仕事のあとで



――ようやく終わった。
老人は腰を伸ばして大きく伸びをすると、アルバイトの男たちを見やった。最近は若者たちに混じって、熟年男たちの顔も見られるようになった。長く続く不況のせいで、リストラにあった男たち。本来なら管理職で働いている年代だ。
彼らはめいめい伸びをして、手にした掃除用具を片づけだした。どの顔にも、深い安堵の表情が浮かんでいる。
早朝の駅構内は、土曜日ということもあって、乗降客はまばらだ。
老人はこの雰囲気が嫌いだった。新しい一日が始まろうとするのに、なんとなく暗くて裏寂しい。行き交う人々も目をしばたいて、気怠そうに歩いている。
早朝5時から7時にかけて働き詰めで、70歳に近い老体には、こたえる重労働だった。
老人は恰幅の良い体を窮屈そうに折り曲げて、見つけた床のシミをモップで拭き取った。うしろに突き出たでっぷりとした尻を、男たちのひとりがじっと見つめている。

清掃のおわった最後のフロアをプロの目でチェックすると、老人は満足そうにうなずいた。それからアルバイトの男たちを集めた。
「ごくろうさん。賃金はまもなく届くはずだから、下の喫茶店で待ちなさい」
彼は言葉すくなに言うと、男たちを連れて地下街に向かった。
喫茶店に行くと、ちょうど店員が閉店表示の札を取り外しているところだった。一行は疲れきった足取りで店に入って、いちばん奥の席を陣取った。
老人はコーヒーを頼み、5人の男たちは、サンドイッチとめいめい好みの飲みものを注文した。
彼らは一様に、椅子の背もたれに体を預け、けだるそうに足を伸ばして、しばしの休養をとった。ものを言うのもおっくうそうだ。

老人は太った男特有の、股を大きく開いて座り、椅子の背もたれに身体をあずけて目を閉じた。着古した作業着が、でっぷりとした体にぴっちりと貼りついて、ズボンの布地が窮屈そうに張りつめている。
大柄な身体とおだやかな性格――いわゆる癒し系の老人で、怒った顔はまず見たことがない。肉付きの良い艶やかな顔は、目もとの疲れた小じわがなければ、気ままな隠居生活を思わせた。
しかし彼は70歳近くになって、なお働かざるをえなかった。家には病床の妻、そして家のローンが残っていた。
目を閉じた老人は、のっぽの50男が彼の股座を見ているのに気付かなかった。ズボンの布地に浮き出た性器のふくらみ、そこから温もりが放射してくるのを感じ取ろうとするように、男は密かに観察を続けていた。

ようやく会社の人間がやってきて、アルバイトの男たちに賃金を支払った。
老人は、彼らに向かって言った。
「きょうはごくろうさん。じゃあ、失礼するよ」
そのとき、痩せたのっぽの50男が言った。
「主任、これからサウナに寄るんでしょう。俺たちも付き合っていいですか」
どうやら彼は、老人が一仕事終えて、サウナに寄るのを知っているらしい。
老人は気軽にうなずいた。
「ああ、いいよ」

朝のサウナは、素泊まりの客も帰ったあとで、がらんとしていた。
彼らは衣服をロッカーに入れると、タオルを片手に浴場に向かった。
手早く湯をかぶって、サウナルームに入る。室内の温度は我慢できないほど熱くはなかった。摂氏90度に保たれ、ゆっくりと時間をかけて汗がにじみ出るように設定されている。
太った老人の体から、いちはやく汗が吹き出た。うっすらと脂肪の層で覆われ、柔らかな丸みをおびた肌一面に、水滴が浮き出ている。
老人は辛抱強くベンチに腰掛け、父親のような滋眼で、一緒に来た男たちを見ていた。白いものの混じった薄い眉毛、両端の下がったゆるんだまぶた、その半ば閉じたまぶたの隙間から、色素の薄い茶色の瞳が、いかにも優しそうに輝いている。

老人につきあってサウナに来た二人の50男。痩せて背の高い男は、目が細く、どことなく遊び人風に見える。相棒の小太りの男は、背が低く、太い眉毛とどんぐり眼の、見るからに朴訥な顔つきをしている。
いずれも自動車部品工場の契約社員だったが、相次ぐリストラで解雇され、一時しのぎのアルバイトをやっている。
お互い、さほど親しくもなかったが、同じ職場だった共通点から、ときどき連絡を取り合っていた。世慣れたノッポの男が、いつも主導的立場で、今回のアルバイトも彼の誘いがあったからだ。
ノッポの男は妻帯して子供もいたが、早くに離婚していた。彼は仲間内で自分が男好き、それもフケ専であることを、公然と口にしていた。
いっぽう、小太りの男は若い頃、片思いの女にからかわれて、深く傷ついた。
以来、女を避けるようになり、穏やかな年配の男性に惹かれるようになった。
しかし人一倍控えめな彼は、男との肉体的交わりはなかった。背が低く、風采の上がらない男だが、裸になると、浅黒い肌の精悍な肉体をしていた。
何よりも目を引くのは、股間にぶら下がる渋茶色にふすぼけた性器だ
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