(3)
則平は3日間、仕事を休んだ。と言うよりも、謹慎させられたと言った方が、当たっているだろう。
その間毎日、夕方になると飲みに出かけた。
4日目の朝、中野センター長から電話があって、市の福祉部長に会ってくれと言う。
則平は重苦しい気分で市役所に出向いた。勝手知った建物だが、今はよそよそしい感じがする。
通された部屋で待っていると、福祉部長がやってきた。背が低く小太りで、前に中野の部下だった男だ。
部長は値踏みするように則平を見たあと、てきぱきとした口調で言った。
「あなたのセクハラ容疑は晴れました。どうやら、あなたは罠にはめられたようです」
寝耳に水だった。どうして?と訝っていると、部長は話を続けた。
「事件のすぐ翌朝、地元紙に記事が載っていたことを考えると、計画的にやられたようです。今のところ、女性職員がどうしてそんなことをやったのか不明ですが、いずれ解決するでしょう。今、中野さんと警察の方で調査を続けていますから」
「あ、それから」部長は思わせぶりな口調で言った。「警察には、あなたの性癖について言っていませんから、安心してください」
(おれの性癖?何を安心するんだ?)
則平が何か言うまえに、部長は、「じゃあ」と言って、せかせかと部屋を出て行った。
なぜだか、則平を避けているようにも見えた。
「ええっ!じゃあ、私がホモだってことを、福祉部長に言ったのですか?」
則平は老人介護支援センターに戻って、センター長の部屋にいた。
中野はこともなげに言った。
「だって、この際、仕方がないじゃないか。きみが女にまったく興味が無い、ということを立証するのがまず先決だ」
則平はぐぐっときたが、気を取り直して中野に訊いた。
「で、福祉部長は、それを信じたわけですね?」
中野はのんびりと答えた。
「いいや、最初の内は信じなかった。きみは3回も結婚しているから、女好きだと思われているんだ。で、きみの素行調査をしたらどうかと提案した。ほら、きみはちょくちょく、ホモバーの雅に行ってるだろ」
中野の話を聞いていて、則平はふと思い当った。この3日間、誰かに見られているような気がしたが、あれはこのことだったんだな。
追い打ちをかけるように、中野が言った。
「それに、きみはもう62歳だ。市役所も定年退職したあとだし、ホモだとばれても大した影響はないだろう」
則平はこのとき初めて、中野に対して強いサディスティックな気持ちになった。
(こんど抱いたときは、徹底的に痛めつけてやる)
彼が難しい顔をして黙り込むと、中野が能天気に言った。
「ひょっとしてきみ、怒ってるのかい?まあ、機嫌を直せよ。今夜はたっぷりサービスしてあげるから。それから――」
中野はデスクから白い封筒を持ってきて、則平に渡した。「もらい物だけど、きみにあげるよ。たまには娘さんと外食でもしたら」
開けて見ると、ホテルの食事券だった。こんなもので怒りを相殺するつもりはないが、取りあえずくれるものは頂くことにした。
その夜、則平は久しぶりに中野とベッドを共にした。そして、いつになく燃えた。
中野の太った身体を折り曲げて、一直線に肉杭を打ち込んだ。その激しさは、折檻しているのか愛の行為をしているのか、区別のつかないものだった。
翌朝、木原覚が家にやってきた。覚が中野と打ち合わせをする予定で、一緒にセンターに行くことになっていた。濃紺のスーツに白シャツ、赤と紺、シルバー3色のストライブのネクタイをしている。
いつもラフな格好を見慣れているので、覚のスーツ姿は新鮮に見える。
「あら、覚さんって、案外おしゃれね」
千佳子がお世辞を言い、覚は嬉しそうに顔をほころばせた。
その横で、則平がぼそっと言う。
「みにくい内面を隠すために、外見をとりつくろっているとも言うな」
「お父さん!」と言って、千佳子がにらみつけた。
センターに行く道すがら、則平は覚に訊いた。
「お前、千佳子のことをどう思っているんだ」
「どう思っているって?」
「いくら幼馴染と言ったって、お前たちはちょっと近すぎやしないか?」
「そんなことはないと思うけど――」
いつもはずけずけと言う覚が、急に口が重くなった。それに、どことなくおどおどしている風にも見えた。則平はおやっと思った。
「千佳子が好きなのか?」
則平は、ずばり訊いた。
覚は少し間をおいて、小声で言った。
「――ええ」
「千佳子が結婚する前に、意思表示したのか?」
「いえ――気後れしてしまって。――でも、千佳子さんが結婚したとき、何かとても大切なものを失った気がしました」
則平は聞いていてあきれた。物怖じしない30歳の男が、こと男女の話になると、初心な青年のように引いているのだ。
則平は内ポケットから、昨日、中野に貰った食事券を取り出すと、覚に渡した。そして、ぶっきらぼうに言っ
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想