(7)
貝山は、心地よい疲れに身を任せていた。鼠蹊部に少し鈍痛を覚えたが、若い女を好きなように翻弄できて、満足していた。
彼でさえ手を焼いた男勝りの女、今井京子の娘であり、彼の思い通りにならなかった男、神山薫の女房だということが、情事に刺激を添えていた。
彼はゆったりと女のほうを見た。
「どうだ。わしの相手をしたら、もうおまえは、並みの男じゃ満足できないぞ」
女は横たわって、なんの反応も見せなかった。
貝山はフンと鼻を鳴らすと、ニンマリとほくそえんだ。
「しかし、おまえの母親も良かったが、娘のほうがずっといいのう」
女がわずかに反応した。彼女はものうげに上半身を起こすと、彼のほうを見た。
貝山は好色そうに笑った。
「驚いたか。おまえの母親も男日照りだったからな。わしが突っ込んで、潤わせてやったんだ」
彼はくっくっと喉を震わせた。「おまえの母親のよがり声を、聞かせてやりたかったぞ。わしの体の下で、ひいひいと泣きおって――ところで喉が渇いた。冷蔵庫にビールがあるはずだ。持ってきてくれ」
女はのろのろと起き上がると、ビールを取りに行った。形のよい尻が、歩くにつれてなまめかしく揺れ動いた。その後ろ姿を見て、彼はニヤリとほくそ笑んだ。
(これからも気が向いたら、ちょくちょく可愛がってやる)
女が戻ってきたとき、両手に琥珀色の泡立つグラスを持っていた。貝山はグラスを受け取ると、それを掲げた。
「おまえと母親に乾杯だ」
彼はビールを一息にあおって、顔をしかめた。ビールは妙な味がした。
「なんだ、これは?」
「あら、どうなさったの?」
女のほうを見ると、女は手にしたビールをうまそうに飲み、彼に向かって微笑んだ。
「何ともないじゃない」
貝山はにわかに息苦しさを覚えた。胃の腑がぎゅっと縮むような痛みが走った。彼はベッドの上で、苦しさにのたうちだした。
神山尚子は、国会議員の太った体が苦悶に捻じ曲がるのを眺めながら、冷静な口調で話しかけた。
「先生、どうなさったの?さっきは物足らなかったから、もう一回やろうと思っていたのに。それじゃ出来ないわね」
「きっ、きさまっ!」
貝山は、女に掴みかかろうとして、再び襲った激痛から仰向けに倒れこんだ。膨らんだ白い腹が、一度、二度と痙攣した。苦悶する彼の耳に、女の声が聞こえた。
「死ぬほどの猛毒じゃないわ。私は、おまえのように人殺しじゃないからね。でも、せいぜい苦しむがいいわ。夫のかたきよ」
そう言うと、尚子は、バッグから小さな布きれを取り出した。彼女は貝山の顔の前で、その布きれを広げた。黒い花柄レースの女性用パンティだった。
「ほうら、可愛いでしょう。先生のために特別選んであげたのよ」
彼女は議員の足にパンティを通し、苦労して引き上げた。太った体に小さなパンティが食い込み、シースルーの布地に性器が透けて見えて、何とも不格好な姿だった。
彼女は次に、マジックインキを手にすると、太った腹に黒々と、「女たらしのブタ」と書きなぐった。作業が終わると、尚子は出来栄えを吟味した。
「あら、先生。とてもセクシーなお姿ね」
それからカメラを構えて、議員の醜い姿を何枚か撮った。
「はい、記念撮影はおしまい。先生、これからは一切、私の家族やお店に構わないでね。さもないと、先生の楽しい写真がばらまかれるわよ。いい、分かった?」
貝山は遠のく意識の中で、わずかにうなずいた。その顔は一面、脂汗が浮かび、激しい苦痛にゆがんでいた。
貝山のもとから去った後、尚子はあてもなく夜の町をさまよった。
勝利感はなかった。ただ空しさだけが残っていた。どんなことをしようと、薫は戻ってこないのだ。
(いっそのこと、あいつを殺してしまえばよかった――)
貝山のことを思うと、ふたたび冷たい怒りが込み上げてきた。
気がつくと、四ッ谷駅の近くに来ていた。橋の下で、オレンジカラーの電車が通り過ぎた。彼女は橋の欄干に寄りかかって、ぼんやりと線路を見下ろした。
もうどうなろうと構わない気がした。これまでは、銀座の店を切り盛りすることに生きがいを見出してきた。その情熱も、もはやない。子供二人も使用人に任せっきりだ。
(私、どうなってしまったんだろう――)
また足元で電車が通過した。線路が彼女を誘うように、鈍い光を放っていた。一瞬、彼女の脳裏に、薫ののんびりとした笑顔がよぎった。
(あなた、あの世でも浮気をしていないでしょうね)
彼女はフッと微笑んだ。それから橋の縁石に片足をかけた。
「どうかしましたか?」
背後で男の声がした。
振り向くと、二人連れの警官がこちらを見ていた。
「なんでもありません」
尚子は縁石から足を下ろすと昂然と胸をそらし、足早に歩き去った。
今井京子は仰向けになって、顧問弁護士のぽってりとした体を受け入れていた。
ちっとも燃え上がらなかった
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