(3)

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川井田和敏は、自分が性に関して無節操なのは、じゅうぶん認識していた。相手が女でも男でもこれはと思う人物だったら、つい操を奪いたくなる。そして食指を動かすのは、彼独特の好みに因った。
女は健康的な年増が良かった。それも逞しいのではなく、コロコロとした小太りのタイプだ。性格的には愛嬌があって、しなやかさのある根アカがいい。
男は人生のピークを過ぎた年寄りが好みだった。体毛の濃いムキムキ男より、脆弱な生白い肉体に惹かれた。そして、喜びや悲しみ、苦しみなど、諸々の経験を経て練りあわされた人格――それを感じさせる爺さんが良かった。

シニアクラブの役員をしている、山本典子は、和敏の好みにぴったりとくる女性だった。70歳の未亡人で、背の低いコロコロとした体型をして、明るくて愛嬌があった。
多少おしゃべりすぎるところはあったが、周囲を和らげる癒し系の女だった。
和敏は、この自分より5つ歳上の女に肉欲を覚えることはあったが、それを実行に移す気はなかった。義父と人に言えない関係になった頃から、男性専科と決めていたからだ。
ところが、ふとしたきっかけで、和敏はこの女性と関係を持ってしまった。

あるとき、和敏はシニアクラブの会長とふたりして、典子の家を訪れていた。テレビの映りが悪いという話から、一度見てあげようということになったのだ。
会長とふたりして、あれこれ調べている途中で会長の携帯に電話があった。急用ができたと言う。そうなると、寡婦の家に男がひとりと言うことになるが、そのときは歳が歳だから特に気にせず、和敏は居残っていた。
結局、原因がわかって、テレビは正常に戻った。
やれやれと思って床から立ち上がろうとしたとき、典子のひざ裏が見えた。太ももとふくらはぎの接合部分がくびれて、折り皺が妙に艶めかしかった。それを目にして、ふいに、強烈な性衝動を覚えた。
和敏は後先考えず、典子の腰に腕をまわして、カーペットに引き倒した。そのまま乱暴にスカートとパンツを引き剥いだ。
典子は何が起きたのかとうろたえていたが、脚を開かれ裂け目に舌が侵入してきたとき、甘い喘ぎ声をあげた。閉経したあとも夜の関係はあったが、夫が死んでから、こんなことはもう10年近くご無沙汰だった。
和敏が下腹部を露わにして、押し開いた脚の間で膝立ちになったとき、典子は記憶にある夫との違いに興奮した。男の道具がこんなに力強いものとは――。
和敏は強引に、肉の裂け目に突き入れた。湿った熱い感触――和敏は一直線に貫くような力を感じた。こんなに充実したのは久しぶりだった。
ゆったりと腰をうねらせていると、最初はきしむようなぎこちなさがあったが、じょじょに滑らかになってきた。
(70歳でも、こんなに潤うんだ)和敏は気持ちよく抽送しながら驚いた。
あとは技巧を凝らして、自由自在に腰をうねらせた。
「あっ――あはあ――はあっ」
典子が控えめに善がり声をあげだした。
「どう、典ちゃん――ここはどう」
小刻みに揺すって、ググウーッと奥深く突き入れた。
ふいに、ビクッと痙攣して、ギュウと握りしめてきた。
「あっ、いくっ!」
70歳になる典子の身体がビクンと揺れた。

3月に入ったある日、和敏の義父、椙田良徳のもとに訃報が届いた。あけぼの町の幼馴染で同級生だった男が、心不全で亡くなったというのだ。
次の日、良徳は黒服に着替えて、元医師の藤井と一緒に、葬儀会場に出向いた。
故人の享年が88歳ということもあって、葬儀会場にはあきらめにも似た雰囲気が流れていた。親族もさほど深刻な表情を見せず、会葬者に淡々と頭を下げていた。
良徳は幼馴染への焼香を済ませ、直来会場で顔見知りの数人と話して、藤井と共に、早めに切り上げた。
ふたりは隅田川に出て、遊歩道を歩いた。
隅田川沿いのサクラがちらほらと、淡いピンクの色を見せていた。堤防に来ている人々の表情も、心なしか明るく感じられる。あたりには風と共に、春の気配が漂っていた。
同級生を失った良徳の気持ちを思いやってか、藤井はめずらしく寡黙だった。
良徳は、物思いに沈んで、ただ惰性で歩いていた。
いずれその日が来るとは言え、同級生の死に直面するのは複雑な心境だった。88歳の年齢は、十分生きたという者がいるし、まだまだと言う者もいるだろう。
(おれはいつまで生きるのか)
老齢により身体の自由が利かないことは多々あったが、彼はまだまだ健康体だった。
良徳は並んで歩く、7歳年下の相方の顔をちらりと見た。そして、ぽつりと言った。
「先生、おれより先に死ぬなよ」
藤井が、へっという顔で良徳をかえり見た。

シニアクラブの行事が終わって、和敏が家に帰り着くと、いつもはリビングで囲碁を並べている義父の姿が見えない。
(今日は同級生の葬式があると言っていたが、まだ帰っていないのか)
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