに見ながら言った。
「ハイ、わたしアンリ・ギャザウェーよ。よろしく」
彼女は手を差し出した。
「あ――ケイジュ、高山桂樹です。よろしく」
桂樹はドギマギしながら、彼女の手を握った。指が長く、女性にしては力強い握手だった。
「きみは、日本語が上手だね」
彼はそう言いながら、自分の陳腐な言いまわしに顔を赤らめた。
アンリが声に出して笑った。明るくて感じのいい笑い声だった。その横でギャザウェーが、バカにしたように言った。
「桂樹、それは間の抜けた質問だよ。わたしが日本女性と結婚してからずっと日本にいることは、きみも知ってるだろ。だったらアンリは、生まれたときから日本人だよ」
「ハイハイ、分かりました」
桂樹はゲイルに頭を下げると、アンリに向き直った。
「アンリって、日本的な響きのある名前ですね」
彼女が微笑み、父親がふたたび答えた。
「それも間の抜けた質問だよ。アンリは日本語だ」
父親の横で、アンリが補足した。
「漢字で書くと、安らかな里って意味なの。母がつけてくれたのよ」
桂樹は女性と話をするのが苦手だったが、アンリといると、自分でも驚くほど口が滑らかになった。
「へーえ、いい名前だ。ところでぶしつけな質問だけど、きみは働いているの?」
「ええ、大学で英語を教えているわ」
「大学の先生――独身なの?」
「ええ――」
「ボーイフレンドはいるの?」
そこで彼女は笑った。「あなた、質問ばかりして。なんだか職務尋問されているみたい」
「これは失敬。じゃあこんど、ぼくとデートしてくれる?」
「ちょっと待て!」
横からゲイルが、ふたりの間に割って入った。
「娘とデートするときは、父親に断ってからにしてくれ」
桂樹はアンリの顔をじっと見ながら、ゲイルに言った。
「じゃあパパ、今度、娘さんとデートしていいかい?」

――◇――

アメリカ大使館のパーティーから数日後、約束の時刻に帝国ホテルのロビーに行くと、アンリの横にゲイル・ギャザウェーがいた。
アンリは桂樹を見て、ちょっと肩をすくめ、申し分けなさそうに微笑んだ。
桂樹は、父親のほうに向かって言った。
「あれ、ゲイル。今日はどうしたんだい?」
「一人娘の貞操の危機だ。娘に連れ添うのが父親の義務だろ」
「パパ、わたしはもう一人前の社会人よ。構わないでいただきたいのだけど」
アンリが横から迷惑そうに言った。
「ぼくもそう思うよ。それにゲイルだって、ぼくの真面目な性格はよく知ってるだろ」
「だから心配なんだよ。興奮すると何をしでかすか分からん男だからな」
「ゲイル、冗談はやめてくれよ。アンリが本気にするじゃないか」
「ちょっと待て。今、アンリって呼び捨てにしたな。きみたちはまだそんな関係じゃないだろ」
「あら、G・G、わたしはべつに構わないわ」
アンリが横から言って、桂樹に向きなおった。「わたしもあなたのことを、ケイジュって呼んでいいかしら?」
「いいよ、アンリ」

3人はホテルのラウンジでお茶を飲んだ。桂樹は
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