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「じゃあ次は、今度の日曜日に洋画家の百田(ももた)さんの家に行ってくれ」
今年72歳になる栗田議員は、いつものようにさり気ない口調で言った。
耕平はあいた口が塞がらなかった。
「じゃあ次はって――なんだか私がお年寄りのところに伺うのが、定例行事のように聞こえるんですけど」
それにいつの間にか、栗田の言葉は命令口調になっている。なんで区の職員が、区会議員に私物化されなくちゃあならないんだ。
「それはコーちゃんの勘違いだろ。私は親友にお願いしているつもりだけど」
栗田は弁舌さわやかに、のうのうと言った。おまけに耕平のことをコーちゃんと呼びだしている。養老院の鈴木老人の影響であることは、間違いない。
そして今度は、『親友』ときた。まったく政治家の先生さまはこれだから困る。耕平はあきらめの境地で質問した。
「で、百田さんって、どんな人なんです?」
「コーちゃん、画家の百田さんを知らないの?」
「知っていますよ。私が訊いたのは、百田さんの家に行って何をやればいいんです?」
栗田は耕平のズボンの前をちらりと見て、肩をすくめた。
「さあ、よくは分からないけど――。近ごろ創作意欲が減退しているんで、なにか刺激が欲しいそうだ。おそらくモデルの話じゃないかな」
「ええっ、冗談でしょう。ぼくに絵のモデルになれって言うんですか。脂肪太りした親父ですよ」
栗田は耕平の身体を見て、とくに否定はしなかった。
「そうだね。向こうのほうで、ノーサンキューと言われれば、すぐ帰ってきていいよ」
百田画伯の家は、あけぼの町の北側、自然植物園の雑木林がひろがる一角にあった。古びた洋館風の屋敷である。
耕平が訪れたとき、百田は庭に出てキャンパスを前に、絵筆を握っていた。耕平は遠慮して、少し離れたところで控えていた。
百田陽三郎は人物画を得意としていて、耕平も区役所に飾られた彼の絵を見たことがある。主に労働をしている人物像が多く、老若男女を問わず幅広い層の絵を描いた。
耕平は、ふと庭の片隅を見て、一瞬、ドキリとした。木陰になった芝生に、男性老人の彫像が据えられていた。全裸で寝椅子に寝そべって、ものうげにこちらを見ている。
耕平が違和感を覚えたのは、顔はいかにも老人らしい穏やかな表情をしているのに、股間の男の陽具は、老人とは思えない勃起力で、隆と弓なりに天を突いているのだ。
「あの彫像には、ふたつのテーマがある」
背後から声が聞こえた。百田画伯本人だった。「生と死――命の葛藤だ」
「あ、大井耕平と申します。栗田議員に言われて参りました」
耕平は名乗って、そのあと訊いた。「あの像は、先生が創られた作品ですか?」
それに直接答えず、百田は言った。
「右手を腕枕に、左の手足をだらんと伸ばしているのは、老い先短い人生をはかなんでいる様だ。一方、右ひざを力強く立てて、股間の逸物を青年のようにおっ立てているのは、生への執念を表す」
耕平は感心して、庭の老人像を見た。画伯の言ったことが、よく理解できた。
その彼の耳に、百田画伯の声が聞こえてきた。
「――と言うのは、うそ」
耕平が振り返ると、百田はひょうきんな仕草で肩をすくめた。「単にぼくの願望。あんな風におっ立てられたらいいなって」
言ったあと、コロコロと笑った。そうとういたずら好きのようだ。
「じゃあ、アトリエに行こうか」
百田画伯は小柄な身体をきびきびと動かして、屋敷のほうに向かった。
耕平が事前に調べたところによれば、百田陽三郎は昭和16年2月生まれ、今年78歳になる。小柄だが山歩きが好きで、夏の間は軽井沢の別荘を拠点にして、周辺の山歩きを楽しんでいる。
それだけによく日焼けして、いたって健康体に見える。彼は墨田区の福祉事業の支援活動をやっていて、多額の寄付もしている。
半面、いくつかの奇行で知られている。素っ裸になっての隅田川ウォークを企画したり、駅広場でボディーペインティングの実演のため、自らも全裸になって絵の具を全身に塗りたくったりした。いずれも途中で、警察の取り締まりにあったが――。
2階のアトリエに行くと、百田はごく普通の調子で、「さあ、服を脱いで」と言う。
耕平はおずおずと服を脱ぐと、百田はこともなげに言った。
「あ、パンツも脱いで」
画伯は、布製の折り畳み椅子を持つと、耕平の前で腰かけた。
「ふーん、きみ、なかなか造形的なお道具を持ってるじゃないか」
まず顔を寄せて匂いを嗅ぐ。それから口に含み、味見するように舌をまとわせる。そして口から出し、すでに硬く屹立した肉根を、上から横から裏側から、ためつすがめつして観察する。その様子は、男を奮い立たせようとするよりも、男の構造を微に入り細に入り、調べているようだ。
耕平は戸惑ったが、画家のなすままじっとしていた。
「じゃあ始めるか」
百田画伯が立ち上
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