2月某日、暖かい陽気に誘われて梅の花を見に行った。武蔵一宮・氷川神社そばの大宮第二公園は、私の住まいから自転車で30分ほどのところにある。
園内に入ると、まず梅の花の馥郁とした香りが漂ってくる。尾形光琳の紅白梅図が目に浮かぶような、高雅な香りである。
花の咲き具合は平年より早く、蝋梅・紅梅・白梅・枝垂れ梅、と全種類の梅がほぼ満開状態で咲き誇っていた。とくに、ここの蝋梅の2本の木は遅咲きなのか、他の梅の花と同じ時期に咲いている。先ほどの香りはこの蝋梅だった。
園内は梅まつりの期間中で、平日だと言うのに多くの人々で賑わっていた。
現代では、花見と言えば桜を連想するが、奈良時代は梅の花を観賞することを言った。そして梅と言えば、菅原道真を祀る天満宮を思い浮かべる。福岡の太宰府天満宮、京都の北野天満宮、東京の湯島天神も毎年、梅祭りをやっている。私は福岡出身なので、太宰府天満宮に一番思いが深い。
さて、園内を歩く客はシニア層が多く、のぼり旗を立てた一行や、俳句の会らしきグループが目につく。
公園の端に行くと、帽子をかぶったお爺ちゃんが大きなカメラを構えて、梅の花を撮影していた。それを背後からおだやかに見守っている、連れのお婆ちゃん。なんともほのぼのとした光景である。
花見のあとは、全国陶器市なるテント会場を冷やかし半分に見てまわり、気に入った柄のお茶碗があったので、つい衝動買いしてしまう。
帰りは氷川神社沿いにある蕎麦屋に入って、遅い昼食をとった。
ふとテーブル横に立掛けられていた品書きを見ると、『神亀』という文字が目に飛び込んだ。私のハンドルネームと同じこの『神亀』は、埼玉の代表的なお酒の銘柄である。
(私はシンキ、お酒はシンカメ)
蔵元の神亀酒造は、全量純米酒の先駆けとして知られ、全国の蔵元の中でも特異な存在感がある。地酒ファンであれば、一度は聞いたことがあると思う。
私はお酒(の誘惑)に弱いものだから、さっそく1本注文し、少しぬるめの燗にしてもらった。
良い酒は冷やで、とよく言われるが、私は腹に優しい燗で飲むのが好きである。もちろん焼酎もお湯割り。
この『神亀』はどちらかと言うと辛口だが、ぬる燗にして飲むと、口当たりが柔らかくなる。口の中で旨みがふんわりと広がって、胃の中で吸収が早いので、心地よく酔える。
いい気分でいると、斜め向かいの席に、老夫婦が腰かけた。
頭の薄くなったお父さんが、体型といい風貌といい可愛らしくて、私好みである。顔艶が良いところから、体のほうもさぞかしきれいな肌をしていることだろう、と想像する。
思いは移ろい、以前ある酒蔵を見学したときのことを思い出した。
5人ほどの蔵人たちが上半身裸で作業していたが、杜氏と思われる50歳前後のひとりの男性が、ことさら私の目を惹いた。やや小太り気味の肉体をしていたが、その肌の美しいこと――。長年、酒麹を吸収していると、こんな肌艶になるのかと思うほど、色白でしっとりと潤っていた。
こんなことを考えるなんて――もうすぐ春ですね。恋をしませんか?
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