4.南米帰りの男

(1)

その客は、惚れ惚れするような立派な肉体をしていた。
年の頃50代半ば、均整のとれた骨格に年相応の肉がついて、壮年男の覇気が色濃くにじみ出ている。しかも顔はどことなく高倉健を思わせる、渋い二枚目である。背丈は175センチ、体重は80キロくらい――国上満男は、プロの目付きで、男のボディーサイズを推量した。
二人だけの個室で、客が股間を覆う最後の布切れをずり下げたとき、思わず目を剥く立派な逸物があらわれた。幅も厚みも長さもふてぶてしいほどのボリュームで、カリの発達した肉厚の亀頭は、見事としか言いようがない。仕事柄、男の裸は見慣れているが、クニさんは身体が震えるような興奮を覚えた。
我に返ったクニさんは、自分も手早くユニフォームを脱いで、素っ裸になった。それから客をバスルームに誘導した。

大きな体にシャワーをかけてやりながら、クニさんはいぶかった。大概の客なら、クニさんの全裸姿を見て、好色そうに舌なめずりをする。積極的な客は、すぐクニさんの丸っこい性器に手を伸ばしてきたり、ふくよかな尻を撫でまわしたりする。しかしこの客は何の反応も示さないのだ。
ここがどういった類いのマッサージ店か、知っているのだろうか?
表向きは男性専科のマッサージ店だが、その実、男好きの男たちがひとときの快楽を求めてやってくる、特殊な店だということを。

男はふらりと店に入って来て、たまたま空き番だったクニさんが応対した。
クニさんは、売れっ子のマッサージ師だった。男を喜ばせるテクニックにかけては、店内一番の技術を持っている。加えて愛嬌のある容貌や体つきにも人気があった。
大きく後退したおでこ、人の良い田舎の親父といった風貌――中背小太りの体型に張りのあるきれいな肌――むっちりと肉が詰まった丸っこい尻。半分薄皮をかぶった太い男根と丸々としたピンクのタマタマ――。それらすべてが、男たちの好き心を誘う。
しかし今日の客は、そういったことに全く無頓着のようだ。
試しにクニさんは、どんなサービスがいいか、客の希望を聞いてみた。
「南米から久しぶりに日本に帰ってきた。旅の垢と疲れをきれいさっぱり流したい」
男はのんびりとした声で言った。親しみを覚える、耳に心地よい声だった。

客をバスルームの寝椅子に、うつ伏せに横たわらせた。石鹸を手の平で泡立たせ、よく発達した肩から肩甲骨にかけて塗りつけながら、じっくりとマッサージをしてやる。
意外にも柔らかい筋肉だった。それでいて底太い逞しさがある。
「お客さまは、何かスポーツでもやられていたのですか?」
クニさんは思ったことを口に出した。男は重ねた両手の甲に片頬を載せて、のんびりとした口調で言った。
「大昔、野球をやっていたけど――あ、俺のことは、ケンと呼んでいいよ」
「ケンさんですか――じゃあ、私のことはクニと呼んでください」

肩の肉を揉みほぐし、掌の付け根に体重を乗せて、背骨伝いに押し広げていく。ついで臀部の膨らみを揉みほぐす。
今度は客を仰向けにさせた。
クニさんは手の平で石鹸をこすりつけながら、客の股間にちらっと目を走らせた。少しは変化があったかと思ったが、興奮した兆候は少しも見あたらない。それが、彼の自尊心を少し傷つけた。
それにしても、平常時でも、見事な逸物だった。太さや長さ、カリの発達具合を含めて、クニさんがこれまで目にした中では最高と言えるほど、見事な形をしていた。
客は眼を閉じて、おとなしく横たわっている。白髪の筋がある黒髪に、よく日焼けした面長の顔。太い鼻梁と重厚な顎に比べ、口はやや小さめだった。
全体の印象は、自由人らしい野性味にあふれていた。

クニさんは、びっしりと黒い体毛で覆われた分厚い胸板から、少し丸みを持ち始めた腹部へと石鹸を塗りつけ、手の平で摩擦した。ついで客の腕を自分の脇腹に抱えて、手際良く揉みほぐした。
たいがいの客なら、このあたりでクニさんの体を触ろうとするのだが、男は気持ち良さそうにあくびをするだけで、いたずらをしようとする兆候はまったく無い。
やっぱりノンケなんだ――。
クニさんは少し落胆したが、気を取り直して男に声をかけた。
「お客さまは――」
と言いかけて、訂正した。「――ケンさんは、ここに来られるのは初めてですか」
「ああ――」
口に手を当てて、男は軽くあくびをした。
「それにしては、マッサージを受けるのに慣れていらっしゃる」
「中国で何度か銭湯に行ったことがあるよ。昨年も上海に行ってきたばかりだ」
「こちらと同じようなものですか」
「ああ――体を洗う、垢を擦る、爪切り、マッサージ――なんでもやってくれるよ」
「へーえ――よく外国旅行をなさるのですか」
「ああ――旅行と言っても、金をかけない貧乏旅行だ。おれはフリーのカメラマンでね」
そこで目を開けて、初めてクニさんの裸に
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