(2)
入寮して一週間目に、新入生の歓迎会があった。
歓迎会といっても、それは新入社員たちにとって試練のときだった。毎年、何も知らない新人たちは、先輩たちの手荒い歓迎の洗礼を受けるのだ。
まず新人たちは一人ずつ、先輩たちの席にお酌をして廻らなければならない。もちろんお酌をするだけではない。まず先輩にビールを注ぎ、先輩が飲みおわると、次は返杯を受けて自分が飲み干すのだ。
ひと回りすると、たいがいの新人は、もうそれだけでグロッキーになる。
しかし宴会は、それで終わりではなかった。次は隠し芸の時間だ。
酒でヘベレケになりながらも、新人たちは唄を歌ったり、踊りをしたり、思い思いの余興をさせられるのだ。
坂井の唄がおわり、桂樹の番が廻ってきた。桂樹は酒が強いほうだが、さすがに飲みすぎて、呂律が回らなかった。それでもなんとか唄を歌いおわると、だれかが言った。
「この前、風呂で見たけど、高山のナニはすごくでかいぞ」
「へーえ、おい高山、脱いで見せろよ」
とたんに手拍子が始まった。
「脱ーげ、脱ーげ――」
桂樹はみんなの前で、ポケッとして突っ立っていた。そのうち寮生のひとりが、背後から桂樹の腰に両腕を回して、ズボンのベルトを緩めだした。
「先輩、やめてください!」
桂樹は抗議した。
それを無視して、もう一人の先輩が、ふらつきながら桂樹の前に屈み込んだ。
「いいから、いいから。見せて減るもんじゃないだろうが」
先輩たちは、桂樹のズボンをずり下げながら言った。抵抗もむなしく、桂樹は剥き出しの下腹部をみんなの前に晒していた。
「すげえっ!でっかい亀頭だ」
「皮がひんめくれてるぜ」
寮生たちが口々につぶやき、ため息をついた。
そのうち、だれかが言い出した。
「おい、高山、ついでだ。裸踊りをやれ」
「高山くん、昨日、寮でストリップをやったんだって?」
だれから聞いたのか、吉田課長が桂樹のところにやってきた。背の低い小太りの40男で、いまもって独身だった。色白のなめらかな頬と小作りの目鼻立ちは、ボンボン育ちの典型的な容貌だ。それに、ひろいおでこは前髪で慎重に隠しているが、頭頂部が薄くなっていたし、丸っこい顎は二重になりかけている。
桂樹が無視をきめこんでいると、吉田がなおも絡んできた。
「でっかいお道具をしてるんだって?」
桂樹は吉田に向き直ると、黙ったまま、じっと相手の顔を見つづけた。
吉田が気後れしたように、目を逸らした。
「怒るなよ。しかし、見たかったな――きみのスッポンポンの姿を」
彼は冗談っぽく言ったが、妙に気恥ずかしそうだった。
桂樹は仕事の上で、ときどきこの吉田課長と意見が衝突した。ほとんどが、デザインに関わる考え方の相違だった。
吉田は、基本プランでは桂樹の書いた図面をすんなりと受け入れていたが、こと建物の外観や内部の空間構成に関しては、あれこれと手直しを求めた。デザインは人それぞれの感性によるので、どちらが正しいともいえないだけに、ふたりの相違点は、いつも平行線をたどった。結局は、見かねた和泉部長が仲裁することで、決着をつけることが多かった。
そんなとき和泉は、桂樹と吉田を夕飯に誘い、ふたりを仲直りさせようとした。和泉は根っからの技術者で、建築学会でも名が通っていたが、心の暖かい紳士でもあった。
和泉は二人を前に話した。
「人それぞれに顔かたちが違うように、感性もそれぞれ違う。きみたちのデザイン感覚が違うのは、当たり前のことだ。それに、きみたちは優れた感覚を持っているから、どちらがいいとも決めがたい」
「では部長は、どちらにするか最終的に判断するとき、何を基準に考えているのですか?」
吉田が尋ねた。昼間のやりとりで、和泉が最終的に桂樹の案を採用したことを言っているのだ。
和泉は上品な顔を曇らせて、少し考えた。そのさまは、民間会社の部長と言うよりも、むしろ大学教授と言ったほうが似合っている。
「客観性かな。つまり、建物の機能、周囲の景観、発注者の希望――それらを総合した判断だ。決して、私個人の好みで判断するのではない」
「あのう――部長」
桂樹が、横からおずおずと言った。「客観性とおっしゃいますが、わたしはフランク・ロイド・ライトが好きです。彼は地域の特性を生かした建築物を設計しています。それでも彼の作品は、共通した強烈な個性を主張していると思います。部長はどう思われますか?」
和泉はロマンスグレーの頭を上品に傾けて、にっこりと微笑んだ。
「ライトは周囲を啓蒙して、自分の考えに同化させてしまう力があるからだよ。きみたちも力をつければ、自然に相手のほうから歩み寄ってくるようになる」
そう言う和泉は、すっかり大学教師の口調になっていた。
和泉部長が吉田課長と桂樹の円滑剤の役目を果たしたが、それでも二人の仲はしっくりといかなかった。吉田
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