(3)

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3人は会社に戻っていた。
剛の顎は、赤く腫れ上がっていた。早紀がタオルを濡らして持ってきた。それを受け取り、顎に押し当てながら剛が言った。
「それにしても強烈なパンチだったぜ。顎が吹っ飛んだかと思ったぞ」
「すみません――」
一平は恐縮して、小声で言った。
ベンツを運転して会社に戻る途中、一平は事情を聞いていた。
(大変な勘違いだった。早紀さんを救ってくれた人を殴るなんて――)
彼は自分のしでかした過ちの恥ずかしさに、消え入らんばかりだった。
「気にするな。これでおまえが、どれだけ早紀を愛しているか、よく分かった」
榊原の言葉に、早紀が恥ずかしそうに頬を染めた。

そのとき、藤田会長が部屋に入ってきた。
「ああ、無事だったか。よかった――」
彼は心配そうに、早紀のほうを見た。
剛が声をかけた。
「あれ、会長。まだ会社に残っていたのですか?」
「それはそうだよ。戻ってみると、早紀さんの姿が見えない。それに運転手は、きみが車を運転していったと言うし――」
「それで――警察には連絡したんでしょうね?」
剛の質問に、藤田はちょっと躊躇した。
「いや、連絡していない。――事情がよく分からなかったからね」

剛は、会長の顔を観察するようにじっと見た。それから立ち上がった。
「会長、ちょっとお話があります」
彼は会長の肩に腕を回すと、ほかの二人を残して、部屋の隅のほうに歩いていった。藤田は従順についてきた。
「さっき男たちが、早紀を誘拐しました」
剛は、早紀と一平のほうに背を向けたまま、会長にささやいた。肩に回した彼の手が、首筋にいき、ぐっとつかんだ。その苦痛に、藤田が息を詰めた。
「誰の指図だ?」
剛は低い声で言った。
「きみ、何のことを言ってるんだ?」と藤田会長。
「とぼけるな。早紀は男たちに犯されかかったんだぞ。ビデオカメラの前でな」
「――!?」
「早紀を家まで送ると誘っておきながら、都合よく忘れ物をしたなんて、おれはだまされんぞ。誰に頼まれた?」
藤田はもがいて、剛の顔を見上げた。小さな目がしばたいて、口元が震えていた。
「きみは何を言ってるんだ!」
「じゃあ分からせてやる」
剛は会長の襟元をつかむと、その小柄な体を引き上げた。

「榊原さん、何をするんですか!」
それまで不審そうに様子を見ていた一平が、叫んだ。
「ちょっと会長の物忘れを治してやってんだ」
剛は振り返りもせずに言うと、会長にむかって顔をぐっと近づけた。
「質問はふたつだ。それに答えなければ、おれはすぐ警察に電話をする」
会長の充血した顔が恐怖にゆがんだ。涙の滲んだ小さな目が、逃げ場を失ったネズミのようにしばたいた。
剛は老人の体を床に降ろすと、質問した。
「ひとつ。今回の会長の役割は、誰が指示した?貝山か、榎本か?ふたつ。やつらが握っている会長の弱みは何だ?」
「どうしてきみは彼らの名前を――」
そこで剛ににらまれて、藤田は力なく言った。「どうしょうもなかったんだ。それに、私は知らなかった。彼女に何をやろうとしたのか――」
「そんなことはいい。質問に答えろ」
「――榎本だ」
「二つ目の返事は?」
会長の顔が泣き出しそうになった。
「それは勘弁してくれ。どうしても言えない」
「そうか」
剛は、会長の襟元から手を離した。「それを調べるのは、おれよりも警察のほうが得意なはずだ」
彼は会長から離れようとした。
「待ってくれ!」
藤田会長はあえぐように言った。「私の甥のことだ」
剛はゆっくりと振り返った。「甥がどうした?」
「甥は――男色者だ。榎本は、甥が猥褻な行為をしている写真を持ってきて――」
ついに藤田は話しだした。剛に聞かれるままに、知っていることをすべて話すと、急にぐったりとした。
「私は――どうすればいいんだ――」
藤田は、誰に言うともなくつぶやいた。
剛は突き放すように言った。
「会長を辞めることです。会社へのあなたの影響力がなくなれば、やつらも近づいてこない。ただし、会社を辞める前に、やるべきことをきっちりとやってもらいますよ」

3人は近くのコンビニで食料を買い込むと、剛のマンションに行った。それから遅い夕食をとった。
剛は一息ついたところで、一平と早紀に、メディア21やアスカビルで渦巻く陰謀の話をした。死んだ兄に聞いた話や手紙、これまで彼が調べたこと、兄の死についての疑問。彼は知っていることをすべて話した。
当然のことに、二人は動揺した。しかし、早紀が狙われたこと自体が、剛の話が事実だということの証明にもなっていた。
しばらく呆然としていた一平が、ようやく口を開いた。
「榊原さん、警察に届け出ましょうよ。ぼくたちじゃ、とても手に負えない」
剛はのんびりと言った。
「ああ――確かにな。しかし、榎本たちをどんな罪で訴えるんだ?」
一平は驚いた。

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