(エピローグ)

(エピローグ)

神山一郎と今井京子は、初夏の陽光に包まれた庭園に出て、ガーデンチェアに腰掛けていた。下の孫の誕生日に、京子が早紀を連れて一郎の屋敷を訪れたのだ。
「早紀さんは子供ができたそうですね。予定日はいつですか?」
一郎がおだやかに話しかけ、京子はしっとりとほほ笑んだ。
「来年1月の予定ですわ」
「それはお楽しみだ。子供は多いほうがいい――」
京子は、かつて自分が密かな思いを抱いていた男を、まぶしそうに見た。その男は今、髪に白いものが目立ち、年相応にすっかり温厚な顔つきになっている。それでも、彼女が若い頃に胸をときめかした、涼やかな瞳は昔のままだった。
「尚子も予定は10月でしょう。一郎さんも先々お楽しみですわね?」
「ああ――剛のやつ、結婚前にけしからんことをして」
「いいじゃないですか。若い人たちは、あまり慣習にこだわりませんから」
「ほう、京子さんはお若い考え方をされるのですね」
一郎の言葉に、京子はめずらしくはにかんだ表情をした。
「あら、いやですわ。こんなお婆ちゃんをからかったりして」
「お婆ちゃんだなんて――。いや、あなたはお若い。それに、とてもお奇麗だ」
「そんなお世辞を言われると、私も本気にしますわよ」
「いや、私は心底そう思っているんです。あなたは本当に魅力的な方だ」
一郎は熱っぽい口調で言った。
そこで二人は顔を見合わせて、恥ずかしそうに微笑んだ。

「あら、二人とも初な恋人同士のよう――愛の語らいでもしていらっしゃるの?」
いつのまにか尚子が来ていた。その後ろには飲み物を載せたトレイを押す早紀がいた。
「尚子、親をからかうものじゃありません」
京子がうろたえて、娘をにらみつけた。
「あら、お母さま、お顔が赤いわ」
「お姉さま――」
背後から、早紀が姉をたしなめた。
「まあ、二人とも、ここに掛けなさい」
一郎が若い二人に椅子を勧めた。二人が腰掛けると、尚子に向かって聞いた。
「子供たちはどうしているんだね?」
「近くの公園に行ってますわ。宮内が一緒です」
「子供たちはどうなの――剛さんと」京子が聞いた。
「新しいお父さんに、けっこう馴染んでるみたいよ」
「そう――それはよかったわ。で、剛さんは今、どこに行ってるの?」
「あら、お母さまはご存じなかったの?義彦さまとお客さまのお宅に出かけてますわ」
京子は甥に社長の座をゆずって、自分は会長職に退いていた。
「そう。お休みの日だというのにご苦労さまね。でも、足のほうは大丈夫なの?」
母の言葉に、尚子があっけらかんと笑った。
「あら、お母さま。剛は少々のことで、家にじっとしている男じゃないわ。それに、お仕事とは限らないわ。案外どこかで浮気でもしてるんじゃないの?」
京子は娘の言葉にあわてた。
「あなた、自分の主人のことを、何てこと言うの」
「いいのよ。私と剛は結婚するとき約束したの。子供たちを不幸にすることだけは、絶対にしない。それ以外はお互いに干渉しないって」
「でも、あなた、そんなことって――」
京子は唖然として、二の句が告げなかった。
尚子は明るく笑った。
「剛が真面目人間になるなんて、はなから期待していないわ。あの人の浮気性は、治りようがないもの」
「私もそう思う」
横から一郎が言った。「だいたい剛は、一人よがりで、わがままな男だ。その点、尚子さんには感謝しているよ。あんな男を、拾ってくれたんだから」

尚子と早紀が、顔を見合わせた。
京子が、その場をとりなすように言った。
「あら、一郎さん。剛さんは行動力のある立派な男性ですわ。今回の事件だって、彼のお陰で解決したのですから」
一郎は鼻を鳴らした。
「私は剛に対して、あなたとは別の考えを持っていますが――まあ、いいでしょう」
そこで物静かに聞いている早紀のほうを見た。「それにしても、早紀さんの旦那さまはよく出来た男だ。性格がまっすぐで、好感が持てる。あんな男を、真に実力のある男と言うんでしょうな」
「あら、伯父さま――誉め過ぎですわ」
早紀が恥ずかしそうに微笑んだ。
「一平くんはどこに行ってるの?休みに二人が一緒でないなんて珍しいな」
「一平さんも仕事なんです。東都美術館の篠山館長のところに行っています」
早紀はそう言うと、夫の帰りを待ちわびるように、遠くを眺めた。

剛は今井社長といっしょに、アルファ商事の白取会長の自宅を訪れていた。今井が白取会長と面識があったので、取り引きのお願いで一緒に来たのだ。
「ほう、きみが神山剛くんか。惚れ惚れするようないい男だな」
白取会長はソファーに腰掛けると、泰然として剛を見た。「きみのお父さんも大きい方だけど、きみも背が高いな」
剛はつい先日、神山家に入籍したばかりだった。白取会長と父のつきあいが深そうなようすに、彼は内心いやな予感がしていた。
「ところできみ
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