(3)

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健一は同級生のティムやサトルと一緒に、清澄庭園の近くにある寺の墓地に来ていた。
そこに彼らの高校時代の担任教師、伊藤公正の墓があった。
雑草を抜き、墓石を水で清めたのち、持ってきた男郎花(オトコエシ)を竹筒に差した。男郎花は花の色が白く、黄色い花の女郎花(オミナエシ)に比べて、逞しい姿をしている。茎も太くて毛深い。
亡き恩師が好んだ花だった。健一は今日のため、探し求めて買ってきたのだ。
最後に線香を供えて、3人は手を合わせた。諸々の思いが浮かんでくる――。
伊藤公正は、風雪に耐え抜いた渋い顔立ちから、剛毅な人柄を思わせるが、意外に茶目っ気のある人物だった。その上、形式に捉われない自由な発想の持ち主でもあった。
健一たちは、伊藤先生の感化を受けて、自分たちの進む道を歩んできた。高校卒業後も、3人揃って先生の自宅を訪れた。先生が教職を退いた後は、先生を誘って年に一度の一泊旅行に出かけた。
ティムはお祈りするケンさんの横顔をそっと窺った。彼はある思いに囚われていた。
(ひょっとしてケンさんは、伊藤先生と親密な仲になっていたのではないか?)
先生の自宅に伺ったときの様子が、目に浮かんだ。ケンさんの話を聞きながら先生は、俯き加減に目を閉じていた。嬉しそうな、心地よさそうな――そんな表情をしていた。

墓参りがすんで寺から出たあと、健一はふたりに言った。
「おれはこれから用事があるんで、失礼する」
「じゃあ、ぼくは会社に戻る」
ティムが言った。コンピューター技師の彼は、会社を抜け出して、恩師の墓参りに付き合っていた。
「私はお店の準備だ。今夜はケンさんの歓迎会だから、ご馳走しないとね」
サトルが言って、健一を見た。「ケンさん、今夜は私のアパートに泊まってよ」
「なんだか身の危険を感じるけど、ベッドはふたつあったんだな」と健一。
「ふたつあるけど、別に使わなくてもいいじゃん」
サトルは言って、ウインクした。

健一はふたりと別れると、再び花屋に行って、男郎花の花を買った。それから地下鉄を乗り継いで、谷中の霊園に行った。そこには彼の父、速水泰英の墓がある。
(父さん、ここに来る前に、伊藤先生の墓参りをしてきたぜ。男郎花の花もお供えしてきた。父さんたちが好きだった花だ)
健一の父、泰英と伊藤先生は、人に言えない仲だった。健一がそれを知ったのは、伊藤先生の葬式の後だった。
人を人とも思わない地元有力者だった父が、家に戻ってから、子供のように泣きじゃくっていた。そして健一に告白したのだ、誰にも言えなかった先生との関係を。
それまでなにかと父に反発していた健一は、父の告白を聞いて、初めて父が身近な存在に感じられた。父にも人間的な弱みがあったんだ。――その血は自分にも流れているけど。
健一は同期たちと一緒に、伊藤先生を招待して泊った温泉旅館で、先生と密かな男色関係を結んでいた。誘ったのは先生のほうからだった。
手慣れた口淫とほの温かくやわらかい秘腔によって、神聖なベールが剥がされた。そこには禁断の快楽に酔いしれた老人の姿があった。
でも伊藤先生は、健一の父親との関係はおくびにも出さなかった。父が告白しなければ、ふたりの関係は闇に葬り去られていただろう。
(悪いお人だ)――あとで知って、健一は苦笑した。

あけぼの町に戻った健一は、安藤ミヤの事務所に行った。父が生前交流のあった不動産業の女会長で、地元では隠然たる力を持っている。85歳になるが、頭が切れて、身のこなしもきびきびとしている。
「ずいぶん日焼けしてるわね。アフリカでも行ってたの?」
開口一番、ミヤは言った。
その背後には、白髪の恰幅の良い体格の副社長が控えている。
「南米のほうです。マチュピチュやイグアスの滝に行ってきました」
「あら、うらやましい。若いうちは大いに冒険するべきよ」
「会長、若いって――もう54歳になります」
「私から見れば、まだまだ若いわ」
言ったあと、ミヤは値踏みするように健一を見た。「あなた、再婚する気はないの?」
「あ、会長、その話題はナシです。束縛されるのが嫌いな質ですから」
「そんなところは、泰英さんに似てるわ。あの人も命令されるのが大きらいだった」
彼女はちょっとだけ昔を思い浮かべる表情をした。「でも、あなた、そんな立派な身体をしてるんだから、性欲だって人一倍旺盛でしょう。どうやって解消してるのよ?」
いきなり生々しいことを訊かれて、健一は少し躊躇したが、正直に答えた。
「女はもうこりごりです。どうしょうもないときは、男を相手にしています」
言ったあと、口ごもった。「こんな話をして、会長の気分を悪くしたでしょう」
ミヤはケロッとして言った。
「あら、私はホモに偏見を持っていないわ。むしろホモの殿方を尊敬してるんだから」
彼女は、ホホホと笑った。「だってそ
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